第7話 被虐少女は憎まない
大人は大っ嫌い! だってみ~んなみんな、ママのことを悪く言うんだもん!
母親として相応しくない、とか親としての自覚がない、とかママにひどいことばっかり言うの!
ママのいいところ、かっこいいところ、かわいいところ、何を言っても何を言っても、ぜ~んぶダメなんだって! ほんとにわけわかんない!
ママは夜にお仕事に行って、お昼くらいに帰ってくる! 会えるのは学校から帰ってきたあとちょっとだけなんだけど、その時間がすっごく大好き! 今日も帰ったらおうちにいるといいなぁ。
ママはお料理もお掃除もできないところがすっごくかわいい! いっしょにカップ麺を食べる時がすっごく幸せ!
ママはお仕事のときすっごく派手なお洋服を着てて、すっごくかっこいい! メイクもすっごく上手で私も早くあんな風になりたい!
ママは男の人にモテモテで、そんなママのそばにいられる男の人がすっごく羨ましい!
それにママは、いつも私に宝物をくれるの! 私だけの大切な宝物をくれるママのことが大好き!
ママはすっごく派手でかっこよくてかわいくて、だ~い好きなんだけど、私、もっともっと派手になってもらう方法を思いついちゃったの!
台所にあった包丁を持って、おねんねしてるママのところに行って、いっちばん血が通っている場所をめがけて――
その日、私はダモに出会ったんだ。
§
ゆうちゃんは"やること"があるみたいで、私は一人で帰っている。一人で帰るのはなんだか退屈で、毎回毎回、昔のこととか楽しいこととか、あとママのことを思い返している。
今日は初めておっきな爆発を起こせて、まだ心がどきどきしている。ママに魔法少女のことを伝えるのは、ダモとの約束でダメなんだけど、それでも、新しくできたお友達について話すのはいいよね!
「ただいま!!!」
おうちについて、大きな声で帰ってきたことを伝える。返事はないけど、いつもそうだから、正直ママがいるかどうかわかんない。今日、ママいないのかな……
「……は…なん?つーか……ねーの?はぁ……こっちがどん……さんのし…わしてると…てんの?」
「! ママー!」
今日はママがいる! どきどきを抑えきれない! ママに今日あったこと言わないと! 靴を脱ぎ散らかしてキッチンを抜けてリビングへかけていく。
「ママ! あのねあのね! 今日ね!」
「……うっさ。ごめんなんて? うちのガキがうるさくて聞こえなくてさ~」
「と~っても、と~ってもすてきなね! お友達ができたんだ!」
「……チッ。悪ぃけど後でかけなおすわ」
ママがスマホを耳からおろす。やっとママとお話ができる! 胸の高鳴りが収まらない!
次の瞬間、頬に胸の高鳴り以上の衝撃が走った。
「うっせーんだよクソガキ! てめぇうちが電話してんのみえねえのか!」
「あのねあのね! 私今日、お友達」
「うるせえな!てめぇのダチのこととか知るかよ! にやにやしやがって気持ち悪ぃ!」
そういうとママは玄関からお外へ出て行った。開かれた扉が大きな音を立てて閉まる。なんて、なんて。なんて
「かっこいい……」
あざだらけの体に今日もいちまいのもみじが舞った。ママにつけてもらった無数の傷は宝物として私の体に刻まれている。
「はやくママみたいな大人になりたいなぁ」
ママはとっても美人で、お洋服が派手で、メイクがキレイだ。あんなかわいくてかっこいい大人にはやくなりたいなぁ。
私は骨が浮き出るほど痩せているけど、ママは体がふっくらしている。私もあんなナイスバディになりたいなぁ。こんなほとんどお洗濯していない地味な白いワンピースじゃなくって、ママのお洋服とか私の魔法少女の衣装みたいな真っ赤でキレイなドレスを毎日着たいし!
でも私はママとおんなじ茶色の髪だからそこはすっごく大好き! もっともっと伸ばして、ママとおんなじくらいの長さにしたいな! この前は、髪を伸ばすなってママに言われて、そのままハサミで切られちゃったけど、今度こそママとおんなじ長さにするんだ!
ママは私がママとおんなじことをするとすごく嫌そうにする。ママの真似をして、うちって言ったら、すんごい顔でにらまれちゃった。そんな顔で見てもらえるのもうれしいけど、ママに嫌な思いさせちゃうのは悪い子だよね。
いつもどおりお湯を沸かして、置いてあるカップ麺を、素敵なものがたくさんあるお部屋で食べる。今日はママといっしょに食べられなかったなぁ。ちょっとだけ残念。明日は一緒に食べられるといいなぁ。
体中の痛みがとっても愛おしくって、明日もいい一日になるといいなぁと、そんなことを思いながら今日もベッドに丸まって一人眠った。
爆発の規模感もっと考えて飛ばすべきだったなぁ……
にしても、昨日の魔法少女たち、みんなコミュ力あったなぁ……
もしかして、友達いないのなんて……
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第8話。
『悩みはきっと解けない』
お楽しみに……
だから、そんな顔しないで?




