第34話 繋がる絆は断ち切れない
それは一瞬の出来事だった。
芦谷さんが、魔法で私を上空に吹っ飛ばしたのだ。
突然の出来事に驚きつつ、私は空中で体勢を直し、地上の状況を俯瞰する。
私たちがいた周囲には、十体以上の人間大のメドモがいた。その姿は人間の姿に酷似しているが、一つ違う点があるとすれば、その腕が鎌のような形になっている点だろうか。
芦谷さんの目の前には、腕の鎌を振りぬいた格好のメドモ。先ほど、芦谷さんが私を上空に吹っ飛ばしたのは、メドモの凶刃から守るためだったようだ。
「芦谷さん!」
「御剣ちゃんに連絡を! 周囲の一般人への被害を第一に考えて!」
地上へ向かおうとした私に芦谷さんが指示を出す。聞く耳を持たない私は、それでも地上へ向かおうとしたが、その時芦谷さんがアスファルトを柔らかくした。メドモが見る見るうちに沈んでいく。軟化によって液状になったアスファルトにメドモが沈み込んでいるのだ。
その様子を見た私は、芦谷さんの強さに驚くと同時に、私自身が冷静さを欠いていたことに気がついた。
私は、空中で御剣さんに連絡する。メドモの発生と場所を端的に伝え、周囲の家屋に一般人が残されていないか確認するため、地上に降りようと視線を地上に戻したところで、私は目を疑った。
先ほどまで人型をしていたメドモは、二足ではなく、六足になっており、液状化した地面の上を滑るように移動していた。それはまるで、アメンボのように。
複数のメドモにつけ狙われる芦谷さんはどう見ても劣勢だ。芦谷さんは地面の液状化を解除することで、メドモの機動力を奪おうとしたようだが、メドモは細かい毛の生えた足を器用に動かし、液状化したり硬化したりする地面に適応している。
芦谷さんは、メドモの攻撃を避けるために、私を吹っ飛ばしたのと同じ魔法で高速移動する。塀や電柱をゴムのように柔らかくし、弾性力で跳ね返って予測できない軌道で跳ね回った。
地上の様子に気を取られていた私の耳に、耳障りな不快な羽音が届く。
自身の周囲を見ると、二足のまま、二対の羽が生えたメドモが飛んでいた。私を攻撃するため、羽を生やしたのだ。
「そんなのあり!?」
私は羽の生えたメドモの攻撃を避け、不壊杖でメドモを叩く。非力な私ではまともなダメージは与えられないが、空中での制御を失わせ、撃墜するには十分だった。
襲い掛かってきた二体目を攻撃して撃墜し、三体目には自分から攻撃した。しかし、三体目のメドモは空中でよろめいたものの、撃墜には至らず、すぐさま私に刃を切り上げてきた。
私は突然のカウンターを避けることができず、顔面にメドモの刃が直撃した。しかし、私に攻撃は効かない。
「私にはミライちゃんがついてるんだよ!!!」
カウンターを決めてきたメドモに全霊を込めた横殴りを決める。けれど、全力の攻撃でも撃墜には至らない。
このメドモ達、きっと進化しているんだ。
私はミライちゃんのおかげで攻撃なんて気にしなくても大丈夫だが、芦谷さんはそうもいかない。ふと視線を下に移すと、芦谷さんが高速移動しながら、メドモを吹っ飛ばしているのが見えた。
私に向かってくるメドモがほんの数体なのに対して、芦谷さんのほうは十体以上のメドモが取り囲んでおり、明らかに多勢に無勢だ。しかも、このメドモは状況に応じて姿を変え、進化する性質を持っているようだ。そう考えると、最初から手が鎌になっているのもより殺傷力を高めるための進化なのではないかと考えられる。
私に攻撃が効かないと察した空中のメドモは私への攻撃をやめ、芦谷さんの方へ向かった。
「あ! ちょっ!」
一瞬判断が遅れた私は、メドモの後から地上へ向かう。空中から一斉に降り立つメドモは芦谷さんの軌道上へ、意識外から攻撃を仕掛ける。
間に合わない。
また、私には守れない。また、失ってしまう。私が弱いから。私が、私が、私が。
守りたい。失いたくない。私の魂の叫びが絶望によって塗りつぶされる。
ふと、心の中に声が聞こえた。知らない声。聞き覚えのある声? やっぱり知らない声。
「魂共鳴」
§
また、私は白い世界に立っていた。目の前には知っているけど知らない女の子。少し年上だろうか。大学生くらいに見える。
銀色のピアスが印象的で、薄紫のカーディガンの下にゆったりとした白銀色のレース生地を身に着けている。
「やっと会えた! 初めまして! ゆうちゃん!」
「初めまして。……えっと、不破みらいちゃん?」
私が名前を呼ぶと、目の前の女性は口に手を当て驚愕の表情を浮かべた。
「え!? 嘘!? 私のことわかるの?!」
「えへへ、だって、いつも一緒にいるじゃん」
本気でびっくりした様子のみらいちゃんになんだか照れ臭くなる。
続いて私は、一週間前にも訪れたことがある、この世界について尋ねてみた。
「どうして、というか、ここは?」
「ここは、魔法の世界。魂と魂が出会う場所。魔法杖の魂がある場所」
そこで一息入れたみらいちゃんは真剣な面持ちで私を見つめ返す。
「あなたをここに呼んだのは、あなたに魂共鳴できるようになってもらうため」
「魂共鳴……」
魂共鳴。それがあるから、御剣さんや芦谷さんは私よりもずっと強い。それがあるから、ダモは私たちの魔法を使えた。
それがないから、私はちひろちゃんを守れなかった。
「魂共鳴は私たち魔法杖とあなたたち魔法少女との魂の深いつながり」
私は以前ダモとつながった時の感覚を思い出していた。まるで魂が縛り上げられるかのような、深く、強いつながり。あれが、魂共鳴……
「あなたの魂の叫びが、私と重なったから。私がここに呼びこむことができたの」
「……私、もう失いたくない。みんなのことを、守りたい」
私の言葉に、みらいちゃんは頷いた。その瞳は力に満ちている。
「私もそうだった。だから、守ろう。私の力で。|私たちの力《みんなのことを守る魔法》で」
みらいちゃんが私の手を握る。私は、みらいちゃんの言葉に頷き返して、その手を握り返す。
「「魂共鳴」」
ダダモダモダモダモダモモモダモダモダモダダモモモモモダモダ?!
ダモダモダモモモダダダモモ!
モダダモ……モダモモモモダモモダ!
モダモ、モモダダモダモダモダダモ、ダモダモダモモダ!
『モモダダモモダモダダダダモ』
モダモダモダ!
モモ、ダモモッダ。




