第5話 少女の不安は当たらない
ダモとの会話がひと段落着いたので、私はアパートのドアノブに手を付けた。
感じる緊張感で心臓が早鐘を打っている。すこしだけ息を整え、私はドアノブを回した。
扉を開けた瞬間に私たちを出迎えたのは、大きな音と紙テープだった。
「「「「「いらっしゃ~い!」」」」」
大きな音に驚いて、身構えていた私に、鈍色のクラッカーを鳴らした数人の女性が言った。服装からして、全員魔法少女だ。私は何も言わず、ゴスロリドレスに身を包んだ。
「わ~熱烈なお出迎えだね。どうして来ることが分かったの?」
「だって話し声が大きかったんだもん。魔法杖のお話のときはやめちゃうんじゃないかってひやひやしたよ~」
ダモの言葉に背の小さい、いかにも魔法少女然とした黄色いドレスを着た小学生くらいの子が答えた。私ってそんなに声大きかった?
「あれ~? ダモモン今日は飛ばないの? 肩に乗ってたらそのこの肩が凝っちゃうよ?」
「うん、『自由に空を飛ぶ魔法』はこの子に宿ったんだ」
疑問符を浮かべている鈍色のセーラー服をきた少女は高校生くらいに見える。
すると、一人の子がこちらをちらりと見て、にこりと笑いかけてきた。
「ね、君。名前は?」
紫色の量産型ファッションを着込んだ、声の抑揚が薄い子だ。おそらく、同年代。初めましての人と話すことに慣れていないからか、突然声をかけられるとドキドキしてしまう。
「あ、あたしの名前は浮世ゆう」
「じゃあじゃあ好きなものは?」
「え、えーと」
「ちょっとちょっと、質問攻めじゃかわいそうだよ、順番に自己紹介していこう?」
突然の質問攻めにダモが助け舟を出してくれた。困っている私を助けてくれたのはうれしいんだけど、なんにも話せるようなことがないし、自己紹介は苦手だな……
「じゃあ、私からするね。私の名前は喜読こころ。好きなものは本で、嫌いなものは……コーヒー!」
最初に話しかけてきた、同年代の少女はくすりと笑った。
紫色の量産型ファッションに身を包んでいて、ツーサイドテールの髪は艶やかな黒色。インナーカラーに紫紺色が入っていて、瞳の色が左右で違う。右目は青く、左目は赤い。両腕に紫色のヒラヒラしたレースが付いていて、すごく可愛らしい。持っている魔法杖は水色で全体的に落ち着いた色合いだ。アニメの世界から飛び出してきたような姿になんだか感動しそうになる。
好きなものが本で嫌いなものがコーヒー、と最初に話しかけてきてくれた割に、文学少女のようで意外と内向的なのかもしれない。
「こころちゃんありがとう。じゃあ次はちひろちゃんに頼もうかな」
「はーい!私は不知火ちひろ! 好きなものは派手なもので、嫌いなものは大人!」
おそらく中学生の少女は満面の笑みを浮かべる。
この子は比較的背が低く、真っ赤できらびやかなミニドレスと赤いネックレスがキラキラと輝いていてとってもオシャレ。ツインテールの髪は紅色で、体つきがすごくほっそりしている。瞳の色は緋色で持っている魔法杖は黄緑色だ。ド派手な姿と落ち着いた黄緑色はどこかアンマッチなようだが、杖の色まで派手な色だと目に痛いかもしれないのでむしろあっているのかもしれない。
大人が嫌いだなんて、ませているものだ。私が言えたことではないかもしれないが。
「う~ん元気が良いねぇ。じゃあ次、つくるん!」
「うん、アタシの名前は御剣つくる。好きなものは服、嫌いなものは固定観念、かな。つくるんなんて呼び方してるのはダモモンだけだよ」
クールそうな子がどこか安心したように微笑んだ。
襟とスカートが鈍色になっているセーラー服を着ていて、ピンクのリボンが可愛らしい。ウルフカットの短めの髪は桜色で、瞳の色が灰色をしており、魔法杖は銅色。本人の鈍色のイメージと魔法嬢が銅色な点を合わせてどこかくすんだ色合いをイメージさせている。
