星月夜の白うさぎ6
白狐さまのおかげで、何とか持ち直したうさぎのシロを連れて、おばさんの所へ戻った。
心配でたまらなかったのだろう、家の外で待っていた。
「おばさん。シロ、大丈夫だったよ。悲しくてご飯食べられなかっただけだって」
「シロも悲しかったの……?七糸がいなくなったこと、わかるのかしら」
「うん。動物ってね、話せないけどちゃんとわかるんだよ。心で通じ合ってるから。七糸はこれからずっと傍にいるから、心配いらないよ」
おばさんは少し不思議そうな顔をして、おれを見つめていた。
「七糸ね、おばさんのことすごく好きだったって。自分の代わりにシロのこと、お願いしますって言ってたよ」
おれは小さなうさぎのシロをおばさんの腕に預けた。白い宝珠が赤い糸で首にぶら下がっているのをおばさんは見つけた。
「ナイトくん。これは……?」
「おまじないの宝珠だよ。おれ、神社に行ってもらって来たから大切にして。きっと、これからずっとおばさんを守ってくれるよ」
「ナイト君は……不思議な子ね……」
宝珠に触れたおばさんは、何か感じたのだろうか。 シロを抱きしめたおばさんはほろほろと涙を零し、小さく「七糸……」と口にした。
おれ、オージービーフの恩義はきっと返す。
もう、話はできないけど七糸の「身体」を連れてきてあげる。
おばさん、待っててね。
おれは、おばさんの背中に心でつぶやいて、一目散に駆けた。
文太の考えたシナリオ通りに事は進んだ。
警察に駆け込んだ夏輝が、パトカーに乗って河原にやってくるのを、わんこに戻ったおれはいい子で待っていた。
辺りをくんくんと嗅いでみたり、ほんの少し前足で土を掘り返したりして、ちびの小犬の演技をしてた。
飼い犬の様子を伝える夏輝の訴えに、最初は全然取り合わなかった警察官も、そこいらの草だけが生えていないこと、重機でならしたような跡があること、烏の群れが集まっているのは何かが不法投棄されているんじゃないですか……と、付け加えたら、腰を上げた。
おそらく行方不明の七糸の事件が脳内に浮かんだのだろう。
「わんっ!」(夏輝~~!!)
「ナイト、おまわりさんに来てもらったよ」
犬型になると嗅覚が鋭敏になり、辺りにはすえた血の匂いが漂っているのに気付く。
おれが鼻面を突っ込んで教えた窪みを、持ってきたスコップで掘り始めた警察官は、職業上知っている死臭に気づいたらしい。
顔を歪めると、すぐに応援を求める無線を飛ばした。
青いシートに包まれた行方不明の中学生を発見するまでに、それほど時間はかからなかった。
たくさんの赤色灯が回り、やじうまが見守る中、無言の七糸は検死を受けるため救急車に乗った。
ひき逃げされた後、無残に尊厳を踏みにじられた七糸。 まだ息があったのに、埋められた七糸は苦しんで息絶えた。
掻いた爪には、血で染まった土くれがつまっていたそうだ。
酷いことをするね。
使用された特殊な重機の轍から、犯人はすぐに捕まるだろうと、警察官は告げた。
ちっぽけなうさぎのシロは、大好きな飼い主の帰りを待ちわびて、当てもなく彷徨う内、とうとう悪霊になりかけた。
七糸はもう大きくはなれないけど、シロと一緒に生きてゆく。
おばさんも、きっと前を向いて生きてゆけるはずだよ。傍で二人が見守っているから……
さよなら、おばさん。
さよなら、七糸。
さよなら、シロ。
おれは、もし夏輝が車に轢かれて埋められてしまったら……と想像して、ちょっとだけ泣いた。
そんなことになったら、おれは怒り狂って人間を呪い、ちょっぴり持った狗神の力を暴走させていただろう。
シロがおかしくなりかけた気持ちもわかる。
大好きな人を失うのは、きっと生きながら半身をもぎ取られるほどの痛みを伴うと思うんだ。
全てが終わった後、おれはお世話になった御礼に上等の御揚げを持って、白狐さまの祠に報告に行った。
鳥居のところで白狐さまに声を掛けると、肩で息をしながら現れた。封印された身で霊魂を依らせるのは大変だったみたいだ。
「ごめんね。白狐さま、こんなに疲れ果てて……。うんと、迷惑かけてしまったんだね」
「他でもない。お前の願いだからな」
乱れた銀色の髪が数本額にかかり、髪をかき上げて潤んだ瞳は凄絶に美しく、成犬になったばかりのおれを悩殺した。
「白狐さま~。おれ、もう成犬になったからさ、父ちゃんみたいに、白狐さまをあんあん言わせてもいい?白狐さまってば、やつれてもすっごく綺麗で色ッぺ~からさ、おれ、今すぐ抱きたい。おれの前しっぽ、白狐さまを見るとちょっとおっきくなるの。どうしてかなぁ」
「労わってくれるのではないのか、お前はもう~……。仕方ない、おいで」
上気した頬を、なお強い薄紅に染めて神さまは、着物の裾を開いた。
中心にある紅色の前しっぽは、ふるふると零れそうに露を戴いて、おれにおいでと言っていた。
言われなくても、方法は「本能」が教えてくれる。 おれは迷うことなく、神様の羽二重を背後からそっと抜いた。
くん…と、芳しい香気が襟足から立ち上る。
「白狐さま。いただき……よろしくお願いします」




