第35話 柔軟嬢は逃げ出さない
「魂共鳴:フワミライ!」
私の意志に合わせて、世界が暖かい光で覆われていく。光に包まれた芦谷さんにメドモの攻撃が命中するが、まったくダメージは通らない。私たちに守れないものはない!
「今のは……」
「芦谷さん!もう大丈夫!私がみんなを……世界を守るから!」
芦谷さんの隣に降り立ち、笑いかけて見せる。
「ありがとう。助かったわ。私の魔法は『なんでも軟化する魔法』。アユミちゃんの魔法は『全部を引っ張っちゃう魔法』。私の魔法でメドモを柔らかくするから、二人で倒していきましょう」
「う、うん!」
冷静な情報共有と指示で、私たちがやることは決まった。
私が不壊杖で向かってきたメドモを殴りつけるとメドモはぐにゃぐにゃになって潰れ、光のつぶになった。
芦谷さんの魔法でゴムのような弾性力を得たコンクリートは、魔法の引力によって引っ張られ、メドモにぶつかる瞬間に硬化し、強い衝撃を与える。複数のメドモをオリに変え、私たちは次々にメドモを撃破していく。しかし、倒しても倒してもどんどん次のメドモが湧いてきて、圧倒的な物量で襲い掛かってくる。
倒した後のメドモをよく見ると、光の粒は空に溶けていくことなく、あたりに拡散している。その時ふと周りを見渡すと、白い光の粒だけでなく、黒く濁った光の粒が見えている。
黒く濁った光の粒は次第に寄り集まり、人型のメドモへと変わった。
「キリがない……!」
次々に湧いてくるメドモ、そして残留する光の粒と黒い粒。おそらくだが、このメドモは倒しても消えない、循環する無限のメドモだ。しかも、進化能力付き。
さらに、先ほどまでは人間大のメドモしかいなかったのに、メドモどうしが折り重なって、街路樹ぐらいの大きさのメドモも現れた。
攻撃は通らないとはいえ、私では中型のメドモをやすやすと倒すことができない。中型の方は芦谷さんに任せて、私は小型を少しずつ倒すことにした。何度も何度もメドモの攻撃を食らうが私たちにはまったく効かない!
「ゆうちゃん! あんまり体で受けないで! 多分、ゆうちゃんが魔法杖になるのを狙ってる!」
確かに、ミライちゃんの魔法が適用され続ければ魔法化が進行してしまう。けれど、この量のメドモの攻撃を避け続けるなんてとてもじゃないが不可能だ。
「そんなこと言われたって……!」
このままではジリ貧だ、二人とも魔法杖になってしまう……!
その時、私の耳に空を裂く希望の音が届く。
絶望を切り裂いたのは、天空から降り注いだ魔法の剣だった。
「きゃっ!」
「……御剣ちゃん!」
驚いている私を他所に、天空から大量に降り注ぐ剣がメドモを刺し貫いていく。芦谷さんと共に、剣が降ってきた方向を見ると、無数の剣を発射する御剣さんを目撃した。御剣さんはたくさんのメドモを制圧し、私たちのもとへ降り立つ。
「もうすぐ喜読さんと元城ちゃんがくる。私たちで隙を作るから、芦谷さん、いつものやつお願い」
「オッケー。集中するから、私のこと守っててくれる?」
御剣さんが芦谷さんに小さく頷いて返す。私も芦谷さんに勢いよく返事した。
「う、うん。芦谷さんの邪魔はさせません!」
"いつものやつ"が何を指しているのかはわからないが、守る必要があるのなら、私はみんなを守るだけだ。
「ヘンゲンちゃん、とにかくなんかすっごいの!」
声が聞こえてきた方を向くと、こころちゃんがダモを肩に乗せ、ひとはちゃんと一緒にとてつもない速度で走ってきているのが見えた。ひとはちゃんは手に持った巨大な刀を一薙ぎし、メドモを一網打尽にする。
「ゆうちゃん、芦谷さん! 大丈夫?!」
駆け寄ってきたこころちゃんの顔を見て、私は心底安心した。
「こころちゃん! ひとはちゃん!」
「全員で芦谷さんを守るぞ!」
御剣さんの号令で、私たちは芦谷さんの周りに集まり、無限に湧いてくるメドモを迎撃する。初めは十数体しかいなかったメドモは現在、二十ではきかないほどに増え、その半数は中型のメドモになっていた。
でも、それでも。私たち五人で戦えば! 切り抜けられないわけがない!
