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浮遊嬢は落ちぶれない  作者: 七色
第九章 一匹狼は繕えない
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第37話 流され続ける理由もない

 休日に一人で外出するのは久しぶりだ。

 浮世さんが魔法少女になる前までは、毎週のように遊んでいた……といってもバイト代を使いすぎないように自制してはいたが。

 今日は朝からおめかししてきたから、変身を解いてすぐに街に繰り出すことができた。

 十月後半の空気は冷たく、時折吹き付ける北風は骨身にこたえるほどだが、今日は運よく晴れており日差しが暖かい。それに、丈の長いスカートや長袖の衣装はこの季節だからこそ着心地がよく、かなり過ごしやすい。

 夏頃は暑くてなかなか外出する気も起きなかったが、これぐらいの気候がおでかけに一番ちょうどいい。

 吹き抜ける風の音は今日という日を祝福しているかのようで、鳥のさえずりは温かな陽光に笑いかけている。道行く人の連れる茶柴がとても可愛らしい。

 今日はかわいい冬服を買いに行こう。もう少ししたら肌を刺すような寒さに震えることになってしまう。もっとフリフリで、もこもこのあったかい服。去年の冬服はピンク系がトレンドだったが、今年は暗い色合いが流行らしい。今着ている服も黒が大部分で、白いフリルが映えるかわいくてかっこいい最高のファッションだ。

 今年はどんな服を着ようかな。考えるだけでもわくわくするし、ウィンドウショッピングをしているだけでも楽しくってニヤニヤしてしまう。

 貯めてたバイト代はちょっと前にホームでの食費に充てていたが、芦谷さんが食費の分を出してくれたから、洋服代には余裕がある。この三週間くらいは、ずっと魔法少女としてがんばっていたから、頑張った分今日は目いっぱい遊ぼう。

 お昼ご飯を食べる前に、駅前のクレープを食べたいな。そのあとかわいい洋服屋に行って……

 暖かな陽気のなか、軽い足取りで街を練り歩いていった。


 §


 ぐぅ~

 「どうしよ、先ご飯食べる?」

 街の東側、人や建物が多い、商業の盛んな場所に着いた頃には十一時半を回っていた。

 私のおなかの音に気付いたのか、こころちゃんは私のほうを向いて小首を傾げて見せる。

「あはは……おなかすいちゃったもんね。こころちゃんはどこか食べたいものある?」

 私が問いかけると、こころちゃんは顎に手をついて、そうだなぁ……なんて軽く考え込んで見せる。

 その時、私の鼻孔をなにか香ばしい香りがくすぐった。

 匂いがする方向を見てみると、KoKo漆番屋というチェーン店のカレー屋さんが見えた。

 これだけおいしい匂いを嗅いでしまったら、カレーを食べるしかあるまい。そんな風に思ってこころちゃんのほうを向いてみると、こころちゃんも私の視線に気づいたのか、カレー屋さんから私に顔を向けた。

「ポスバーガーあるね! ハンバーガー食べたいかも!」

 そういってこころちゃんはカレー屋さん……ではなく、その奥にあるハンバーガー屋さんを指さす。

 この子マジか。あんだけカレーのいい匂い嗅いで、この流れでカレーじゃなくてハンバーガー行くことあるんだ。

 いやいや、ハンバーガーも普段あんまり食べないし、ポスバーガーなんて時間に余裕のある時以外あんまり食べないからめちゃくちゃいい選択ではあるんだけど。マジか。

「い、いいね~ハンバーガーにしよっか」

 私の笑顔はずいぶんと引きつっていたことだろう。だってもう口がカレーなんだもん。


「はぁ~おいしかった~」

 お店から出ると、こころちゃんは満足げに息を吐いた。

「おいしかったね。こころちゃんはテリヤキチキンバーガーだっけ?」

「そうそう! 友達と来た時、よく食べるんだ。みんなでおんなじやつ食べてたんだけど、いつの間にか大好きになっちゃってね」

 こころちゃんは感慨深げに遠くの空を見上げる。つい二週間ほど前に学校の人は友達と思えないなんて言っていたけれど、もしかして関係が改善したのだろうか。それとも、別のお友達?

