第32話 固めた決意は揺るぎない
魔法少女達の元気がない。まあ無理もない。シラヌイちゃんが魔法杖になっちまったんだ。仲の良かった魔法少女達には堪えるだろう。
買い物途中だったが、意識はパトロール中に見せられた手紙に移っていた。
浮世さんの元気がないこと、差出人にはどうにもできないから、俺たちにどうにかしてほしいこと。なんとも勝手なことだ。
大体、なぜ俺たちが浮世さんのご機嫌とりしなくちゃなんねえのか。そういう空気読むとか慰めるとかが大嫌いなんだ。
「アイツ何が好きかな……」
ハンバーグはけっこう喜んでたはず。でも、好きな食べ物とかはなさそうなんだよな。それなら元城ちゃんが好きなオムライスでもいいか……?
芦谷さんからもらった食費にはまだすこし余裕がある。ひき肉に鶏もも肉、お菓子にジュース。たくさん買って、一人で持つには重たい買い物袋を提げて、魔法少女達の待つホームへの帰路についた。
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「それじゃあ、さっきも言った通り、魔法少女会議を行います」
御剣さんが音頭を取って、4回目の魔法少女会議が始まった。のだが……
「な、なんでこんなにお菓子とジュースが?!」
目の前のテーブルにはポテトチップスやオレンジジュースに加えて、チョコレートや炭酸飲料も並べられていた。
「まあまあ、細かいことはいいから。好きなだけ食べな?」
「そういいながら晩御飯も持ってきてるし!?」
御剣さんは一席分開けて、みんなにオムライスの上にハンバーグを乗せデミグラスソースをかけたとんでもないごちそうを持ってきた。
「はーいじゃあみんな手を合わせていただきます、と」
「こんな量食べきれるの……?」
気持ち少なめのオムライスに大きなハンバーグが乗っている。そのうえからたっぷりデミグラスソースがかかっていて、とてもおいしそうだ。
「お菓子とかジュースは食べきらなくてもいいし。オムライスハンバーグは食べきれる量に作ったつもりだけど、食べきれなかったらアタシが余りを食べるよ。好きなように食いな」
正直言って、さっきの出来事のせいで、あんまり食欲はないけど、せっかく御剣さんが作ってくれたごちそうを無下にもできなくて一口食べてみる。
「こ、これ」
「おいしい……!」
こころちゃんの驚きの声に続けて私は感嘆の声を上げた。一口食べたえかちゃんが、ゆったりと笑う。
「さすが御剣ちゃんね」
私たちはそろいもそろって、感嘆の念を覚えた。こんなにおいしいものを食べたのは久しぶりだ。ひとはちゃんに至っては無言でスプーンを動かし続けている。付け合わせのサラダには粉チーズとクルトンが乗っていて、まるでレストランで食べるような完成度の高さだ。
「うまいか?それならよかった」
自慢げに鼻を鳴らす御剣さんがすこし新鮮でなんだか楽しくなってくる。
「なんで、こんなパーティーみたいなことを……?」
口を突いて出た疑問に御剣さんは気まずそうに眼をそらす。
「その、みんな元気がなかっただろ……だから」
言われて、この三日間の自分を思い返す。辛気臭い顔をして、虚ろな目をしていたに違いない。
「……だ~~! もう! アタシは人を慰めるとか苦手なんだ !だから、うまいもん腹いっぱい食べたら、すこしは元気が出ると思って」
ふとテーブルを見渡すと、みんなおいしそうに、食事を楽しんでいた。満面の笑みを浮かべ、楽しそうに談笑している。
それなら私も、心の底から食事を楽しむことにしよう。
オレンジジュースを注いで、デミグラスソースのかかったハンバーグとオムライスを一口で頬張って。溢れる肉汁とケチャップライスの味が口の中を染め上げて、口の中のものを飲み下した後でジュースを飲みほした。
