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浮遊嬢は落ちぶれない  作者: 七色
第四章 活動嬢は負けられない
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第8話 悩みはきっと解けない

 急いで爆心地の真下の住居へ飛んでいくと、爆風の影響で屋根が崩れ、半倒壊といった体だった。

 幸い、住居は空き家だったようで、被害者はいなかった。本当は戦う前に周囲の確認とかしておくべきなんだろうけど、そもそももっと高く飛ばして爆発に巻き込まれないようにするっていう作戦だったからしょうがない。ちひろちゃんのこと待たせられなかったし。

 昨日のことは教室でうわさ話になっていて、ガス漏れによる爆発だとか、爆弾を作るテロリストがいたとか、屋内で花火をしたとか、変な噂が断片的に聞き取れた。空き家にガスが通っているわけないし、テロリストが日本にいたらもっと大問題になっているだろうに。

 そんなことを思いつつ放課後までやりすごしている途中、午前の移動教室の合間に喜読こころさんを見つけた。

 喜読さんは私と違って周りに人がいて、その人たちと一緒に笑っているように見えた。楽しそうにおしゃべりしている喜読さんたちは私を気に止める様子もなくどこかへ歩いて行った。

 息苦しい授業時間が終わり、放課後。私の足は自然と魔法少女の拠点……ホームへ向かい、思考は午前見かけた喜読さんのことでいっぱいになっていた。

 魔法少女はみんな、私と()()()()()()()()だと思ってた。みんな心に傷を持っていて、心を閉ざして孤独なんだと思ってた。孤独だからこそわかりあえて、孤独だからこそ仲良くなれるんだと、思っていた。

 でも、昨日の魔法少女達はすごくフレンドリーだった。今日の喜読さんは普通に友達がいた。

 もしかしたら、みんな孤独なんだって、私独りじゃないんだって、安心感を覚えていたのは、

「わ!」

「きゃっ!!??!!?」

 いきなり声をかけられ、すっとんきょうな声をあげてしまう。声の主のほうを向くとそこには、私と同じ、白いブレザーを着た、黒髪ツーサイドテールの喜読さんがいた。魔法少女の姿と違って、インナーカラーは入っておらず、両目の瞳は黒色をしている。腕につけていた紫色のレースはリストバンドになっている。私のカチューシャみたいなものだろうか。

「浮世さん、だよね。私、喜読こころ。覚えてるかな?昨日ホームであったんだけど……」

「ああ、はい! ちゃんと、覚えてます!」

 緊張して思わず敬語になってしまった。喜読さんは私相手に緊張していないのだろうか。すごくフレンドリーに話しかけてくれた。

 私が答えると喜読さんはニコリと笑った。

「よかった。私のこと覚えてくれてたんだね。これからホームに向かうところ? いっしょにいこうよ」

「は、はい!」

 どうしよう。流れでいっしょにホームに向かうことになっちゃったけど、何話せばいいのかわかんないよ! そんなことを考えていると、喜読さんのほうから話しかけてきた。

「浮世ちゃん、高校生なんだね。何年生なの?」

「あ、えっと……高校二年生です」

「そっか~じゃあいっこ下だ。私三年生なんだ。受験勉強しなきゃいけないんだけど、勉強に身が入らなくってさ」

 同い年くらいかなって思ってたけれど、一つ上の先輩だったようだ。今まで失礼な態度取ってなかったよね?!

「わ、わかります。勉強ってなにかに追い詰められながらやってもぜんぜん頭に入ってこないですよね」

「そうかも。そのくせ、周りからの圧力ばっかり大きくなっちゃってね」

 とりあえず、喜読さんは上下関係とか気にしてないみたいですこしだけ安心した。

 私たちは他愛のない話をしながらホームへ向かっているうちに、お互いに下の名前で呼ぶようになっていた。こんなふうに楽しく同年代の子と話したのはかなりひさしぶりかもしれない。


 §


「「おじゃましま~す」」

「いらっしゃ~いよくきたね~」

 ホームの中に入るとテーブルにダモが座っていた。ぽてぽてとこちらに手を振る姿が愛くるしい。

「ダモの家じゃないのに」

「だはは、いいじゃないいいじゃない」

 テーブルの向こう側に座っていた元城ひとはさんがダモにツッコミをいれ、それにダモが笑って返す。肩肘をついて頭を支える元城さんは今日もすこしだけ眠そうだ。

 ホームはダモの家じゃないなら、()()()()()()()()()

「来てもらったところ悪いけれど、今日はパトロールしなくてもいいよ~。芦谷さんとちひろちゃんが行ってくれたからね」

「えっ? えかちゃんとちひろちゃん? 大丈夫?」

 二人とも魔法少女の中でも小さい子だから、すごく不安になってしまう。迷子になってたりしないかな……

「心配しなくても大丈夫だよ、ゆうちゃん。芦谷さんもちひろちゃんも、私なんかよりすっごく強いんだから」

「ダハハ。こころちゃんは戦うの苦手だもんね」

 こころちゃんとダモは気楽そうに微笑んだ。二人は続けて言った。

「それに芦谷さんとちひろちゃんが一緒のとき、二人ともいつも以上に頑張るんだよね」

「そうそう。やっぱり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだろうね」

 二人ともまだちいさいから、すっごく心配だけど、二人がそういうなら大丈夫なのかな……?

