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3. 王太子妃の真実

また暗いです。

人が死にます。性行為を匂わす表現がありますが、直接的な描写はありません。苦手な方はブラバでお願いします。

4000字です。


よろしくお願いします。

今日は雨だ。流石にこんな日に夢玉を買いに来る物好きもおるまいて。ここは見たいものを見せる夢玉屋。店を開けるも閉めるも気分次第。


おや物好きが一人やって来たよ。


ーー ◇ ーー


下町の奥の奥、古びた扉があった。


「ここ…なのか?」


扉を開けると煙草の匂いがした。中には老婆が椅子に腰掛け煙管を吹かしている。


「すまぬ。ここは見たいものを見せてくれると聞いて来たのだが…」


「そうじゃよ」

「では、それを所望したい」


老婆は煙管を一口吸って、ふうっと煙を私の方にかけてきた。


「何をする!」

「金貨一枚だよ」

「は?」

「金貨一枚だって言ったんだよ」

「高すぎないか?たかが飴玉一つだろう?」


カンッと老婆は煙管でテーブルを叩く。


「嫌ならお帰り。ワシは慈善事業をやってるわけじゃないんだよ」


「すまない…金貨一枚だな」


老婆の前に金貨一枚を置く。老婆はテーブルの上に虹色の飴玉の入った小さな瓶を置いた。


「アンタはこれを口にしてベッドに入るだけでいい。それでアンタの見たいものは見られる」

「分かった」


「一つ言っておく。夢玉が見せるものは全て真実。アンタはそれを受け止める覚悟はあるかい?」

「…覚悟の上だ」

「ならいい。お帰りはあちらだ」


老婆が扉を指す。


「ありがとう」


私は老婆に礼を言い店を出た。雨はまだ振り続いている。


「寒い…な」



私はこの国の王太子ローランド・モルドー。私には子供の頃から側に婚約者のシルヴィア・ローレン公爵令嬢がいた。学院時代、彼女は優秀で隣にいる私は常に比べられ疲弊していった。


そんな時、男爵家の庶子で貴族になって間もないヒルダに出会った。彼女は貴族令嬢には無い人懐っこさで私の心に入って来る。


顔中を笑顔にし大きな口を開けて笑う。貴族特有の回りくどい言い回しもしない。そんな彼女に私は強く惹かれてしまった。


許されるはずもない関係にのめり込んでいく。ある時ヒルダから学院で酷い嫌がらせを受けているから助けてほしいと懇願された。


調べてみると嫌がらせの犯人はシルヴィアだと報告が上がる。怒りを感じる裏で、シルヴィアがヒルダに嫌がらせをする程に私を愛しているのだと知り、言いようのない優越感を感じていた。


そして、卒業パーティーの場で私はシルヴィアに婚約破棄を言い渡し、ヒルダを妃にすると宣言する。


シルヴィアはそんな時ですら表情を崩さなかった。私を愛しているなら縋れば良いものを『婚約破棄、承知致しました』と言葉を残し会場を去ってしまう。


多少の不安はあるものの国王陛下からヒルダとの婚約を認められ、私の人生で初めての幸福感を味わっていた。


ヒルダと結婚式を挙げ周りから祝福をされ憂いなどあるはずも無い。


そんな時、ヒルダに子供が出来たと嬉しい知らせがあり、跡継ぎも出来たのだから私が王位を継ぐ日も近いと思っていた。だが、生まれてきた息子は王家の色を持っていなかったのだ。


