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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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桜子の章 「第一走者」

桜子の章

生まれて初めて持つリレーのバトンは思ったよりも太かった。鉄の感触が冷たくて気持ちが良い。ああ、夢が叶ったって凄い嬉しかった。けど私の夢はこれで終わり。こっから先は私ひとりのものじゃない。

さっき乃蒼が

「桜子さん、私達、頑張りましょう」

と両眉の端を上げながら言いに来た。私と乃蒼は何をどう頑張ってもみんなの足を引っ張ってしまう。だから私達はみんなに託すのだ。けど託すためにはその資格がいるのをちゃんと知っている。私達は死ぬ一歩手前まで全力以上のものを出さなければならない。そうやったってみんなの足元にも及ばないのだけれど、バトンを渡し託す資格くらいはそれで貰えるかもしれない。

私は生まれてすぐ冠動脈が詰まる病気になった。2度大きな手術をうけ、今では定期的に受診と服薬する事で他の人達と何ら変わりない生活を送っている。阿子という大切な親友が出来て、タカみたいな異才の友達に恵まれて、コースケという優しい彼氏がいる。むしろ他の人達より私はハッピーに生きている。

だから私は病気を言い訳にはできない。私の足が遅いのは私が足が遅いから以外の何物でもない。

だから去年、私のためにタカとコースケがリレーに出れるよう吉岡先生に掛け合ってくれた時は申し訳なさでいっぱいだった。他のクラスに紛れて参加したため私達はリレーに出場できないとわかった時、みんなには言えないけど私は少しホッとしてしまった。私の足の遅さでコースケ達に呆れられてしまうのが怖かった。結局私は自分のためだけにリレーを走りたかったのだ。コースケ達の気持ちをわからない大バカやろーだった。今年、秋達が去年の私達と同じリレーに出ようとしていると聞いて驚いた。そして合同で出ようと決まった事にはもっと驚いた。聞けばそのきっかけはあの乃蒼だったという。前にタカとコースケが気にかけていた女の子。ドーナツ屋で会った乃蒼は運動音痴で、少しだけおっとりしていて、私はその少女が自分に似ているかもしれないと思った。何故かそれがとても嬉しかった。秋の大切な友達…私はそれを恋だと思いたくはない。それはきっと、嫉妬という感情からくるものかもしれない。

今私はこれからリレーを走る。去年は私の夢のために走りたかった。だから走れなくなってホッとした。けど今年は違う。今年は乃蒼と、私を支えてくれる友達と、大好きな後輩のために走りたい。

スタートのピストルがなる。

私はその音で本物のピストルの弾を想像する。

わかってる、私はそんなに早くは走れない。

けどイメージは大事。

待ってて阿子。今すぐ行くから。

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