 そのとき、橙色のフリルロリータドレスに身を包んだ元城さんが口を開いた。無愛想な表情が不機嫌で彩られていて、なんだか怖い。

「用がないんだったら、今日はもう帰ってくれない?」

 その言葉にこころちゃんはすこしむくれて見せる。私よりも長い付き合いだからか、不機嫌な元城さんにまったくひるまず、ずけずけと不満を言う。

「え~いいじゃんいいじゃん。もうちょっとここにいさせてよ~」

 私としても家にあんまり早い時間に家に帰りたくないので、こころちゃんと一緒になってごねてみる。できるだけ元城を怒らせないような言葉を選びながら。

「私からもお願いします。元城さん。もう少しだけホームに居たいんです」

「そんなこと言われても……」

 元城さんは困ったような表情になり、そんな元城さんにダモが宥めるように笑いかけた。

「まあまあ、ひとはちゃん。みんなでいた方が楽しいよ?」

 元城さんは一つ大きなため息を吐いて、私たちを帰らせることをあきらめた。

「……好きにしたら? アタシは寝るから。おやすみ」

 元城さんは腕を組んでテーブルに突っ伏した。ちょうどテーブルの上にいたダモが腕の下敷きになってもがいている。手足をばたばたさせていてなんだかかわいそう。

 元城さんは隙間を作ってダモを逃がしてあげるとその体勢のまま動かなくなった。


 §


「へ~じゃあここは、元城さんの家なんだ」

 私はこころちゃんとダモの、一人と一匹とともに雑談を楽しんでいた。話題はさっきから気になっていた、ホームについて。

「うんうん、ほかの子はお家の人がいるからお家にお邪魔できないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「一人暮らしかぁ~憧れるなぁ」

 心なしか悲しそうに笑うダモ。そんなダモの言葉を聞いたこころちゃんは手を組んで目を閉じる。

 私は、こころちゃんが人と関わることが好きな人だと感じていたので、そんな反応は意外に感じていた。

「えっ? 意外~こころちゃんはむしろ一人暮らしは寂しいって言うタイプかと思った!」

「そうかな? 確かに大変だとは思うけど……なんだか憧れない? なんでも思い通りにできるって」

「確かに! 家族とか、だれにもなんにも気を遣わなくていいってすっごく楽だよね!」

 私たちの会話を聞いたダモは微妙そうな顔になる。それから私たちを諭すようにお説教し始めた。

「……いやいや、ひとり暮らしは大変だよ。ご飯もお片付けもお掃除も、なんでもかんでも自分の力でやらなきゃいけないんだよ」

「何言ってんの? 当たり前じゃん。っていうか、今でも片付けも掃除も自分でやってるし。ご飯を自分で用意できるんだからいいじゃん」

 今でも自分の部屋は自分で管理しないと怒られるし、怒られない分マシだ。それにご飯が食べられない日もなくなると思う。私に同調するように、こころちゃんもダモのお説教に反発した。

「そうだよそうだよ! 今日はちょっと贅沢してみよ、とか外でご飯食べよ、とか! 自分の意思でいろいろできるっていいじゃん!」

「こころちゃんはお片付けできるの?」

「……」

 ダモの鋭い指摘! こころちゃんの急所を突いたようだ。

 急所を突かれて押し黙ったこころちゃんはなおも反論を続ける。

「私の部屋は本がたくさんあるから! たくさんものがある分お片付けが難しいだけだから!」

「本があるんだったら尚更がんばってお片付けした方がいいんじゃ……」

 こころちゃんの主張には穴があるように思えた。私の疑問に、こころちゃんはなにも言えなくなってしまった。

「そういえば、お勉強とか、宿題とか大丈夫なの?」

 ダモは可愛らしく首をかしげて見せ、私とこころちゃんはそろってげんなりとしてしまう。

「「ダモまでそんなこというの?!」」

 そのとき、私のスマホが突然通知音を響かせた。画面を確認すると同時に今の時間が目に飛び込んでくる。

 すでに十七時半。そろそろ帰りはじめないと、門限に間に合わないかもしれない。

「かい……」

 通知の内容は「いつ帰ってくるの?」だった。言われなくても、もう帰るつもりだ。

 私は連絡を返さず、スマホを暗くした。

「え? かい? だれだれ?彼氏?」

「ちーがーいーまーす! 妹です」

 からかうようなこころちゃんにすこしだけむくれて返した。

 浮世かい。私の妹。頭がよくって運動ができて、そして……()()()()()()()()()()

「へ~ゆうちゃんって妹いるんだね」

「あ~なんかわかるかも! しっかりしてるし!」

 一匹と一人は驚いたような反応をした。その評価は間違っていないが、正確ではない。わたしなんかよりもよっぽどかいのほうができた人間なのだ。世間一般からすれば。

「妹のほうがしっかりしてますよ。頭もいいし、運動もできるし」

 私の言い方があんまりにも他人行儀に聞こえたからか、ダモは困ったような顔になってしまった。

「それは……その……ごめ」

「へ~妹ちゃんのこと、好きなんだね!」

 こころちゃんの言葉に笑顔を張り付けて見せる。

「ええ、自慢の妹です」

 ()()()()()()()()

 浮世さん、いい人だな。

 すごく、幸せそうな人。

 元城ちゃんは起きてたみたいだけど、なんで寝たふりなんかしてたんだろ。

 次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第9話。

『さみしさなんて感じてない』

 お楽しみに。

 こんな私を変えたのは。

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