ヒルダは自分の血縁の色だと言うが、信じられるはずもない。


故に、私は真実を知るために夢玉を求めたのだ。



王宮に戻り、ヒルダには疲れたから休むと言い一人ベッドに入る。口の中で夢玉がゆっくりと溶けていく。


私は眠りに付いた。



気が付くと教会の前にいた。ここは町外れにある小さな教会で、ヒルダがよく祈りに来ていた所だ。


『子供の時からずっと、お祈りに行っている教会があるの。偶にで良いからお祈りに行っていい?』


そう言われ断りきれず、ここに来る事を許してしまった。


カラカラと車輪の音がして教会の前で辻馬車が止まり、降りてきたのは平民の服を着たヒルダだった。


「どうして平民の格好など…」


私はヒルダに駆け寄り声をかけた。


「ヒルダ!何故その様な格好をしているのだ!」


ヒルダは何も聞こえていないかの様に教会の中へと入って行く。私もヒルダの後を追って教会に入る。教会の中には誰も居なかった。


祈るでもなく慣れた様子で教会の奥に入って行くヒルダは小部屋にいた男に声を掛けた。


「エイダン!」

「ヒルダ、また来たのか?」

「だって、会いたかったんだもの」

「仕方のない奴だ」


神父であろうエイダンと言う男はヒルダを抱き寄せると口付けをした。


「もっと…」


ヒルダから甘い声が洩れる。


「奥へ行こう」

「ん…」


エイダンに連れられ教会の一番奥の部屋に二人で入って行く。


中に入る勇気が無くて私は扉の前で立ち尽くしていた。間を置かずベッドの軋む音とヒルダの嬌声が聞こえてくる。


私は壁に持たれて座り込み、彼女の声を聞きたくなくて耳を塞いでいた。


どのくらい経っただろうか。事を終えた二人の会話が聞こえてくる。


「エイダン、私ね子供が出来たんだ」

「じゃあ、こんな事をして子が流れたらどうするんだ」

「大丈夫よ。安定期に入ったから貴方に会いに来たのよ」


「へえ…それで、その腹の子は王太子の子かい?」

「馬鹿ね、貴方の子に決まってるじゃない」

「王太子の子かもしれないぞ?」

「ふふっ、女には分かるのよ」


「ははっ、あの王太子も気の毒だな。他人の子を自分の子だと信じているんだからな」

「だって、あんな男の子供なんて産みたくなかったのよ。王妃になって贅沢がしたかっただけだもん」


「それにしても楽しいなあ。俺の子が王族だぞ。王太子の子ならいずれ王になるんだ。笑えるぞ」

「ねえそんな話より、もう一回抱いてよ。次はいつ来れるか分からないんだから」

「いいさ、何回でも」

「エイダン好き」

「俺もだ」


二人は再び抱き合い始めたようだ。


「…ははっ、やはり私の子じゃなかったのか…」


のろのろと教会を出る。私はヒルダに愛されてさえいなかった。


「私はヒルダを愛していたんだ…本当に」


知らず涙が一粒頬を伝って地面に落ちていく。



目が覚めたら虚しさだけが心に残る。


「だが、裏切り者に制裁をしなければ。次にヒルダが教会に行く時がその時だ」


数日後、ヒルダは教会に祈りに行くと言い王宮から出かけて行った。


私は騎士達を連れてヒルダの後を追う。


何も知らず、いつもの様に平民の服に着替え教会の中に入って行くヒルダ。少し時間をずらして騎士達と共に教会の奥へと進む。


奥の部屋からヒルダのあの声が聞こえてくる。


「行け」


静かに騎士達に命を下し部屋に踏み込ませる。


ベッドには一糸纏わぬヒルダとエイダンが抱き合っていた。


「きゃああああ!」

「何だ、お前たちは!」


ヒルダが悲鳴を上げ、エイダンが叫ぶ。一人の騎士が前に出てヒルダに罪状を告げる。


「王太子妃ヒルダ、姦通罪で捕縛致します」


騎士に縄を掛けられたヒルダは騎士達の後にいた私に気付いて助けを乞う。


「ローランド、助けてよ!誤解なの。私この男に無理矢理犯されていたの!」

「なっ、ヒルダ、お前裏切るのか!」

「私は貴方なんて知らないわ!」

「ヒルダ!貴様」


