第28話 私たちはもうあやまれない
「ねえねえ! 二人ずつに分かれてパトロールしない?!」
ホームを出た直後、四人で歩き出すとちひろちゃんは真剣な表情で主張した。
「四人で歩いてたら、街を見て回るのに時間かかると思わない?!」
ちひろちゃんから爆発させたいという気迫が伝わってくる。けれど、やっぱりそれを認めてしまうのは危ない気がした。
「でも、二人ずつで分かれたら、大型のメドモが出てきたとき危ないよ?」
「でもでも! こころちゃんと私はあんまり速く動けないけど、ゆうちゃんとひとはちゃんは素早く動けるでしょ? だからねだからね!」
こういうときのちひろちゃんはすごく頭が回る。目的達成のために整理された言葉に私は言いくるめられそうになっていた。
話を聞いていたこころちゃんが私の方に乗ったダモに問いかける。
「う~ん……ダモどう思う?」
こころちゃんは首をかしげてみせる。ダモは可愛らしい顔を険しくして答えた。
「こころちゃんとゆうちゃんが分かれるなら連絡は取れるけど……二人ずつで戦うのは危険だと思うな」
私としてはちひろちゃんの味方をしてあげたかったので、ダモに追加の条件を提示してちひろちゃんの援護をすることにした。
「じゃあ、メドモが現れたら、私とこころちゃんで連絡して、それまでは戦わなければいいんじゃない?」
「だよねだよね! ねえねえ! いいでしょ?」
ダモは険しい表情のまま頷くと窘めるように言った。
「じゃあ、ちひろちゃん。ボクたちが来るまでは戦わないって約束できる?」
「うん! ちひろねちひろね! ゆうちゃんたちが来るまでは戦わないよ!」
「約束できるなら、二手に分かれようか。ボクはゆうちゃんとひとはちゃんと一緒に街の東側に行くね。」
東側は比較的人が多い、商業的なエリアだ。機動力のある私たちなら、人に被害が出る前に、メドモの誘導くらいはできるだろう。ダモ、抜けてるように見えてちゃんと考えてるんだなぁ。
「こころちゃん、何かあったらすぐ連絡してね!」
「もちろん! じゃあ何もなかったら十八時くらいにまたホームで会おうね!」
私たちは二手に分かれてパトロールを始めた。遠ざかる私たちの間を、名残惜しそうに一陣の風が通り抜けた。
§
「こころちゃん! 早く早く!! (こころちゃんはやくー!!)」
私はちひろちゃんと一緒に街の西側をパトロールし始めた。といっても、ちひろちゃんの魔法杖……探査杖のアイミキミカ、だったか。以前一緒にパトロールしたときに教えてもらった魔法杖の力で、メドモを見つけることはたやすい。
せいぜいやることといえば、出てくるまでは適当に散策して、ちひろちゃんとの雑談を楽しむことくらいだ。
といっても、ここ一週間はまったくメドモが出現していないので、今日も出てこないと思っている。というか、出てこないといいなぁ。
正直言って、私はメドモが嫌いだ。魔法少女として戦うこと自体、あんまり得意ではない。
私の魔法は戦うことに向いていない。相手の心の中を読んで、勝手に傷ついてヘラるくらいしか使い道がない。
魔法少女達の心の中を読んでみると、みんな純粋で、優しいことがわかる。けれど、そんな魔法少女の心中を勝手に読んでいる、秘密を勝手に暴いていることへの罪悪感で押しつぶされそうになる。
私は、前々からひとはちゃんの秘密を知っていた。
ひとはちゃんだけではない。みんなの秘密を、知っていた。知ってしまった。
なのに、なのに私は、なんにもしてこなかった。
私には、みんなと一緒に笑いあう資格が
「わ! (驚かしちゃお!)」
「きゃっ」
考え事で頭の中がいっぱいになっていた私の目の前に大きな声を出しながらちひろちゃんが現れた。私は目を白黒させながらいたずらな笑みを浮かべるちひろちゃんの顔を見つめ返す。
「えへへ! 驚いた? (驚いてそう!楽しい!)」
「……めっちゃ驚いた。急にどうしたの?」
「だってねだってね、こころちゃん、また暗い顔してたよ?(元気出たかな??)」
今はパトロール中だ。年下の子を不安にさせるわけにはいかないのだから、しゃんとしなければ。
「あぁ……ごめんね」
「大丈夫だよ! ちひろがいるんだもん! メドモなんて怖がらなくっても大丈夫!!(メドモのことたっくさん爆発させたいな!!)」
あぁ、何か勘違いしているけれど、ちひろちゃんが自信家でよかった。
「それにね、ごめんね、じゃないんだよ! (やったやった!この前の知識披露できる!)」
「え? どういうこと?」
この前の知識……? なんのことかわからないままに、私はちひろちゃんに聞き返した。
「こうやって、励ましてもらった時にはね、ありがとう、って言うんだって! えかちゃんが言ってたの! (えへへ! ありがとうっていってほしいな!)」
「芦谷さんが……?」
