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浮遊嬢は落ちぶれない  作者: 七色
終章 浮遊嬢は堕ちぶれない
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第43話 鈍の剣は錆びつかない

「それで、話って何ですか?」

 私は、御剣さんと一緒に街へ繰り出していた。御剣さんから話があるって言われたからだけれど、何の用だろうか。

「ま、そんな大したことじゃねえよ。これ」

 今日の御剣さんは黒いもこもこのセーターに鈍色のコートを羽織ったスタイル。先週一緒に買ったものだけれど、さすがにまだ早いように感じる防寒最強装備。

 そんな御剣さんが差し出してきたのは、小さな猫のキーホルダー……なにこれ?

「ん~? なんですか? これ」

「なんですかって……誕プレだよ、誕プレ」

 誕プレ……誕生日プレゼント……誕生日プレゼント!?

「え、え、え? う、うそ、私に?!」

「お前以外誰がいるんだよ。今日、誕生日なんだろ? 何買えばいいかわかんなかったからこんなんだけど……文句言うなよ?」

「もちろんです! え、ありがとうございます! うれしい~……家族以外から誕生日祝ってもらうのなんて初めてだから……」

 小さな猫のキーホルダーはちまっとしていて、かわいらしくって、初めて家族以外からもらった誕生日プレゼントということもあり、ずっと眺めていたいほど愛おしい。小さなキーホルダーを見ていると、可愛らしい私たちの小さな仲間を思い出してしまう。

「う~ん……どうせならわんちゃんのキーホルダーがよかったですね……」

「はぁ? おいおい、文句言うなって言ったろ?」

 私の言葉に御剣さんは露骨に不機嫌になる。当たり前だ。せっかく買った誕生日プレゼントにケチをつけられたら誰だって怒る。今の御剣さんは怒りというよりも呆れの感情が大きそうだから、その点この人は器が大きいのかもしれない。

「でも、わんちゃんの方がダモに似ててなんか良くないですか? 魔法少女みんなでお揃いのわんちゃんのキーホルダ―持って……」

「あ~たしかに……? ダモってちょっと犬っぽいし、そういわれてみれば犬のキーホルダーの方がよかったか……?」

 なんて本気で悩んでしまう御剣さんが可笑しくって笑いだしてしまった。

「ふふふ。そうでもないですよ! やっぱり誕生日プレゼントはうれしいです。それに、わんちゃんのキーホルダーだと、ダモとキャラ被りしちゃうし」

「お揃いの方がいいかもって言ったのそっちだろ」

 ぎくっ。私としては思ったことを包み隠さず言って御剣さんをフォローしたつもりだったけど、確かにこれじゃあマッチポンプだ。

「誕生日おめでとう。なんか食いに行こうぜ。今日はおごるよ」

「え~いいんですか~? っていうか、誕生日だからって優しくないですか?」

「んなことねえよ。誕生日だったら、誰にだって優しくしてる。さすがに関係の浅いクラスメイトとかにはしてないけど。魔法少女のみんなには世話にもなってるし、誕プレ買うようにしてるんだよ」

 そういいながら、歩き出した御剣さんについていく。やっぱりショートケーキとか食べたいよね……そういえば洋服屋さんの向かいにケーキ屋さんがあるんだっけ……ちなみに御剣さんの予算はどれくらいだろう?

「御剣さん、おごってくれるって言いましたけど、予算どれくらいですか? ショートケーキ食べたいんですけど」

「いいんじゃねーの? この前食費って言って芦谷さんに託されたばっかりだし」

 それじゃあ厳密には御剣さんのおごりじゃないのか。でも食費の管理も御剣さんの管轄だし……とりあえず、御剣さんと芦谷さんに心の中で深く感謝しておくことにしよう。

 冬の日差しはもう傾いていて、夕焼けのオレンジが街を染めている。平和に続く日常。これがずっと続けばいいのだけれど、パトロールはしないといけないし、いつかはメドモが現れる。

 私は、ダモに出会って魔法少女になってから人生が一変した。たくさん友達ができて、自分の居場所ができて。当たり前に過ぎ去る日常の風景をこんなにも美しいと感じられるようになった。

 なんだかしみじみとしてしまう。こぼれそうな涙をあくびをするふりをしてごまかした。

 ピロピロリン♪ ピロピロピロピロリン♪ ピロピロピロピロリン♪

 ケーキ屋さんに歩いている途中、勝手に感傷に浸っていたら、電話がかかってきた。スマホに表示された名前は、こころちゃん。

 なんだろう? もしかして、メドモがでたとか?!

