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1. 婚約者の真実

連載になっていますが、1話完結です。

話を思い付いたら追加して行くオムニバス形式にするつもりです。

3000字です。よろしくお願いします。

下町の路地の奥の奥、ここは見たいものを眠る事で見られる魔法の夢玉を売る店だ。今日のお客様は貴族の若い娘のようだね。彼女が望むものはどんなものか楽しみだねえ…。


ーー ◇ ーー


友人から聞いた見たいものを見る事が出来る魔法の夢玉屋の話。本当かなんて分からないけれど辿り着いたこの店。思い切ってドアを開けてみる。


からん…とドアベルが鳴り、中は薄暗く灯りが一つ、テーブルが一つ椅子が二つ。椅子の一つには老婆が座って煙管を燻らせていた。

  

「あの…ここは見たいものを見せて下さるお店だと聞いてきたのですが…」


「そうだよ」


「なら、見せて頂きたいものがあるのです」

「ああいいよ。そこへお座り」


「あ、あの…」

「話はいいよ。見たいものがあるんだろう?」

「はい」

「一応、断っておくが夢玉で見た事は現実だよ。後悔しないかい?」

「…はい」

「ならいい。夢飴を舐めてベッドに入る。それだけだ。アンタの望みは叶う」


そう言うと老婆は、虹色をした飴が一つだけ入った瓶を差し出して来た。


「金貨一枚だよ」


本当かどうか分からない物に金貨一枚は高すぎる気はしたが、黙って金貨をテーブルに置いた。


「ありがとうよ。気を付けてお帰り」


老婆は金貨を懐に仕舞い、煙管で扉を指す。


「ありがとうございました」


老婆に礼を言い店を出る。



私には三年前に婚約を結んだケヴィン様がいる。私より三つ年上で、私が学院を卒業したら結婚するはずだった。その彼が半年ほど前から急に冷たくなったのだ。


彼に好意を持っているかと言われれば情は持っていると答える程度だが、結婚相手として尊敬していた。


恒例のお茶会は無くなり、観劇や買い物に誘っても断られる。夜会のエスコートすら出来ないという。


何度も手紙を書いたが返ってくるのは仕事が忙しいから、とだけ。結婚の準備も進まないまま学院を卒業し、私は十八歳になってしまった。


この国で十八歳は行き遅れと扱われる。何度も父や母に相談し、父からケヴィン様に婚約解消を申し入れるが、仕事が忙しいから落ち着くまで待って欲しいと返事が来る。


そんな時、友人から聞かされたのだ。私の婚約者が女の人と暮らしていると。


誰か人を雇って調べさせても良かったのだが、私は自分の目で確かめたかったのだ。だから、魔法の夢玉屋を頼った。



屋敷に戻り、食事と入浴を済ませた私は今日は早く休むと伝えて部屋に戻った。そして、瓶から飴を取り出し口に入れベッドに入る。


すぐに睡魔に襲われ深い眠りについた。




ここは…どうやら平民たちが利用する食堂や居酒屋などがある通りらしい。前から歩いて来た婚約者のケヴィン様が目の前を通り過ぎて行く。


私はここに居るのに誰にも気付かれない。これが夢玉の効果なんだろうか?