日曜日からの三日間は食事に味がしなかった。何を食べても、だれと食べても、なにもわからなかった。でも、今この瞬間に私は食事の楽しさを思い出すことができた。
オムライスハンバーグを食べきって、ジュースとお菓子を好きなだけ食べて、私は幸せな満腹感で満たされた。なんにも考えられない。
「ごちそうさまでした~……」
「お粗末様でした。すこしは元気でたか?」
「はい、すごく幸せです~……」
満腹で回らない頭に、優しい声が響く。私は、体中を巡る幸福感を言葉で形容した。
「それならよかった。みんなの元気がないと、シラヌイちゃんも悲しむだろうからな」
そっか。ちひろちゃんは元気な子だった。私たちの元気がないと、チヒロちゃんも杖の中で不安になっちゃうかもしれない。
チヒロちゃん、ほんとうに、守れなくて、ごめんね。私が、もっとちゃんとしてれば……
「……別に、泣くなとは言わないよ。けど、好きなだけ泣いたら、今度は前向いてシラヌイちゃんの分まで生きないと」
「……今日こころちゃんと、チヒロちゃんの親に会いに行ったんです」
あの時のことを思いだしながら、少しずつ言葉を紡ぐ。嗚咽を漏らしながら、涙をぬぐって声を出す。
「チヒロちゃんの親に、チヒロちゃんのこと謝らないとって思って……」
みんな、黙って聞いてくれている。整理しきれない気持ちを整理しながら、なんとか記憶を共有する。
「そしたら、チヒロちゃんのお母さんに、チヒロちゃんのことなんか知らないって言われて」
「私が心の声を聞いてみたら、あの人、自分のことしか考えてなくて」
私の独白に、こころちゃんが追従する。胸の痛みで、嗚咽で、胸がつかえて言葉が詰まる。
「私、謝れなかった。チヒロちゃんのこと、守ってあげられなかったのに、許してもらえなかった……」
涙が次から次へと零れ落ちて、もうまともに話すことはできなかった。
「……はぁ。なんで浮世さんが謝らないといけないんだよ」
「だ、だって、わた、わたしが」
「それを言うなら、魂共鳴ができるアタシもそうだろ?なんなら、アタシがついていれば、ダモモンがこんなことになることもなかったかもしれないし」
言葉をうまく発すことすらできない私に、御剣さんは優しい言葉をかける。えかちゃんが御剣さんに続けて、私を慰める。
「そうそう。私たちが頑張ってれば、チヒロちゃんもダモちゃんもこうならなかったかもしれない。でも、私たちがいてもこうなってたかもしれない。あなたはなんにも悪くないんだよ」
二人は魂共鳴できるから。私よりも強いから。私がもっと強く、速く、チヒロちゃんのことを気にかけていたら……
「で、でもぉ」
「あれは、ただの事故だ。誰も悪くない」
きっぱりと告げる御剣さんは優しい瞳をしていた。
「アタシたちにできるのは、シラヌイちゃんの分までこの街を守ることと、あんな事故をもう起こさないことだけだ」
「……ありがとう、ございます。御剣さん」
「礼には及ばないよ。元気がなかったのはみんなだ。おいしいもん腹いっぱい食べて、みんな元気になってほしかっただけ」
御剣さんは切なそうな顔で笑った。その笑顔が、悲しそうにも見えて、私は息をのんだ。
当たり前だ。チヒロちゃんを失ったのは、私だけじゃない。辛いのはみんな一緒なんだ。
私たちは、チヒロちゃんの分まで、守らないといけないんだ。生きていかないといけないんだ。もう誰も失わないために。
浮世ちゃん、無理してるなぁ……
まあ、しょうがないんだけれど、子供に無理させ続けるわけにはいかないわよね。
さっさと目の前の仕事片付けて、ちゃんとお話ししましょう。
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第33話!
『子供のままではいられない』
お楽しみに!
それでも、……君のおかげだから。




