星月夜の白うさぎ4
「ただいま~!」
「ナイト、どこ行ってたんだ。とっくに飯の時間過ぎてるのに」
「お肉もらった~!」
おれは貰って来たタッパーを広げながら、今日の不思議な出来事を夏輝と文太に話した。
川べりで妙な奴に会ったことと、そいつの家に行ったこと、そいつが煙のようにいきなり消えたこと。
重機で均されたような土饅頭の所に、佇んでいた悲しそうな奴のこと。
そして、オージービーフのおばさんの話。
食べながら話していると、文太が話を止めた。
「……おい、ナイト。それって色々やばい話じゃないのか?」
「やばい?」
「河原の土饅頭って、墓なのか?」
「そうじゃないかな、悲しそうな顔でこっちみてた」
「お前、霊とか見えるの?」
「当たり前だろ。わんこだもん。神様とだって話できるぞ」
「すごいな……。そのナイトの方を見てたってやつさ、この肉をくれたおばさんの探している子どもじゃないのか?」
「そう言えばなんだか、似てたよ」
土饅頭に向かって「ナイト」って声を上げてわんわん泣いてたやつの気配は、どうみても人間じゃなかった。
「もし……もしね、埋まっているのが、おばさんの探している七糸だったらおれはどうしたらいい?消えた奴は七糸って泣いてたよ。たぶんあいつも人間じゃなかったと思うけど」
肉をつつく、夏輝と文太の箸が止まった。
次の日、二人が言うようにタッパーと、お返しのりんごを二個持っておれは人型になり、おばさんの家を訪ねた。
昨日、長い時間人型だったから、ちょっとふらふらする。
身体が大きくなると「燃費」が悪くなって疲れやすくなるんだ。
玄関のベルを鳴らしたら、中からおばさんの叫び声が聞こえた。
「シロ!どうしたの、シロッ!?しっかりして!」
ただ事ではない様子に、おれは飛び込んだ。
「おばさんっ。どうしたの!?」
おばさんの手の中に、息絶え絶えの小さな白いうさぎがいた。
思わず縋るような目でおれを見つめたおばさんは、すごく慌てているように見えた。
「ああ、ナイトくん。この子ずっとご飯を食べなくて心配していたのだけど、様子が変なの。いろいろ電話して病院を当たってみたのだけど、うさぎを見てくれる病院がなかなかなくって。血尿が出てすごく具合が悪そうなの……どうしましょう」
そっとタオルを敷いた籠に入れて、おばさんはこれから病院を探して連れて行くのだという。
おれは直感した。
こいつ、昨日の河原でおれに抱きついてわんわん泣いた奴だ。
うさぎだったのか。
だとしたら、白狐さまのところに行ったほうが話が早い。
「おばさん、これ昨日のタッパーありがとう。おれ、いい病院知っているから連れて行くよ」
「迷惑じゃない?お願いしてもいいのかしら」
「場所を説明するより、おれが走った方が早いよ」
任せてと言い置いて、おれは籠を受け取り必死で白狐さまのところへと一目散に駆けた。
はっはっと、短く激しい息遣いが、うさぎの切羽詰まった様子を物語っている。
状態が尋常ではないのは、おれにでもわかった。
命の消えかけた小さなうさぎが、おれを見上げて「七糸だ……」と、嬉し気に呟いた。
縋るようにおれの名を呼んだわけじゃない。
こいつは、早く命を手放して、死んだ飼い主の元へ行きたいんだ。




