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浮遊嬢は落ちぶれない  作者: 七色
第九章 一匹狼は繕えない
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第39話 俺を一人にしてくれない

「う~ん、そうだなぁ……」

 御剣さんは、大型ショッピングモールの館内マップを見ながら小さく唸る。

 十四時を過ぎて、ようやくのお昼ご飯なのだから、いっぱい食べたいだろうし、じっくり悩んでもらいたい。

 でも、御剣さんは気を遣うほうだから、もしかしたら私たちのことも気にしてるかもしれない。

「あ、私たちのことはお構いなく! どこでもついていきますから!」

「……別に。気にしてなんかないよ。何が食べたいか悩んでただけだし」

 御剣さんはこちらを振り向かず、なぜかちょっとムッとしたように言いのけた。

「あ……そうですか。ごめんなさい」

「それに、アタシが食べてる間館内回っててもらおうと思ってたし」

 私の勘違いを訂正した御剣さんはいつも通りのクールな声色に戻り、また館内マップとにらめっこを始める。

「ゆうちゃん、あれ図星突かれて恥ずかしくなってるだけだから気にしなくていいよ」

「先輩、うっさいです」

「ほら照れてる」

 こころちゃんは御剣さんにまたまたダルがらみ。付き合いが長くなると遠慮がなくなるタイプなんだろうな。

 というか、御剣さんってそんなツンデレっぽいところがあったんだ。いつもツンツンしてるけど優しいし、御剣さんかわいいところあるじゃん。

「よし、決めた」

「ど~こいっくの~?」

「フードコートでラーメン食べます」

 御剣さんの指さした先は、二階のフードコート。エスカレーターを上ってすぐのところ。一階に服屋さんとか、いろいろ見て回れる場所あるし、私たちは一階で分かれて、御剣さんだけ二階に行く算段だろうか。

「え~いいじゃん! 私アイスた~べよっと」

 ……まあ、こころちゃんにはその意図が伝わっていなかったようだが。というか、この季節にアイス? 暖房効いてるから寒くはないかもしれないけど、おなか壊さないでね?

「……浮世さんはどうする? 一階にいてもいいけど」

 御剣さんは、とても面倒くさそうな顔をして私の方を見つめる。こころちゃんのこと、もしかしたら苦手なのだろうか。

「え~はぐれちゃったら悲しいじゃん。ゆうちゃんも一緒にアイス食べるもんね~?」

「え、え~っと私はアイスはやめとこうかな~……」

 こころちゃんはまるで決定事項のように私をフードコートへ連行しようと笑いかける。

「……全員スマホもってるんだから、はぐれてもいいじゃないですか」

「え~だめだよ~私たちとはぐれたら、御剣さん絶対どっかいっちゃうでしょ~?」

 たしかに、御剣さん洋服屋さん出てからずっとそわそわしてるし、こころちゃんのこと苦手そうだし、逃げる気だったのか!

 私はぜんぜん気づいていなかった。さっすがこころちゃん。

「……わかってるなら逃がしてもらえませんか。たまには一人になりたいんですけど」

「……だめ。後ろから刺されたらどうするの?」

「アタシの人間関係をなんだと思っているんですか……」

 こころちゃんと御剣さんの掛け合いはまるで漫才のようでおもわず吹き出してしまいそうになる。

 私たちは、駄弁りながら、二階のフードコートへ向かった。


「あの、御剣さん」

 私は、こころちゃんがアイスを買いに行ってる間に、御剣さんに踏み込んだ話を振ってみた。

「御剣さんって、男の子……ですよね?」

「あ~……バレてたか」

 御剣さんは、すこし気まずそうに頭をかく。

 ラーメン屋さんで受け取ったブザーは沈黙を保っている。

「その、もしかしたらなんですけど……今まで一人称とか、意識してました?」

「うわ、そこまでバレてんのかよ。そーそー。あんま男って感じだすと嫌かな~って思ってさ」

 御剣さんはそこまで言って、氷の入った水を飲み干す。机に置いたグラスは内側の氷をからりと鳴らした。

「もし、そうなら私の前では、言いやすい一人称でいいですからね!」

「……まあ、な。先輩の前でも、たぶん、っていうか絶対大丈夫ではあるんだけど……」

 そこで御剣さんは言葉を濁し、顔を横に向けた。

 アイス屋さんは多くの人が並んでいて、こんな初冬でもアイスを食べたい人ってたくさんいるんだなぁ、と以外な光景にため息をついてしまいそうになる。

「その、あの人、あんま空気読むの得意じゃないじゃん」

「……あ~たしかに」

 私は初めて聞く御剣さんのぶっちゃけた話に薄い笑みを浮かべた。

「先輩と始めて魔法少女として会った次の日、学校で俺の様子見に来たんだよ」

 御剣さんはその日の苦い記憶を思い出したのか、ふー。とため息を吐く。

「ぎょっとしてる俺見てさ、『つくるくん、男の子だったんだね』って満面の笑みで言われて……あの人あれでも上級生だし、それなりに美人だし、周りががやがやしだして……」