二人の醜い言い争いに私の中にあったヒルダへの愛も情も消えていった。


「平民の牢でいい。放り込んでおけ」

「はっ!」


ヒルダとエイダンは騎士達に縄で縛られ連れて行かれた。



日を置かず、ヒルダの処刑の日が決まった。処刑前日に牢に向かいヒルダと対面する。


「ローランド!助けに来てくれたのね。ここは嫌よ、早く出して」

「君の処刑の日が決まったよ」

「えっ…?どうして!?私、無理矢理あの男に!」

「もう嘘はいらないんだ。王族の姦通罪は死罪だよ。知らなかったの?」

「だから、違うのよ!」


「ヒルダ、息子はあの男の子供なんだよね?」

「違うわ、貴方の子よ!」

「嘘だね。あの男にそっくりじゃないか」

「信じてローランド!」


「信じていたよ。ずっと」

「だったら!」


「君は嘘ばっかりだ。本当はシルヴィアに嫌がらせなんて、されていなかったんだろう?」

「そんな事ないわ。嫌がらせは本当にあったのよ。シルヴィア様が犯人だって報告があったんでしょ?」


「君が金銭を渡して証言させた証人がいたからさ」

「知らないわ!」


「最後に聞かせてくれ。ほんの少しでも私を愛してくれていた?」

「愛してるわローランド!だから助けて!」

「最後まで嘘をありがとう。さようならヒルダ」


ヒルダに背を向けて歩き出したが言い忘れた事に気が付いて振り返る。


「ごめん、言い忘れていた。君の相手は一足先に処刑されたよ。今度こそ本当にさようなら、ヒルダ」

「ローランドおおぉ!」


ヒルダの悲鳴のような叫び声が聞こえるが今度は振り返らず牢を出る。


翌日、ヒルダは最後の慈悲で王太子妃として毒杯を賜わった。


息子は平民として孤児院に預けられる。何も知らないまま平穏に育っていってくれればと思う。



ヒルダは病死とされ、いつまでも王太子妃の座を空けておくわけにいかない私は一つの結論に達する。


「私にはまだシルヴィアがいる。彼女はきっとまだ私を愛しているはずだ」


私はシルヴィアに手紙を出した。次の王太子妃にする為に。婚約破棄をした事を謝れば、私を愛している彼女なら喜んで引き受けてくれるだろう。


だが、シルヴィアから返信は無く代わりに父親の公爵から返事が届く。


『シルヴィアは隣国の公爵家に嫁ぎました。娘は王太子妃として立つには力不足でしたから殿下に婚約破棄されたのでしょう。隣国の公爵家くらいが丁度良いのです』


公爵からの返事を握り潰す。


「なんて勝手な事を…シルヴィアは私を愛しているのに」


私は隣国の公爵宛に手紙を書いた『シルヴィアは私を愛しているのだから返せ』と。


私の手紙に対して隣国の公爵は国を通じて抗議をしてきた『シルヴィアと私は愛し合っている。既に子供もいる。シルヴィアがローランド王太子を愛しているなど言い掛かりも甚だしい。これ以上、妄言を吐くなら帝国として制裁を加える』と。


帝国からの制裁を受ければ我が国のような小国は一溜まりもないだろう。私は父である国王陛下から厳しい叱責を受け王太子も廃されてしまった。次の王太子には弟が立つそうだ。



どこで間違ってしまったのだろう。私は塔の中でヒルダと同じ毒杯を賜る日を静かに待っている。


ーー ◇ ーー


何ともまあ、馬鹿な男だねえ…。真実の先に選んだ未来があれとは。中々に楽しませてもらったよ。


今日の煙草は格別に珍味だね。偶にはこんなのもいいさ。



ここは見たいものを見せる夢玉屋。


貴方様のお越しを心よりお待ち申し上げております。




fin

最後まで読んで頂きありがとうございます。  


今回も救いが無かった…。

唯一、シルヴィアが逃げられた事だけが救いと言えば救いかな。

ちなみに、シルヴィアパパの手紙直訳(笑)

『お前みたいな馬鹿には可愛い娘はやらねえよ!』

です。

ありがとうございました。

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