「ゆうちゃんはひーひー言いながら食べてたけど、そんなに辛かったの?」

「うん。スパイシーカレーバーガー。ちょっとなめてたかも」

 完全にカレーの口になっていたから、期間限定のピリ辛のカレーバーガーを頼んだけれど、想像の1.5倍くらい辛くて、何度もお水を飲んでしまった。

「もしかしてゆうちゃんって、辛いの苦手?」

「いや、別に苦手じゃないんだよ。めちゃくちゃ好きってわけじゃないんだけど……」

 私が言葉を濁したのを聞いて、こころちゃんは私の顔を覗き込みながら聞いた。

「じゃあなんで……」

 その時、私の鼻を再びカレーのいい匂いがくすぐる。その匂いに気付いたようで、こころちゃんはすぐそこにあるカレー屋さんに目を向けた。

「……カレー屋さん」

 こころちゃんは小さくつぶやくと、顔面蒼白になって、私に謝り倒してきた。

「ご、ごめんね! もしかして、カレー食べたかった!?」

「ううん、大丈夫だよ。ハンバーガー普段あんまり食べないから」

「無理してない?! ほんとにごめんね!?」

 大慌てで謝るこころちゃんはよく見ると細かく震えている。早く雰囲気を変えないと、こころちゃんがガチ病みモードに突入しそうだ。

「そうだ! ねえねえ、今度は私に行く場所決めさせてくれない? それでお相子ってことで」

「……いいの? それで許してくれる?」

 涙の浮かんだ瞳でうるうるとこちらを見つめてくるこころちゃん。すっごくかわいいけど、ここでやっぱり許さないなんて言うのはかわいそうなので笑顔で頷いた。

「もちろん! さ、お出かけ続けよ?」

 といったものの、私に行きたい場所があるわけではない。

 私は妹ほどかわいくないし、計画を立てるのが上手でもない。でも、今日一緒にいるこころちゃんはとってもかわいい。

 思えば、お互いの私服を見るのは初めてだった。私は薄藍色のセーターの上から暗めの緑のカーディガンを羽織り、黒のロングスカートをはいている。

 対して、こころちゃんは明るい色合いのピンクのレースがついた服。リボンやレースがフリフリしていてかわいらしい。下は私と同じように黒のミニスカート。

 去年の流行は今こころちゃんが来ているような明るい色合いのピンク系だったが、最近の流行はむしろ落ち着いた色合いのものだ。

 もしかしたらこころちゃんは流行についていけてないのかもしれない。よ~し、一緒に行くところ決めた!

「それじゃあ、駅前のお洋服屋さんに行こ?」

 あそこならかわいい服もたくさん置いてあるし、最近の流行もちゃんと抑えてる。それに駅前にはいくつかお洋服屋さんがあるから、はしごするだけでもたのしいだろうし。

「いいね、一緒にお洋服買おっか!」

 再び笑顔になったこころちゃんと一緒に私たちは駅前に向かうことにした。


「これとかいいんじゃない?」

 私が手に取ったのは薄桜色のブラウス。落ち着いた色合いとシックな印象が大人っぽさを演出する。

 こころちゃんはやっぱりピンク系とか紫系が似合うように感じてしまうのは魔法少女の時のイメージに引っ張られすぎだろうか? 顔がかわいい系な分、もっとふわふわした感じの服のほうがいいだろうか。

「え~、これちょっと地味じゃない?」

 そう言ってこころちゃんは私のもつブラウスに苦言を呈す。

 こころちゃんの持つかごの中には、明るいピンクのニット。やっぱりこころちゃんは明るい色合いが好きなのだろうか。

「いや、最近の流行は落ち着いた色合いだよ? これくらい大人なやつのほうがいいって」

「流行に乗っかるだけだと楽しくないよ?」

「それは……そうかもだけど」

 む~。あんまりファッションに興味がないから言い返すような言葉がない。思えば私はファッションなんてどうでもよくって流行に則った服や、妹に言われて買ってもらった服しか持っていない気がする。

「う~ん、そういわれると弱いな……」

「……そうだ! 私がゆうちゃんの服選んで、ゆうちゃんが私の服選ぶっていうのはどう?!」

 こころちゃんの提案は非常に魅力的に思えた。それなら、こころちゃんが流行に乗り遅れてお友達からとやかく言われることもないし、私も流行から外れた独特な服を着られる。

 私は、持っていたブラウスをかごに入れて、もっともっとこころちゃんに似合うファッションを物色することにした。

 二人で一緒にお買い物するの楽しいな!

 でも、お昼ごはん、ちょっとミスっちゃったなぁ……

 でもでも、気にしすぎてゆうちゃんに心配かけるのはもっと良くない! 切り替えてこ!

 次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第37話!

『一匹狼は繕えない』

 お楽しみに!

 ただの、傍観者なの。

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