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浮遊嬢は落ちぶれない  作者: 七色
第九章 一匹狼は繕えない
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第38話 一匹狼は繕えない

「あ、私ちょっとお花摘み行ってくるね!」

「うん、行ってらっしゃ~い」

 私たちが二件目のお店に入ると、こころちゃんはお手洗いに行った。私はさっきのお店で行っていたが、その時一緒に行けばよかったのに……でもそれは三十分も前のことだからとやかく言うのは変な話か。

 さっきのお店で買ったのは結局、先ほどの薄桜色のブラウスとピンクのニットだけだった。このお店ではもっともっとたくさん買いたい。

 私はこころちゃんがいない間に店内を見て回ることにした。このお店はシックなロングドレスや暗い色合いのワンピースが置いてあって、かなり流行に乗っかっているお店だ。こころちゃんにあうのはピンクや紫系なので、そういう色の落ち着いた色のものがないか色々物色してみる。

 見て回っていると、メイド服を着た美人さんがいた。肌がキレイで白く、真っ黒い生地に白いフリルがついていてかわいらしい。ホワイトブリムはつけていないが、クラシックなメイド服で本格的なメイド感がある。髪は長い黒髪で、メイド服とマッチしていて美しい。身長は百七十センチ近く、ちょっと体格ががっしりしている。もしかしたら男性の方だろうか?

「……なにか?」

 ふと、少し低いダウナーな声が聞こえた。メイド服を着ている人が珍しすぎて、ジロジロ見すぎていた。いけないいけない。

 瞳は灰色で左目に眼帯を付けている。メイド服を着た男性で中二病ってさすがに属性盛りすぎだろって思いながら、私は謝った。

「す、すみません! かわいかったのでつい……」

 私は適当に褒めてその場を離れることにする。

 というか、なぜだろうか。私はこの人にこの前あったことがある気がする。灰色の瞳に左目の眼帯。三週間くらい前、この世界に絶望していた時期に、会ったことが……気のせいだろうか。さすがにこの姿の人を忘れるわけがないし。

 気まずい空気が漂う中、私が背を向けると目の前にこころちゃんがいた。

「あっこころちゃん。おかえり」

 こころちゃんは私の肩から私の向こう側、メイド服の美人さんを覗くと、にっこりと笑顔になった。

「な~んだ! 御剣さんも来てたんだ! 奇遇だね!」

 世界が止まった。

「え?」

「……はぁ」

 後ろからため息が聞こえる。

 そんなことよりも、え? え、え?

 振り返った先には、クラシカルメイド服を着た美人な男性。顔は中性的で、身長と体格ががっしりしていなければ、女性だといわれても信じてしまうだろう。

「み、つるぎさん?」

 推定御剣さんの男性は困ったように沈黙している。

「え、ねえねえ! 御剣さんも一緒にお洋服選ぼうよ! やっぱ御剣さんは~……」

 いやいやいやいや、なに勝手に話し進めようとしてるのこの子?!

「ちょ、一旦待ってこころちゃん」

「え? なになに? どうしたの?」

 御剣さんは鋭い目を光らせてこころちゃんに抗議する。

「どうしたの? じゃないですよ先輩。お……アタシと浮世さんほぼほぼ初対面なのに……」

「え? いつも会ってるじゃん。ていうか、ゆうちゃんが初めてホームに来た時に会ったことあるって考えてなかった?」

 え、こころちゃんいっつも心の中読んでるの?! っていうかそういうことあんまり本人の前で言わない方がいいと思う!

「たしかに会ったことありますけど、魔法少女になる前だし、憶えてないですよ多分」

 どうやら私は魔法少女になる前、御剣さんとあったことがあるらしい。よくよく記憶の糸を手繰っていくと、ダモと出会う前の週に包帯をだらりと垂らして、眼帯をした人と出会っていたことを思い出した。


 §


 「ね、君。今ちょっといい?」

 晴れた青い空をぼんやりと眺めていた私に声がかけられる。

 9月の終わり。肌寒い外は木枯らしが吹いていて、快晴の空は地球の熱を宇宙へ放出している。くだらない授業は二限目が終わったところで、先ほど学校へ来る途中に感じていた刺すような寒さを忘れそうになっている。

 寒さは、寂しさにどこか似ている。家、学校、帰り道。いつもどこか感じている感情を、この季節は普段に増して感じさせてくる。

 大嫌いな季節だ。それに、私が生まれたのもこの季節。こんな最悪な世界に生まれたということ自体が嫌で仕方ないのだから、自分の生まれた季節を嫌いになるのも無理はないだろう。

