第47話 作戦会議は抜かりない
「御剣さん、さっきのって」
「元城ちゃん、それは一旦置いといて」
私たちは、四人でダモがいると思われる場所へと飛んでいる。一応、私はずっと魂共鳴によってみんなを守りつつ、こころちゃんに教えてもらった場所へと向かう。
飛んでいる最中、ひとはちゃんが御剣さんに何か聞こうと……というか、さっきのこころちゃんの『つくるくん』発言について問いただそうとしていた。それを軽くいなす御剣さんの表情は真剣そのもので、ひとはちゃんの言葉をまるで気にしていないようだ。……若干口の端がヒクついているが。
こころちゃんが教えてくれたダモの居場所は街の中心部から東に少し外れた、背の高い建物がいくつかあり、住宅も立ち並ぶ、いかにも田舎の駅周辺といった感じの場所だった。というか、私としては、巨大メドモが出現しなかった北西のあたりかと思っていたから、すぐ近くでびっくりしてしまった。
数分飛ぶとすぐについたその場所は、なんてことのない白いビルだった。
辺りは薄暗くなり始めており、もっと近づかなければ、いくつかある窓から中の様子はうかがえない。沈みかけた夕日によって橙に染まる世界のなか、白いビルは当然の顔で佇んでいる。
「このビル……なんかおかしい。こんだけ白かったらもっと目立つはずなのに。なんで今までなんとも思わなかったんだ?」
御剣さんが小さく呟く。ビルの背は特別高いわけではないが、一般住宅と比べると少しだけ大きく、近くを通れば目につきそうなのに、こんなビルみたことない気がする。
いや、そもそも。こんな色をしていたらすぐにわかるはず。夕暮れのなか佇む変わらぬ白は一欠片の曇りさえなく、いっそ異質さを感じる色合い。丁字路のド真ん前に存在しているため、この道を通れば嫌というほど目につく。そして、街の中心部から東に少し外れたこの道は、この街に住まう健全な人間であれば通らないわけがない道だ。どうして今まで気にも留めていなかったのか。
「このビル、なにか仕掛けがしてあるみたい。ビル自体からノイズが少し聞こえてくる。あの人、メドモを制御していたみたいだし、なんらかの方法でこのビルを一般人の目から遠ざけていたのかな」
こころちゃんの言うノイズがなんのことかはわからないけれど、白衣の女性がこの建物自体に何か細工をしている、ということだけはわかった。あの人は、この隠れ家からメドモのことを操り、そしてダモをここへ攫ってきた。
この場所に何があるかはわからないが、慎重に進む必要がありそうだ。
「どうやって入ればいいんだろう……」
ひとはちゃんが少し弱気に小さな声でつぶやく。対して私は強気に大きな声で御剣さんに突破口を求め、ビッ! とビルに向けて人差し指を向けた。
「そんなの、ビルの壁を吹っ飛ばしちゃえばいいんだよ! 御剣さん! やっちゃって!」
「脳筋かよ……んなことしたら中にいるダモがあぶねーだろうが」
事ここに至って冷静さを保つ御剣さんが私の作戦の欠陥を指摘する。ハッとした私は恥ずかしくなって向けていた人差し指をそのまま口元まで持ってきて手で覆う。
いけない。頭を冷やして、冷静にならないと。ダモは実質人質なんだから。
「それならミライちゃんの魔法で中にいるダモまでまもったらいいんじゃない!?」
いつもの快活さを取り戻したようなひとはちゃんがいい方法を言ってくれたけれど、それはできない。御剣さんが私の考えを代弁する。
「いや、無理だな。中の様子がわからなくって、中にいるダモまで守れない。というかミライさんの魔法をビル自体にかけず、中にいる対象だけにかけるのは難しすぎる。だろ?」
「半分正解です。中の様子がわかんないから無理。けど、たぶん内側だけかけるっていうのはできると思います! それでおもったんですけど、こころちゃんなら、ダモを見つけたみたいにビル内のことがわかるんじゃないかなって」
私は御剣さんの言葉に同意しつつ、次の作戦を告げてこころちゃんの方を見つめる。
「……う~ん。さっきから聞き取ろうとしてるんだけど、どうにもノイズがうるさくて。多分上の階のほうにダモともう一人いるんだけど、それ以外にも何人か心の声が聞こえるような……一番下の階はノイズがすごいけど、人はいなさそう? どっちにしろ、ビル内の状況を正確に判断するのは難しいと思う」