「うん! この前パトロールしたときにね、ちひろね、建物を爆発させようとしたの! それをね、えかちゃんに止めてもらったんだ! その時にね、ごめんなさいじゃなくって、止めてくれてありがとうっていうんだよって、えかちゃんに教えてもらったの! (えかちゃんにいいこと教えてもらえてよかった!)」
いい話だ……といいたいところだけど、建物を爆発させようとしたくだりが恐ろしすぎる。私にちゃんとこの子を監督できるかな……
「そっか。……ありがとう、ちひろちゃん」
そのとき、探査杖が今まで見たことがないくらいに光輝いた。
それと同時に、ちひろちゃんも探査杖とおんなじくらいに目を輝かせた。
「こころちゃん! (早くメドモを爆発させたい!)」
「うん。二人に連絡するね!」
「そうなんだけど、ちひろねちひろね、先に爆発させたい! (もう待ちきれない!)」
さっきの約束はどうしたんだ。と思うけど、今までたくさん我慢したんだもんね。ここで止めたら私が爆発させられちゃいそう。
「わかった。二人に連絡するから、二人が来るまでは安全に気を付けて戦ってね」
メドモと戦うとき、私は専らサポートに回る。今日もおんなじだ。違うのは、待っていれば二人が来るということ。
といっても、大型のメドモくらいならちひろちゃんの火力で一気に倒せるし、本当に私がやることは連絡くらいだろう。
メッセージを送るために指を走らせながら、メドモの下へ向かったちひろちゃんの後を追う。
数十秒走ると、カマキリの上半身に甲虫のような下半身をもった大型のメドモが目に映った。今日のメドモは大型だが、一体ならば、ちひろちゃんだけで、問題なく対処できるだろう。
メドモが近くにいるとき特有のノイズのような心の声が頭の中に響いてくる。メドモはオリという精神由来のエネルギーの塊だが、メドモ自体には意思が宿っていないため、この不快なノイズが毎回頭の中に響いてくるのも、メドモの嫌なところの一つだ。
「やっと会えたね!! 大好きだよ!! (爆発させるの大好き!!)」
いつもの掛け声とともに、ちひろちゃんの体から愛が光となって溢れ出す。
無数の小規模爆発がメドモの体を襲い、大きく仰け反る。ちひろちゃんは攻め手を緩めることなく、さらに愛を放って大きな爆発を起こす。大型のメドモがいたあたりを光の粒子が舞っている。大きなダメージを受けたメドモが実体を維持できず、オリ化しているのだろう。それと同時に、頭の中に響いていたノイズも徐々に薄れていく。
「やったーー! でもねでもね! も~っと爆発させたいな! (もっともっと爆発させたい!!)」
魔法由来の轟音が辺りを覆い、世界が大きく揺れているように感じる。
そのとき、手に持っていたスマホが震える。ゆうちゃんからだ。
ゆうちゃん達が今西側に向かっているらしい。だが、この様子ならその必要はなさそうだ。
頭の中からノイズを一度追い出して、ゆうちゃんに「もう大丈夫そう、ホームに帰ってもいいよ!」 と送った。かわいいスタンプなんかもつけて、今日も平和に一日が終わる。
その時、なにか違和感がした。頭の中のノイズが消えていない。
いや、むしろ、徐々に大きく……
直後、ぐちゃり、と何かが潰れるような音がする。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴたぴたぴたぴた。先ほど止んだはずの雨が夕立として世界に降り注ぎ始めた。
顔をあげると、大型のメドモ。先ほどのメドモは消えたはず……まさか、一体じゃなかった?!
辺りを見回して、被害の状況を確認する。さきほど、ちひろちゃんが立っていた場所の真横の建物が壊れ、そこからメドモがこちらを覗いている。一般人が巻き込まれている、ということはなさそうだ。今見えているメドモは四体。目の前に一体、その横に一体、奥に二体だ。
大型のメドモが、それも四体もいるのはさすがにちひろちゃんでも手に負えない……なんとかちひろちゃんとこの場を切り抜けて、二人がくるまで避難しないと。……そこで私は、一つの異変に気が付いた。
おかしい、ちひろちゃんの姿が見えない。どれだけ見回しても、煌びやかな赤いドレスを着た魔法少女が目に映らない。
ザアアアアア。耳に入る雨音か、頭の中のノイズなのか、もはや区別がつかない。
ちひろちゃんの手掛かりになりそうなのは、黄緑色の魔法杖。先ほどの音を生み出した、メドモがカマを振り下ろした先に、その魔法杖が見える。それと、もう一本赤い魔法杖がそこには転がっていた。……魔法杖が二つ?
目の前に見えるメドモが、地面に転がる二つの魔法杖を取り込もうとしていた。
今日は四人でパトロール! ……と思ってたら、二手に分かれることになっちゃった!
しかも、ゆうちゃんたちはお空飛んでるし、足元水たまりばっかりだし……
……ちひろちゃんたち大丈夫かなぁ?
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第29話!
『君がいなくなるわけがない』
お楽しみに!
君がいたからなんだよ。