 うわ~大変そ~……私は地獄の空気を感じ取って、そんな感想が漏れかけた。

「そんで、その日は先輩を追っ払って、後日色々話したんだけど……」

「色々って、例えば?」

「まず、俺の性別について。俺は学校では男で通してるから、周りに吹聴しないこと。魔法少女達には女の子として、それが無理なら性別を匂わせるようなこといわないこと。次に、学校では会いに来ないこと。そして最後に、他人の秘密に踏み入らないこと。……あの人、心読めちゃう分、いろいろ気を付けないとトラブルのもとになっちまうだろ? だから、あんま踏み込むなよって警告したんだ。……思ったよりも、気を遣わせてたみたいなんだけど」

 そこまで話してすこし俯く御剣さん。ほんっとこの人優しいな。私だったら一発ひっぱたいてるかも。さすがにこころちゃんにはそんなことしない、けど。

 でも、魔法少女になる前の私がそんなことされてたら……あぁ~なんか、考えるだけでぞわぞわする。考えるのやめとこっと。

「で、それ聞いたこころちゃんは、なんて?」

「ん? ああ、そしたらあの人、俺にも代わりに条件提示してきて。一つ。二人の時は、あの人を先輩として敬うこと。二つ。あの人が魔法関連でトラブったら俺がフォローすること。そして三つ。もっとみんなと仲良くすること。……まあそれは大きなお世話だ! って突っぱねたんだけど……今思うと、あれは」

「な~に二人でいちゃいちゃしてんの?!」

「キャアアアアアアア!?」

 びっくりした! こころちゃんが私たちが眺めていたアイス屋さんの逆方向、フードコートの机に面した観葉植物の影から出てきた。

「先輩! いつからいたんですか?!」

「ん~? 御剣さんが~私が空気読むの得意じゃないって言ってた辺りから~」

「ほとんど全部じゃん!」

 御剣さんの問いかけにこころちゃんはにこにこと楽しそうに返す。そんなこころちゃんに私は勢いでツッコんでしまった。

「っていうか~もうゆうちゃんにもバレちゃったんだから、御剣さん、じゃなくってつくるくん、って呼んでもよくない?」

「良くないです。そういうこと普段から言ってるとボロが出るもんなんですよ」

 妙に力の入った言葉でこころちゃんに力説する御剣さん。たしかに、私たちの癒えない秘密は、一つのボロで終わってしまう薄氷の上の事実だ。それゆえに、私たちはお互いの秘密を絶対に漏らしてはならない。

 こころちゃんは三脚目の椅子に座り、見るからに甘そうなピンクと白のアイスの山をスプーンで切り崩す。見ているだけで胸焼けしてきそうで、私はミルク多めのカフェラテが飲みたくなってきた。

 その時、沈黙を保っていたラーメン屋さんのブザーがけたたましく喚き散らした。ビクッと肩を震わせた私を気にも留めず、御剣さんはブザーを止める。

「んじゃ、ラーメン受け取ってくるわ」

「私、カフェラテ買ってきます!」

 立ち上がった御剣さんに合わせて、私もカフェラテを買ってくることにした。透明なプラスチックスプーンを口に入れたこころちゃんが少し驚いたような顔をする。

「先輩、荷物の番お願いします」

「いってくるね~!」

 先ほど買ったばかりの服を残して私たちはお互い別方向へ歩みだす。残されたこころちゃんはといえば。

「……こうなるのが良くないと思ってついて来たのに」

 不安な不満を漏らした少女は、甘美なアイスクリームに舌鼓を打った。

 アイスクリームおいし~……けど、二人とも大丈夫かな……

 この前ゆうちゃんと芦谷さんがメドモに襲われたばっかりなのに、二人とも不用心だよ……

 ……いやいや、一番危ないのってもしかして、私!?

 次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第40話!

『不穏な気配に気づかない』

 お楽しみに!

 それでも私も当事者だから。

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