ケヴィン様は慣れた様子で酒場に入って行った。その後を追って私も店に入る。扉は開けなくてもすり抜けられた。


店に入ると暦が目に付く。今日は十の月、五の日のはずだ。暦は三の月、十ニの日。私は過去を見ているのだろうか。


「ケヴィン、いらっしゃい」

「マリアンヌに会いたくて来たよ」

「また、そんな事言って。貴方にはヘレナがいるでしょ?」


「ははっ、そうだな。マリアンヌ、悪いがまた消化の良いもの用意してくれないか?」

「ええ、もう用意してあるわよ。早く帰ってヘレナに食べさせてやってちょうだい」

「ありがとう、マリアンヌ」


ケヴィン様はマリアンヌさんから包みを受け取って店を出て行く。


早足で歩くケヴィン様の後をついて行くと町外れの小さな家の鍵を開けて中へと入っていった。


ここにケヴィン様と彼女が住んでいるのだろうか。扉をすり抜けて中に入るとベッドに痩せ細った女性が横になっているのが見える。


「おかえりなさい、ケヴィン」

「ただいま、ヘレナ。マリアンヌが食事を用意してくれたんだ。さあ食べよう」


ヘレナさんはケヴィン様に体を起こしてもらって食事を取っていた。ベッドの脇に椅子を置き、ケヴィン様も一緒に食事を取っている。


「いつもありがとう、ケヴィン」

「気にするなよ、ヘレナ」

「だって、貴方は本当は貴族で婚約者もいるんでしょう?私みたいな病持ちの女といちゃ駄目だよ…」

「ああ。だけど俺はヘレナと生きていくことを選んだんだ。だからパトリシア嬢との婚約を解消したかったんだが親父が聞いてくれなくてな」


パトリシアは私の名前だ。ケヴィン様は婚約の解消を望んでいたんだ。それをケヴィン様の父親、ボドル男爵が聞き入れなかったという事だ。


「だから俺は家を出た。親父には貴族籍を消してくれと言ってな。俺はもう平民だよ」

「ごめんなさい。ごめんなさい、けほっけほっ…」

「もう、謝るな。体に障る」


優しくヘレナさんの背中をさするケヴィン様を見ていると悲しくなってきた。私とケヴィン様の婚約はボドル男爵が強く望んだことだと聞く。


私の家にはあまり益の無い婚約で、お父様は乗り気では無かったけれど、ケヴィン様の人柄ならばと結ばれた婚約だ。


半年前にはケヴィン様は家を出ていて、ボドル男爵が私からの誘いを『ケヴィンは仕事が忙しい』と偽って断っていたのだろう。


許せない。ケヴィン様を困らせ、私の家からの婚約解消を拒み続けているボドル男爵が。



怒りに身を震わせていると目が覚めた。私はベッドから体を起こして、今見てきたことを振り返る。


「ボドル男爵…彼が元凶ね。お父様に今見た事を話さなければ」



お父様の執務室に向かう。扉をノックすると返事があり中に入る。


「どうしたんだ、パトリシア。こんな時間に」

「お父様、遅くまでお仕事お疲れ様です。お父様にお話があるのです、ケヴィン様の事で」


私は先ほど見たことをお父様に話した。信じてもらえるか分からないけれど。だけど、お父様はすでに調査済みだった。


「分かった。パトリシアがケヴィン君に好意を持っていたらと思うと婚約解消を強く言えなかったんだ。パトリシアの気持ちを聞けて良かったよ」

「ご心配をかけました。お父様」


「ケヴィン君との婚約解消はこちらからの決定事項として伝えよう。こちらの方が上位だから大丈夫だよ」

「ありがとうお父様。でも私行き遅れになってしまいましたわ」


「大丈夫だよ。すでに次の相手は決まっている。ケヴィン君の件が分かってから探していたんだ」

「そう…ですか。分かりました」

「パトリシア、心配ないよ。新しい婚約者は従兄弟のダグラスだ」

「ダグラス兄様?」


ダグラス兄様は私が小さい頃、よく遊んでくれた五歳年上の従兄弟だ。彼は優しい人だから、お父様の言うとおり心配ないだろう。


「さあ、夜も遅い。パトリシアは部屋に戻って休みなさい」

「はい、ありがとうございます。お父様も無理しないでね」

「ははっ、ありがとう。お休みパトリシア」

「お休みなさい、お父様」


お父様の執務室を出て部屋に戻る。今度は夢を見ることもなく眠った。



後日、私とケヴィン様の婚約は解消された。ボドル男爵はかなりゴネたらしいが、ケヴィン様がすでに家を出て女性と暮らしている事、私の誘いを嘘の理由で断っていた事、婚約解消を了承しないと取引を停止すると言ったら渋々了承したらしい。


私はヘレナさんの元に医者を送った。彼女の病気は空気の良い所で薬を飲んでゆっくり静養すれば治るとの事。


お父様が私への慰謝料代わりにケヴィン様を援助する様にとボドル男爵に約束をさせたらしい。ケヴィン様はヘレナさんと街を離れて静かな村に引っ越していった。



新しい婚約者のダグラス兄様とは半年後に結婚する。ダグラス兄様はずっと私を好きでいてくれたが、私が婚約してしまったので一生独身でいようと思っていたとか。


「パティ!」

「ダグラス兄様」

「パティと結婚出来るなんて夢のようだ」

「夢じゃありませんよ。ダグラス兄様、幸せにして下さいね」

「勿論だ、覚悟しておけよ。私の愛は重いんだ」

「はい!」



あれから、お礼を言いたくて魔法の夢玉屋を探したが辿り着けなかった。


ーー ◇ ーー


今回は良い結果に繋がったみたいだねえ…。さて、次はどんなお客様が来るのやら。


今日も煙管を燻らせて訪れる客を待つ。ここは魔法の夢玉屋、お客様の望むものを見せるのが私の仕事。


貴方様のお越しを心よりお待ち申し上げております。




fin

最後まで読んで頂きありがとうございます。


ケヴィン様を純愛男にするかクズ男にするか悩んだのですが、クズ男は食傷気味だったので純愛路線にしました。

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