こころちゃんの『あなたの心を覗く魔法』が芦谷さん以外の四人に共有される。お互いの表層心理だけを読み取り、情報の伝達が迅速にできるようになる。
私は、ひとはちゃんと御剣さんが精いっぱい暴れられるように、ミライちゃんの『みんなのことを守る魔法』でみんなと辺り一帯を保護する。
ひとはちゃんはヘンゲンちゃんを巨大な鞭のような剣……御剣さんの思考によるとウルミというらしい……をぶんぶん振り回してたくさんのメドモを光に変える。
御剣さんは剣を発射するのとおんなじ魔法で空へと飛びあがり、高所から大小さまざま無数の剣を発射して中型小型関わらずたくさんのメドモを光に変えている。
そうして四人でメドモを倒し続けていると、目をつむっていた芦谷さん口を開く。
「……おまたせ、みんな」
芦谷さんは力強く目を開き、迫力のある声でメドモへと宣告した。
「私たちを傷つけようとするなら……自重で潰れちゃいなさい!!」
芦谷さんの声が響いた瞬間、周囲のメドモが一斉にぐずぐずに柔らかくなって崩れ、光となって消えていった。メドモの出現は止まらなかったが、メドモは現れたそばからぐずぐずになって自重で潰れて消えていった。
「みんな、おつかれ。なんとかなったね……」
空から降りてきた……というよりは落ちてきた御剣さんは着地の一瞬だけふわっと浮かぶとゆったりと降り立つ。
「モモダ、モダ?!」
「うん、みんな無事だよ、ダモ」
心配そうに何事か言っているダモにこころちゃんが優しく笑いかける。
メドモの出現が止み、私たちは安堵を浮かべていた。相変わらずダモは何を言っているのかわからないが、こころちゃんの口ぶりからすると、私たちの心配をしてくれたのだろうか。
「なんだったの?! さっきのメドモ!」
私は感情に任せて理不尽なまでの物量のメドモへの不満を述べる。
「さあな。最近不可解なことが多すぎる。一般人を狙うでもなく、二人の方を狙ったのも何か裏を感じる」
「……そうよね、御剣ちゃん。私も何者かの意図を感じるわ」
私のかんしゃくを聞いた御剣さんと芦谷さんの言葉は、この先に立ち込める暗雲を暗示しているかのようだった。
§
そろそろ、終わりにしよう。
二十三回、同じ季節を迎えた私の体は、そう結論付けた。
午前二時。つい先ほど退勤したばかりの体はエネルギー切れを訴えている。
胃の中身は空っぽで、私の精神と変わらない、伽藍洞が存在している。いや、何もないのだから存在していない、のか。
兎角、今の体は死体に変ずるのに都合がいい。胃の内容物が存在する死体は、死臭に交じって吐しゃ物の臭いがして、それはもうひどい匂いなのだそうだ。確か、どこかの推理小説でそんな描写がされていた気がする。
とはいうものの、これから私がするのは、なんのひねりもトリックもない、投身自殺だ。
会社の屋上。私のことをボロ雑巾が如く使いつぶしたこの会社で死人が出れば、多少はこの会社の不利益になるだろう。
最後の最期にささやかな復讐ができるのであれば、ここで死ぬことに多少の意味もあるというものだ。
私は、フェンスを乗り越え、輝く夜景を見ながら。
その日、私はダモに出会ったんだ。
§
「っていうか、芦谷さんも一緒に料理作りましょうよ!」
魔法少女みんなでホームに帰ってきたら、浮世ちゃんが開口一番言い放った。まあ、バレちゃったらそうなるか……
「浮世さん、何言ってるんだ? 芦谷さんはまだ子供なんだからしょうがないだろ?」
唯一事情を話していた御剣ちゃんがすぐさまフォローに入ってくれた。けれど、一度バレてしまったのなら仕方がない。
「御剣ちゃん。もう隠さなくていいのよ。バレちゃったらしょうがないし」
私は変身を解いて大人の姿に戻る。社会的制約に囚われたかごの中の鳥に。
小学生とか高校生がいるお家の中にいるって、私通報されないかしら。そんなこと考えていたら、元城ちゃんが驚きの声をあげた。
「え!?!?!?! えかちゃん、大人だったの?!!?!?」
「うん、そうなの。ごめんね今まで黙ってて」
唇に指を当てて、怪しく笑って見せる。子供相手にかっこつけるのは少しだけ楽しい。
「まあ、芦谷さんがいいならそれでいいけど、さ」
やれやれ、といった風に御剣さんは息をつく。そして、浮世ちゃんがあわあわしながら口を開いた。
「あ、いや、その、大人だったこと暴きたかったわけじゃなくって……」
「いいのいいの。浮世ちゃんが恥ずかしいことじゃないって言ってくれたんだもの」
私が変身を解いたのを見て、動揺している浮世ちゃん。子供たちに混じって小さい女の子の格好で魔法少女をやるって、かなりキツいけど、この子たちは、あんまり気にしてないみたい。それなら、私が割り切るだけ。だけど、もうとっくの昔にそんなものは割り切れている。
「自炊歴長いお姉さんが、今日の晩御飯作っちゃうぞ~♪」
「やった~! 私、カレーライス食べたいです!」
ホームの家主のひとはちゃんが元気に笑う。私はノリノリで返事をしてスーツを脱いで腕まくりした。
「お、了解~すぐ作るから待ってて~」
さすがに料理得意な御剣ちゃんほどではないにしろ、そこそこおいしいカレーを作ることができ満足。そのあとお酒とおつまみと、子供たちのためのジュースを買ってきて晩酌した。
やっぱり大きなトラブルを解決した後は、お酒がうまい。
うへへへぇぇ~~きょうはみんなでめどもやっつけらぁれれ~よかった~~~ははははぁ
うっぷ……やば、おなかぐちゃぐちゃぁへへへやっばぁ~……
よぉぉぉぉししし、おねえぇさぁんら~じかいもがんばっちゃうろ~!
じかい、ふゆうじょうはおひぶへまい!だいさんじゅうろくわ!
『ほおむにばっかりももらない』
おたのひみみ!
わたひはぁ、あなたたひにまかへるよ。




