第31話 絶対君のせいじゃない
最近、お姉さまの元気がありません。
正確には、二日ほど前、日曜日の夜には元気がありませんでした。一週間前の月曜日から夜になったらお姉さまとお話しするようになったのはいいものの、この三日間は何を話しても上の空で、ずっと落ち込んでいるようでした。
それとなく、何があったのか聞こうとしたら、はぐらかされてしまいました。
恐らくは、あのアパートが関係していると考えられます。カバンに取り付けたGPSの反応をみていると、やはりあのアパートに行っているようでした。
あのアパートで何があったのか。突き放されるようなことがあったのなら、わたくしへの依存が深くなりいいのですが、この二日間もあのアパートへ行っているご様子。
わたくしに事情を話してくれないのならば、わたくしにできることはありません。
ですが、お姉さまが思い悩んでいらっしゃるのに、妹であるわたくしが何もしないなど許されません。
一通の手紙をしたためて、わたくしはあのアパートへ向かいます。
§
最近、ゆうちゃんの元気がない。
当たり前だよね。ちひろちゃんのこと、一番気にかけてたんだもん。
私はこれで、仲間が魔法杖になるのは三回目だけど、ゆうちゃんはこれが初めてだもんね。
前に、ダモが言っていた。魔法杖になっちゃっても、魔法少女は死んでないって。魔法杖の中で、魂が残ってるんだって。
でも、そんなこと言われても、いなくなっちゃった子とは話せないし、顔も見えないんだもん。ゆうちゃんは初めてだから、もっと傷つくよね。
あれ? 私は?
私は、悲しくないの?
ちひろちゃんは、一番年が近くて、わたしにも優しくて、今まで魔法杖になった子のなかで、一番仲が良かった。
そう思った時には、自然と涙が出ていた。
「ダモ……やっぱり私も悲しいよ。なんでちひろちゃんが……」
ダモは悲しそうな顔で私を見つめ返してくる。私たち二人にはやっぱりこの部屋は広くて、すすり泣いた声が嫌に響いていた。
次の日、ポストには一通の手紙が届いていた。
§
私のせいだ。私のせいで、ちひろちゃんは魔法杖になった。
私がちゃんとちひろちゃんを止めていれば。周りに気を配っていれば、メドモの出現に気づけていた。ちひろちゃんは、攻撃されなかった。
何がサポートに徹するだ。ちひろちゃんに頼り切って、なんにもしてなかったじゃないか。
私のせいで。ゆうちゃんは元気をなくしてしまった。全部全部、私のせいだ。
今日つけたばかりの生傷がまだ痛む。この痛みは、ゆうちゃんの痛みに比べたら……
「こころちゃん……」
「どうしたの? ひとはちゃん」
ホームでひとはちゃんに声をかけられる。私は内面をのぞかせないように、精一杯笑顔を作ってみせた。
「あの、こ、これ」
渡されたのは、一通の手紙。
§
「ゆうちゃん」
突然、こころちゃんに声をかけられた。場所はホーム。なぜか、二人きり。
ああ、そうだ。さっき、ひとはちゃんと御剣さんとえかちゃんでパトロールに行ったんだっけ。なんで三人なんだっけ。まあいいか。
「なに。こころちゃん」
「……その。」
ああ、そっか。私怒られるんだ。だって、ちひろちゃんがいなくなってから、私パトロール行ってないもんね。そろそろ、私もパトロールいかないとなのに。
「ちひろちゃんの、ご家族に会いに行ってみない?」
「え……」
こころちゃんから思ってもみないことを言われて、一瞬固まってしまった。
「その、ちひろちゃんのご家族って、たぶん魔法少女の事情とか知らなくて、あの、だから」
「行きたい」
私の口から、知らない思いが飛び出した。申し訳なくって顔向けなんてできないけど、でも、守れなかった責任として、私は謝っておきたいんだ。
「う、うん! 行こ! ダモに聞けば、たぶんわかるから!」
「ダダモダ!」
久しぶりにダモの声を聞いた気がする。今や意味の分からない音でしかないが、こころちゃんなら、彼女の言いたいことがわかる。
久しぶりに、世界が意味を取り戻した。明確な意思を持って、私たちはホームの玄関を開けた。
「ごめんね、私のせいで」
「……え?」
こころちゃんがなぜ謝るのか、本当にわからない。そもそも、何に対する謝罪なのかも、見当がつかない。
「私のせいで、私が周りの状況をもっと確認してれば、ちひろちゃんは……」
「こころちゃんのせいじゃないよ」
俯きがちに隣を歩くこころちゃんに慰めのような言葉を返す。そんな言葉望んでいないことを知っていながら。
「でも、あのとき一緒にいたのは」
「それでも、君のせいじゃない」
あの日、私がちひろちゃんの提案を支持しなければ、ちひろちゃんは魔法杖にならなかった。ダモだって、きっと今まで通りでいられた。
「きっと、私のせいなの」
「モモダモモダダモ!」
「……ごめんね、ダモ」
こころちゃんにはわかるのかもしれないけれど、私にはダモがなんて言っているのかわからない。もしかしたら、すごく責められているのかも、ダモなら慰めてくれるかな。
「ダモが、そ」
「いいの」
ダモの言葉を伝えようとしたこころちゃんを遮った。重たい空気が流れる街を歩いていると、ダモが目的地への到着を教えてくれた。
「あれが……」
それは、ホームと似たり寄ったりなアパートだった。
「あ、あの人じゃない?」
こころちゃんに言われて、出てきた人を見つめる。キャバクラで働いているのだろうか。真っ赤で派手なドレスを着た女性だ。そのドレスはちひろちゃんの魔法衣装によく似ていて、ちひろちゃんとあの女性を自然に結び付けていた。
「すみません!」
駆け寄った私に怪訝そうな目を向けてくる。後からついてきたこころちゃんは変身を解いていて、私の隣に並び立った。
「なに、あんたたち」
「その、不知火ちひろちゃんのお母さんですか?」
こころちゃんが女性に向かって問いかける。私はこころちゃんに続いて女性に話しかけた。
「ちひろちゃんのことでお話ししたいことが」
「は?知らねえよ」
飛び出した言葉に、私たちは耳を疑った。とても三日間も子供が帰らなかった親の言葉ではないと感じた。
「うちはこれからおっさんと同伴しねえといけねえんだよ。ガキにかまってる暇ねえの」
吐き捨てると、女性は私とこころちゃんの間を肩をぶつけながら通り抜けて、足早に立ち去った。
鋭い目つきのこころちゃんが、変身して振り返る。しかし、その表情は驚愕に染まった。
「うそ、でしょ?あの人、自分のことしか考えてない……」
ダモ、まさか元魔法少女だったなんて……
なんでオレに言ってくれなかったんだよ!
……みんな元気ないな。今オレにできることは……?
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第32話!
『固めた決意は揺るぎない』
お楽しみに!
あなたにだって、救われる資格はあるんだよ。