こころちゃんは困ったように首を振る。今の私たちではビル内の状況がわからなくて、このまま無策でビル内に入り込むのは得策ではない。
こころちゃんの言葉を聞いたひとはちゃんはひらめいたように提案する。
「一階になら入口があるんじゃないかな! 白衣の人、飛べる……かどうかわっかんないけど、どこかに入口がありそう!」
「たしかに! ちょっと一周ぐるっと見てくる!」
言うが早いか、ひとはちゃんの言葉を聞いて、私はそこまで大きくもないビルの周りをぐるりと一周した。
「……なかった」
「ま、だろーな。白衣にとっちゃあ誰かに入られたらまずい隠れ家だ。ただ意識を誤魔化すだけじゃなくって、入口を隠すぐらいのことはしてるんだろ」
やっぱり冷静な御剣さんが消沈している私に声をかける。わかってたなら
「行く前にいってくれてもよくない!?」
「言う暇なかったろ、今」
ぐっ。議論じゃ御剣さんにはかなわない……
「ゆうちゃん、途中から心の声が漏れてる」
こころちゃんの指摘で、これ以上の無駄な争いを引き起こさないよう思い直す。
御剣さんが口を開く。落ち着き払った口調で、私たちの取るべき行動を告げた。
「上から攻めるのはダモと白衣を巻き込む可能性があるから、一番下の階をアタシと浮世で部分的に吹っ飛ばす。そこから侵入して、罠や不意打ちに警戒しつつ上の階を目指す。これでいいんじゃないか?」
ここまでの作戦会議を総括して、一旦の方針が固まった。
私たちはちいさく頷き、そのまますぐに地上へと降り立つ。
「魂共鳴:不壊杖! ……ぬぬぬぬぬぅ~いい感じに守って!」
私はビルの壁に大の大人が二人くらい余裕で通れるくらいの大きさに保護していない箇所を作る。
御剣さんにOKのハンドサインを作って保護していない箇所を指さした。
「『なんでも創り出す魔法』。魂共鳴:発射杖」
御剣さんはいつものように御剣さんの胴体ほどの鈍色の剣を作り出すと、とてつもない速度で私の向けた指の先へと発射した。
轟音鳴り響き、粉塵が舞う視界が開けると、予定通り私たちの前にビル内への突破口が開いている。
「やった! さっすがつく……御剣さんとゆうちゃん! 早くダモ助けに行こう!」
「先輩、ちょっとまって」
喜び勇んで中に這入ろうとするこころちゃんを御剣さんが引き留める。振り向いたこころちゃんの表情には取り繕えない焦りが見えた。
「なに?! 大きい音出しちゃったから急がないと白衣の人がなにかしてくるかもしれないよ!」
「だからだよ。ここで二手に分かれた方がいいんじゃないかと思って」
飽くまで冷静な御剣さんは平静を失ったこころちゃんに優しく告げた。
「アタシともう一人がビルの屋上から見張ってる。そしたら白衣が逃げられないはずだ。浮世ともう一人がビル内へ入って上階へ向けて探索する。罠とかあっても浮世がいれば大丈夫……だと思う」
御剣さんの言葉を聞いたこころちゃんは一つ息を吸って吐いた。そして私たちに向けて、宣言する。
「内部の探索には私も行く。ノイズは気がかりだけど、私の魔法なら他人やメドモの接近にも気付けると思うから」
「じゃあ私は御剣さんと一緒にビルの屋上にいるね!」
こころちゃんに続けて、ひとはちゃんが元気に宣言した。
二人の言葉を聞いて御剣さんは小さく頷き、私に顔を向けて作戦の続きを説明する。
「アタシと浮世で電話繋ぎながら内部を探索してもらう。ダモと白衣を見つけたら、二人を魔法で保護しろ。壁を吹っ飛ばしてアタシらも内部へ突入する。ビル内組が緊急事態に陥ったら、壁を吹っ飛ばして救出にいく」
力強い言葉で拳を握り締める御剣さん。その覚悟は揺るぎなく、冷たい瞳のその中に、熱い炎が宿っている。
「アタシたちで、絶対にダモを助け出す。作戦開始だ」
御剣さんは私のスマホに電話を繋げて私たちを送り出す。
新月の夜より暗いビルの内部はまるで私たちの侵入を拒んでいるかのように、闇に満たされていた。
ついにダモを助けに行ける……私は御剣さんと一緒に外で待ってるんだけど……
中のゆうちゃんとこころちゃん大丈夫かな……ちょっと不安だな……
ところで御剣さん、さっきの話の続きしたいんだけど……
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第48話!
『世界は静かに満たされない』
お楽しみに!
本当のこと言うとね。




