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2. 夫の真実

ちょっとダークになってしまいました。

人が死にます。苦手な方はお戻り下さい。

4000字です。


よろしくお願いします。

紫煙を漂わせて永い時間の中、訪れるお客様を待つ。お客様の望む真実が私の糧。さて、今日はどんな物語を紡いでくれるのだろうか。


ドアベルが来客を告げる。帽子を深くかぶった貴婦人が入ってくる。


ーー ◇ ーー


噂だけを頼りに辿り着いたこの店。見たいものを見せる夢玉屋。真に願うものにしか扉は開かないという。


「夢玉を…一つ頂けませんか?」


店内はテーブルと椅子二脚があるだけで他に何もない。椅子の一つには老婆が煙管を弄びながら腰掛けていた。


「そこに座りな」


わたくしが座ると老婆は虹色の飴が入った瓶をテーブルの上に置いた。


「金貨一枚だよ。こいつを口に入れてベッドに入る。それだけで、アンタの見たいものは見られる」

「分かりました」


老婆の前に金貨を一枚置く。


「夢玉の見せるものは真実。アンタはそれを受け止められるかい?」

「わたくしは知らなければいけないのです」

「そうかい。ならいい。気を付けて帰りな」


話は終わったとばかりに煙管で扉を指す。


「ありがとうございました」


老婆に礼を言い店を出る。


手の中に夢玉の瓶を握りしめて。



わたくしは知らなければならない。夫の身に何があったのかを。


わたくしはセレナ・バレル伯爵夫人。一年と三ヶ月前に夫であるリカルドを亡くした。


別邸の寝室で、それも若い娘と心中姿で発見されたのだ。リカルドがわたくしを裏切るはずがない。彼は間違いなくわたくしを愛してくれていたのだから。


あの日は、わたくしの誕生日だったから、彼は『今日は君の誕生日だろう。早く帰るからお祝いをしよう。君を驚かせるプレゼントを用意してあるんだ』そう言って出かけていった。