この人はダモと相当仲がいいんだろうな。そうでないとお互いをあだ名で呼んだりはしないだろうし。
「ダモモンなんて呼び方するのはつくるんだけだね! 次、芦谷さん」
「はーい! 私の名前は芦谷えか! 好きなものは……焼き鳥とえだまめ! 嫌いなものは……タイムオーバー!」
ちひろちゃんよりも背が低い、一目で小学生と分かる少女は元気いっぱいだ。
黄色を基調とした、いかにも魔法少女というようなひらひらしたドレスを着ている。金髪のツインテールはドレスの裾まで届くほど長く、タンポポ色のふわふわとしたシュシュが二本の髪の束を留めている。黄金色の瞳は輝いているかのようで、ピンク色の魔法杖と合わせて、魔法少女のイメージをそのまま体現したかのような姿だ。
好きなものの焼き鳥と枝豆というチョイスが妙に渋くて笑ってしまいそうになった。
「芦谷さんかわいいね! ひとはちゃんお願い!」
「アタシの名前は元城ひとは。好きなものはオムライスで嫌いなものはピーマン」
自己紹介をした大人な女性は、どこか元気がなさそうで、それでいてうれしそうだ。
身にまとった橙色のフリルロリータドレスは明るい色合いでとても可愛らしい。橙色のハイヒールは大人らしい印象を生んでいて、可愛らしい服装を一気に引き締めている。セミロングで蜜柑色の髪をツーサイドアップにしていて、瞳の色が人参色をしている。本人は元気がなさそうだが、パーソナルカラーの橙色はものすごい活力を感じさせる。その反面、魔法杖は灰色でモノクロームな印象だ。
彼女の瞳は眠たげで、蕩けた顔をしている。まるで仮眠をとろうとしたところに邪魔が入ったかのように。
「ひとはちゃんはおねむかな。さあ、おまちかねのゆうちゃん」
「わ、私の名前は、浮世ゆう。好きなもの、は……空? 嫌いなもの、は……人間……」
最悪だ。嫌いなものに人間とか言っちゃった。この場はダモ以外みんな人間なのに。そもそも私には好きなものも嫌いなものもないっていうのに自己紹介をしようとする時点で……
「「「「「いらっしゃい! ゆうちゃん! 一緒に魔法少女がんばろうね!」」」」」
変な自己紹介をしてしまったと思ったが、だれも気にしていないようで、みんな笑顔で迎え入れてくれた……よかった……
「いや~新しい魔法少女も久しぶりだからね~みんなうれしいんだと思うよ!」
「そっか。うれしいんだ……」
胸の中がじわじわと暖かくなるのを感じる。今までの人生、誰かに歓迎されるなんてことは……きっと一度もなかった。緊張していたけれどちゃんと来てよかった。
「ねえねえ! ゆうちゃん! 私とパトロールにいこうよ!」
真っ赤なドレスの女の子……ちひろちゃんが、勢いよく近づいてきて私の手を取った。自分より小さい子とは言え、あったばかりとは思えない距離感が気恥ずかしい。
私は思わず、肩に乗っかるダモのほうを見つめた。たすけて、ダモ……
「うん、いいと思うよ。ゆうちゃんにもパトロールのこと、教えてあげてくれるかな?」
「うんうん! 私、ゆうちゃんとパトロールして、友達になってくる!」
ダモ……私の仲間ではなかったらしい。ダモはテーブルに跳び移りにこにこと笑顔を向けてきている。
可愛らしい獣になんだか裏切られた感覚がする! 帰ってきたら好きなだけモフモフしてやるんだから!
「いってきま~す!」
ちひろちゃんに手を引っぱられて、私も一緒に部屋を飛び出す。
ホームから飛び出す直前に見た景色は、みんなから笑顔で見送られる光景だった。
ねえねえ! ゆうちゃんてどんなことできるの!?
空を飛べるの?! 私も飛べるの?! なんでも飛ばせるの?!
じゃあねじゃあね! やってみたいことがあるんだ!
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第6話!
『爆愛嬢は止まらない』
お楽しみに!
君のことも、だ~い好きだよ!