 私は立ち止まって、急いで電話に出た。

「もしも……」

「ゆうちゃん。落ち着いて聴いて。ダモがさらわれた」

「……はっ?」

 視線の先で、立ち止まって振り返る御剣さんが見える。車道を車が通り抜けていって、冷たい空気が頬を撫でる。

「それから、このあと巨大なメドモが街に現れる。ゆうちゃんと御剣さんには、南東のメドモを倒してほしい」

「ちょ、ちょっと待って? ダモがさらわれて……メドモがでる? 一瞬整理する時間を」

「ごめんね。もう時間がないの。私たちもメドモの出現場所についた。一般人の避難に移るから、もう電話切るね」

 脳に理解が追いつかない。カラスの鳴き声が遠くに聞こえる。

 御剣さんの心配そうな顔が私を見つめている。顔から血がさっと引いていく。

「ま、まって」

「信じてるから。絶対無事でいてね」

 ぷつり。 ツーツーツー。

 電話の切れた後の音が虚しく耳道に響いている。いつになく真剣なこころちゃんの声が、耳にこびりついている。

 目の前の御剣さんが私の腕を掴んだとき、ようやく現実に意識が追い付いた。

「ダモのことは一旦後回しな、メドモがでるんだろ?」

「は、はい。南東に巨大なメドモが出てくるらしいです」

 私の言葉を聞いた御剣さんはこくりと頷くと、彼の鈍色のリボンを取り出した。

「変身。魂共鳴(ソウルリンク)発射杖(ハヤミアスカ)。一旦飛ぶぞ、変身しとけ」

「は、はひっ!?」

 私が返事をして変身した瞬間、私たち二人は上空へ吹っ飛ばされた。既視感のある感覚! 具体的に言うと二週間前の芦谷さんにスマホを届けた後とおんなじ感じ!

「わりぃ、緊急事態だから一緒に飛んでもらった。『なんでも発射する魔法』、それがアスカさんの魔法だ。このままメドモの下へカッ飛ぶぞ」

「ちょ、わああああああ!」

 変身しきっているから、飛んでいること自体は全く問題ないが、とてつもない速度で飛び始めてびっくりしてしまう。こんな速度、全力で加速しないとでない速度なのに?!

「見つけた。魂共鳴(ソウルリンク)の準備しとけ、一瞬で片付けるぞ」

「へっ!?」

 なんとか目線を飛んでいる方向へ向けると、チヒロちゃんを取り込んだメドモと同程度の大きさ、一般家屋を縦に二つ重ねたくらいの大きさのメドモが見えた。

 その姿は四足の足と太い胴体、丸い頭に腕の代わりに二本の鎌を持っている。ファージのような姿は以前の無限湧きメドモを思わせた。

 瞬間、トラウマを想起する。また、失ってしまう。それだけは、嫌だ!

魂共鳴(ソウルリンク)不壊杖(フワミライ)!」

 周囲一帯、そして御剣さんを温かい光で包み込む。ミライちゃんがついているかぎり、私に守れないものはない!

 巨大メドモの目の前まできて、私たちは急減速、というより空中で止まった。急減速はなぜか感じず、空中で止まった私たちを私の魔法で空へとどめ続ける。

「で、でもどうやってあんな大きいメドモ倒すんですか?!」

「もう手は打ってある……街丸ごと守ってくれよ、浮世」

 メドモは威嚇でもするようにゆっくりと鎌を振り上げる。いや、とてつもない大きさのせいでゆっくりに見えるだけで、実際にはとてつもない速度で振り上げているのだろう。

 あんなの食らったらひとたまりもない……ミライちゃんがついているとはいえ、あんなの五十発でも食らったら魔法杖になってしまうかもしれない。

 メドモの鎌が頂点まで振り上げられたとき、上空の雲を切り裂いて、鈍色の巨大な諸刃剣が姿を現す。

 その大きさはまさに規格外。横幅はメドモの三倍はあろうかという大きさ、縦の全長は未だ見えていない。とてつもない大質量の剣が、空から降ってきた。

「俺の魔法は『なんでも創り出す魔法』! メドモは俺がぶっ潰す(ぶった切る)!」

 超巨大な剣がメドモを潰し切って街へ降る直前、私はミライちゃんの魔法を全力で稼働させる。

 超巨大な剣はそのままメドモを潰し切り、とてつもない衝撃が世界へと解き放たれた。

 超巨大な剣による風圧で吹っ飛ばされそうになるのを必死に耐え、目を開けるとメドモは消滅していた。しかし、以前の無限メドモのように、光となって消えるのではなく、光の粒は拡散し、周囲へ散らばっている。御剣さんが手を振り上げると巨大な剣は一瞬にして姿を消した。

「ここは一旦これでいい。俺は喜読先輩のほうへ行く。浮世は芦谷さんのところへ行け。街のどっかで働いてると思う。アスカさんの魔法は速いが動きが直線的だ。人探しには向かない。俺は全速力でホームの方へ行くから浮世は芦谷さんを見つけてくれ……無事でいてくれよ」

 そう言葉を残した御剣さんは私の腕を離してとてつもない速度で西へ飛んで行った。

 この場に残るオリの粒は気になるけれど、メドモに戻る気配もない。それならば、私もやれることをやるのみだ。

 ダモのことは気になるけれど、今焦ってなんとかなることでもない。今は魔法少女全員の協力が必要だ。

 私は芦谷さんに電話を掛ける。

「もしもし芦谷さん?」

「ゆうちゃん! お願い助けて! 巨大なメドモが現れたの! 場所は北東! たぶん空飛べばどこにいるか見えると思う!」

 芦谷さんに電話を掛けた直後、矢継ぎ早に告げられた。混乱したまま、北の方へ体を向けると、真っ黒い影が遠くに見える。

「見えた! 今すぐ行くね! ……もう切れてる」

 芦谷さんになにかあったのか、メドモ相手に電話している余裕がないだけなのか。

 わからないけれど、私は全速力で北東のメドモの下へ向かった。

 ばかでけえメドモ、こっちは浮世がいてくれたから楽に倒せたが、市街地のほうは難しいだろうな。

 先輩と元城ちゃんが無事だといいが……

 浮世と芦谷さんのほうは、任せてもいいだろ。

 次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第44話。

『沈む光に悔いはない』

 お楽しみに。

 このあともあるんだろ? あいつらともちゃんと話してくれよ。

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