約束を破ったことのない彼が、早く帰る…そう言ったのに夜半を過ぎても帰らない。リカルドが心配になり人をやって探させた。


結局、その夜は帰って来ず翌日の昼になって、わたくしの元にリカルドが亡くなっているのが発見されたと知らせが入る。


呆然とする私に代わって、家令が葬儀の手配を全て済ませてくれた。土に埋もれていくリカルドの棺をただ見ているしか無かった私の元に一人の男が近付いてくる。


『セレナ夫人、お悔やみを申し上げます。私はリカルドの友人でドルフ・ザンドと申します』

『リカルドの?そうですか。わざわざありがとうございます』

『あのリカルドが心中事件を起こすなんて信じられません。彼は貴女をとても愛していたのに』


ドルフと名乗ったその男は度々館を訪れ、わたくしにリカルドとの昔話を語って帰って行った。


そうして、リカルドが亡くなって一年が過ぎ、喪が明けた頃にドルフはわたくしに結婚を申し込んできた。


『リカルドの愛した大切な貴女を、今度は私が貴女を愛し守りたい。だから結婚してくれないか』


わたくしはすぐには返事をしなかった。どうやら、わたくしはこの男に何か思う所があるらしい。


そうして、わたくしは夢玉を手に入れたのだ。


夜、部屋に戻ったわたくしは夢玉を口に入れベッドに入る。どんな真実が私に襲い掛かるのか怖くはある。でも確かめずにいられない。


すぐに睡魔が襲い、眠りに落ちていく。


…目をあけると、ここには見覚えがある。商会を経営しているリカルドの事務所だ。目の前にリカルドがいた。生きているリカルドだ。わたくしの目から涙がこぼれ落ちる。


だが、目の前にいるリカルドはわたくしに気付く事もなく、わたくしも彼に触れる事が出来なかった。


その時、ドアがノックされドルフが入って来る。


「やあ、リカルド」


「ドルフ・ザンド、今日は君と会う約束はしていなかったはずだが?」

「そんな冷たい事を言うなよ。大事な話があるんだ」


「悪いが今日は妻の誕生日なんでね。もう帰る所なんだ」

「へえ〜、セレナ夫人の誕生日かぁ。俺も何かお祝いしなくちゃな」 


「君からの祝いは遠慮するよ。では失礼する」

「まあ、待てよ」


ドルフはリカルドの腕を掴んで引き止める。


「なんだ。しつこいぞ」

「ちょっと話だけでも聞いてくれよ」

「…なら、早く話せ」

「ここじゃあ、ちょっと…」


「だったら今度にしてくれ」

「…お前、近くに別邸を持ってたよな?そこで話そうぜ」

「…分かった。十分だけだからな」


別邸はリカルドが若い娘と亡くなった所だ。行かないで!と叫ぶがリカルドには聞こえない。


リカルドとドルフは別邸に向かった。別邸に着くとドルフはリカルドの制止を振り切り寝室へと向かう。


「なんなんだ!ドルフ!こんな所に来て」


寝室にまで入り込んだドルフにリカルドは怒りを顕にしていた。


「なあ、リカルド。セレナ夫人を俺にくれないか?ずっと好きだったんだ」

「そんな事出来るはずないだろう!」


ドルフは盛大な溜息を吐いた。


「だよな。お前ならそう言うと思ってたよ」

「意味がわからない。何が言いたいんだドルフ?」


「もういいさ。おい!入ってこいよ!」


ドルフが叫ぶと一人の若い娘が入って来た。いつの間に忍び込んでいたのだろう。


「リカルド様、私ルーチェ・サファーですわ。ずっと貴方様をお慕いしておりましたのに、セレナなんかと結婚するなんて酷いですわ」

「私は君を知らないのだが」


「いいんですのよ。リカルド様は私の物になるんですもの」

「ドルフ、どう言う事だ!」


リカルドがドルフに問いかける。その時、ルーチェは隠し持っていたナイフでリカルドの脇腹を刺した。


「なっ…」


刺された脇腹を押さえながらリカルドは膝をつく。血が滴り落ちる。


「これでリカルド様は私の物ですわ!セレナなんかに渡さないわ!あははははははは!」


ルーチェは狂ったように笑い続けている。ドルフはルーチェが持っていたナイフを取り上げ、そのままルーチェを刺した。


「ぐっ、ドルフ…?どう言う事?私を殺す気だったの?…騙した…のね」

「当然だろ?」


ルーチェは静かに倒れて動かなくなった。


「ドルフ!お前は!」

「ああ、俺はずっとお前が嫌いだった。学生だった時から、いつもお前は俺の前にいた。目障りだったんだよ!おまけに俺が好きだったセレナも奪った」


ドルフはリカルドを見下ろし、手に持ったナイフをリカルドの心臓に突き立てた。抵抗する間もなく刺されたリカルドは崩れ落ちる。


「かはっ」


私の声無き悲鳴が上がる。


「さよならだ、リカルド。セレナは俺が貰う」


倒れたリカルドから最後の言葉が紡がれる。


「…セ…レナ、愛し…てる」


ああああああああああああああああ!


リカルド…わたくしだって愛してるわ!!


ドルフは既に事切れた二人をベッドに寝かせ、二人の手を赤い紐で括り、リカルドの空いた手にナイフを握らせた。


「これで心中の出来上がりっと。二人仲良く地獄に行けばいいさ。これでセレナは俺のもんだ」


吐き捨てるように言ってドルフは寝室から出ていく。


やはり、リカルドはわたくしを裏切っていなかった。あの男、ドルフが貴方を殺したのね。


触れる事は出来ないけれど、青褪めたリカルドの唇に唇を重ねた。



目を覚ますと涙が枕を濡らしていた。


ドルフに復讐する。


でも、私一人では無理だ。家令のハンスに協力を願おう。彼は古くからこの伯爵家に仕える使用人だ。忠義も厚い。


今、見たことを話しても信じてもらえるかは分からない。でも協力してもらうしかない。ハンスを呼び、リカルドに起こった事、主犯はドルフであることを告げる。


「やはり、そうでしたか…」

「ハンス?」

「リカルド様はあのドルフという男を信用しておりませんでした」

「それであの男に復讐したいの」

「かしこまりました、奥様。協力は惜しみません。何なりとお申し付け下さい」


ハンスの協力を得て復讐を実行に移すことにした。あの男はわたくしが結婚を了承すると告げれば早々に屋敷にやって来た。


満面の笑顔でドルフが部屋に入ってくる。


「嬉しいよ、セレナ夫人。いや、セレナ」

「貴方はリカルドが亡くなってから、ずっとわたくしを励ましてくださったわ。だから、貴方と結婚してもいいと思ったの」


ドルフは感極まったようにわたくしを抱き締める。


「ありがとうセレナ!」

「それで、結婚が決まったお祝いにちょっと良いワインを取り寄せたの。乾杯しない?」

「いいね!祝杯と行こう」


わたくしがベルを鳴らすとハンスがワインをワゴンに乗せて部屋に入って来た。


「お待たせ致しました、奥様」

「準備してくれる?」

「かしこまりました」


ハンスはワインの栓を抜きグラスに注ぐ。ハンスはわたくしとドルフにグラスを渡す。


「いい香りだ…」

「記念ですもの。奮発しましたの」 

「じゃあ、乾杯しよう」

「ええ、二人の未来に。乾杯!」

「乾杯!」


ドルフは何の疑いも無くグラスを口にする。その様子を静かに見守っていた。


「ぐはっ、なっ何…?セレナ…?」 


グラスを落とし、口から血を流すドルフを見て笑いが込み上げる。


「あはは、わたくしが貴方と結婚なんてする筈ないじゃない。リカルドを殺した貴方なんかと」


「し、知って…いた…のか?」

「ええ、貴方がルーチェとかいう娘を口車に乗せてリカルドを刺すように仕向けた事もね」


「こっ…の!くそ…アマ!」

「愛しているわたくしに殺されるのだから本望でしょう」


「ぐっ、た、助けて…くれ。俺…が悪か…た」

「嫌よ」


絶望的な顔をして床に倒れていくドルフを冷たく見つめていた。


「ハンス、後始末は頼んだわ」

「かしこまりました、奥様」



翌日の新聞の端に身元不明の遺体が見つかったと小さな記事が載っていた。


リカルドの復讐を果たしたわたくしは親戚の優秀な子供を養子にし跡継ぎとして育てた。その子が成長し伯爵家を渡したらわたくしの役目も終わる。


それまでは生きていることを許してくださいましね、リカルド。


貴方の元に行ったらわたくしを驚かせると言っていた誕生日プレゼントを教えてくださいね。貴方の持ち物からは見つからなかったのですもの。


ーー ◇ ーー


今回は後味の悪い結末になってしまったねえ。それでも真実を望んだのは彼女だ。


今日は苦いタバコを吹かしながら窓の外を伺う。どうやら雨になりそうだ。少し早いが店じまいとしよう。


ここは見たいものを見せる夢玉屋。


貴方様のお越しを心よりお待ち申し上げております。



fin


最後まで読んで頂きありがとうございます。


救いがない…。なんでこうなっちゃったかなあ(笑)


完結設定になっていますが話を思い付いたら追加していきます。よろしくお願いします。

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