阿子の章 「第二走者」
桜が必死に走っている。初めて桜の走りを見た人はきっと「遅っ」と笑うのだろう。けど私は笑わない。友達だから、親友だからだけじゃない。ドーナツ屋で集まってから私と桜は近所にある大学のグラウンドの隅っこでリレーの練習を毎日していた。大学の陸上部の人が私たちに声をかけて来て早く走るコツなんかを丁寧に教えてくれた。けど桜は速くなることはできなかった。桜は心臓の手術をしている。今は健康。けどいつ再発するかわからない怖さと毎日戦っている。全力で走って、また冠動脈が詰まったら…という怖さはいくら健康だよと医者からのお墨付きがあってもぬぐい去ることなんか出来ない。
以前私が桜の家に泊まりに行った時、家族が撮った桜の写真の多さに若干引いた。けどその枚数は桜がいつ病気が再発するかわからない家族の怖さと比例している事に私は気付いた。桜は1人じゃないことを知っている。だから臆病にもなる。自分1人の悲しみでは終われない。残される家族の事を思えば自分の体に慎重になる、私はそれを強さだと思う。
だから桜!そんなに走っちゃダメ!もっと遅くていいよ!あんたの足の遅さは私が全部取り戻すから。そしてあんたに似ている乃蒼の分も稼いでみせるから。
乃蒼…か笑。似てないようで似てるよね、あんた達笑。タカが今年に入ってすぐに乃蒼に手を出そうとしたヤンキーどもシメに行った時は驚いたね。後輩の友達のためって、私達と接点遠くない?って思ったね。あの時はタカってホントに秋のこと好きなんだなぁって思ったけど、もしかしたらタカは秋の話だけで乃蒼は桜に似ているのを見抜いていたのかもね?あいつ天才だから笑。近い将来私たち4人の関係がどうなるかはわからない。今と変わらないかもしれないしお互いバラバラになっちゃうかもしれない。けど桜、私はあんたと友達のままがいいな。ベクトルは違うけど、エネルギーはタカへのと同じくらいあんたに注いでるからね。
「阿子!ごめん」
なに謝ってんのよ。いいからそのバトン私にちょうだい。私ちょっとこいつらブチ抜いてくるから!