「……あの、ちょっとはこっちむいてくれないかな?」

 次の授業は数学。私の苦手な授業だ。妹ならば涼しい顔で次々に問題を解いていくのだろう。忌々しいことに。

 休み時間は残り五分。そのあと授業時間が一時間。その後の休みが……今日という日が終わるのが待ち遠しいが、気が遠くなるほどに収容時間が長い。

 でも、別にいいのかもしれない。だって、家になんて帰りたくないんだから。それなら、家に帰らずに済むのだから、ただただ疎外感と孤独感を感じるだけな学校にいるのは、案外いいことなのかもしれなかった。

「……はぁ。人の話は目を見て聞いてくれよ」

 次の授業の準備はすでに済んでいる。あとは時間が過ぎることと先生が来るのを待つだけだ。

 汚い消し忘れの残るホワイトボードを眺める。まるで私の心みたいだ。考えるだけで気分が悪い。

 「……はぁ」

 大きくため息を吐く。思考を巡らせるほどに気が滅入るのだから、考えなければいいのに。私の不出来な脳みそは、気分が落ち込むほどに後ろ向きへ全力疾走してしまうようだった。

 その時、突如として私の肩が揺すられる。私にかけられた力のままに肩をつかんだ人物を見ると、眼帯を付けた男子生徒が目に入った。

「おい、あんま思い詰めるなよ」

 そういった男子生徒は速足に教室を出ていく。

 キーンコーンカーンコーン

 気が付けばすでに授業時間になっていた。

「なに、あいつ」

 左目に着けた眼帯、灰色の瞳。袖から白い包帯がだらりと垂れ下がり、色んな意味で痛々しい。

 突然の来訪者に揺れた心は、その日の私をいつまでも支配していた。


 §


「……もしかして、あの時の中二病!?」

 私は口に両手を当てて、たった今思い出した痛々しい来訪者のことを大声で口走る。

「声がでかい。ここ店内だぞ」

 驚愕の表情を浮かべる私をジト目で見つめる御剣さん。あ、あの見た目の男があの常識人で頼れる御剣さん!?!?!

「いや、驚きすぎな? あと、中二病呼ばわりは普通に……」

「ご、ごめんなさい!!」

 私は謝ろうとしてまたしても大きな声を出してしまった。目の前の御剣さんとカウンターの向こうから冷たい視線を感じる。

「ねえねえ、そんなこと言ってないで服選ぼうよ」

 今だけはこころちゃんがとても頼りになる。私が原因で発生した……私だけではないと思うけど……気まずい空気はお洋服選びに移行することで解消された。


 私たちがお店から出ると、御剣さんは解散してお昼ご飯を食べに行こうとした。どうやらまだお昼ご飯を食べていなかったらしい。

「なんでついてくんだよ」

「え~いいじゃんせっかくなんだから」

「なにがせっかくなんですか」

 こころちゃんがめちゃくちゃダルがらみしてる……?! まあ、初めについていこうとしたのは私の方なんだけど。

 こころちゃんのダルがらみに対して、御剣さんは敬語で反発する。

 私は、御剣さんに聞きたいことがあってついて来たんだ。

「御剣さん、あの、聞いていいことかわかんないんですけど……」

「あぁ~……これ?」

 そういって、御剣さんは左目の眼帯を指さす。

「……はい。なんか、ファッションなら聞かない方がいいと思うんですけど……変身してるときは眼帯してないし……」

「ああ。これ、怪我だから」

 飽くまで淡々と。御剣さんは私に告げる。

 私は、メドモとの戦いで怪我を負ったことがなかった。それはミライちゃんに守られていたから。

 私は、仲間がメドモとの戦いで傷ついたところを見たことがなかった。私が頑張って、守ろうとしてきたから。

 でも、御剣さんは。今までずっと、一人で戦ってきたんだ。

「……そんな悲しそうな顔すんなよ。お……アタシがうまく戦えなかったってだけだから」

 そう言って笑って見せる御剣さんはどこか儚げに見えた。

「……私が、守りますからね」

「そんな気負うことじゃねぇよ。それに自分の体くらい、自分で守るさ」

 さわやかに笑う御剣さん。前に学校で会った時にしていた包帯も、きっとメドモとの戦いで負った傷だ。

「ねえねえ~御剣さんは何食べたいの~?」

「喜読先輩、あんま急かさないでくださいよ。大体、何食べたいかも決まってないのに……」

 御剣さんは笑いながらこころちゃんの後ろをついていく。初冬の日差しが温かい午後はなだらかに過ぎていった。

 な~んか喜読さんだけじゃなくって浮世さんにまでバレちゃったし、二人ともついてくるし……

 まあいいか。お昼何食おっかな~……お昼食ってる間、二人待たせるのなんか悪いな。

 ショッピングモールなら二人とも退屈させない、か?

 次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第39話。

『俺を一人にしてくれない』

 お楽しみに。

 なんて、言うのが遅すぎたかな。

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