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浮遊嬢は落ちぶれない  作者: 七色
第七章 始源嬢は救えない
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第27話 お昼下がりは動かない

 今週一週間はあっという間だった。

 放課後、パトロールしたり、こころちゃんと一緒に晩御飯を作ったり。ダモとひとはちゃんも手伝いたいって言ってくれて、ダモがレシピを読み上げてくれたり、ひとはちゃんに包丁の扱い方を教えたり。ひとはちゃんがケガしなくって良かった。三人と一匹で作ったクリームシチューは優しくって暖かくって、幸せの味がした。

 夜、かいと話すのも楽しくって。私は初めて、かいがこんなにも笑う少女であることを知った。それと、改めてかいが自分とは似ても似つかない優秀な人間であることを思い知った。どうして私よりも高校の勉強がわかるんだ。しかも教え方がうまいし。小テストであんな点数とったのは、小学生以来かも。


 この一週間、まったくメドモは出現しなかった。


 §


「ねぇ~今日も四人でパトロールするの~?」

 場所はホーム。魔法少女のみんなでご飯を食べた後、みんなでお話ししている。

 朝方から降り始めた小雨がしとしとと音を立てている。幸い雨脚は強くないし、この後雨は止む予報なのでそこまでの問題はないけれど、低気圧のせいで体調が悪くなっちゃう子がいるのが問題だ。

「珍しいね、ちひろちゃん。今日はパトロールしたくないの?」

「ううん、違うの。ちひろねちひろね、四人で行かなくても、前みたいに二人でもいいと思うの~!」

 私がちひろちゃんに問いかけると、ちひろちゃんは先ほどの言葉の意図を答えてくれた。

「でも、昨日はえかちゃんが行ってくれたし、その前は御剣さんだし……今日は四人でがんばろ?」

「そうじゃなくって~……」

 私がちひろちゃんをなだめようとするも、ちひろちゃんはふにゃ~っとした顔で私の言葉を否定する。

 しとしと。しとしと。単なる話し合いも、雨音がなり続けるからか落ち着いた雰囲気が漂う。

 そのとき、スマホをぽちぽちしていた御剣さんが顔をこちらに向けず、会話に入ってきた。私たちが話しているとき、割と毎回御剣さんはスマホを構っている気がする。ゲームでもしているのかな。

「不知火ちゃんが言いたいのは、魂共鳴(ソウルリンク)できない人二人で行きたいってことだろ?」

 最近メドモが出てこなくて爆発不足なんだろ。と御剣さんは付け足した。なるほど、四人でパトロールしたらもし今日メドモが出てきても、気持ちよく爆発させられるとは限らないから……いやいや、そもそも爆発不足って何?

「もしものことがあったら怖いから、ちゃんと四人で行こう?ボクもついていくけど。」

 ちひろちゃんを説得しようと、ダモが上目遣いにちひろちゃんを見つめる。

「今日はダモもついていくの?」

 私は、ダモを見つめながら問いかけた。もふもふしていて、毛並みがとてもきれいだ。

「うん。ホームでゴロゴロしてたら毛玉になっちゃうから!」

「ダモってそういうこと気にするんだ」

 ダモって、ご飯食べないし、別に気にしなくてもいいと思うんだけどな。そう思っていたら、ダモがこっちに向き直って、キッとにらみつけてきた。

「ゆうちゃんは失礼だね!」

「まあまあ落ち着いて落ち着いて」

 おなかいっぱい食べて幸せそうな表情でこころちゃんはダモを宥めてくれた。その緩みきった顔のままひとはちゃんに向き直る。

「ひとはちゃ~ん、今日の夜食べたいもの考えておいてね~。パトロールの帰りにお買い物するからね~」

「はい……なんだかおなかいっぱいまで食べたら、だんだん……」

「眠くなっちゃうよね~……」

 こころちゃんとひとはちゃんは満腹感に支配され、上がりきった血糖値によって怠惰の波に飲まれている。

 しとしと。しとしと。心地の良い環境音によって、安らかな眠気が二人を襲っている。

「まだお昼時だし、四人はもう少し休憩してからパトロールに行ったらどうかな?ちょうどいい時間に起こすよ?」

 おねむな二人に向けて、えかちゃんが小首を傾げる。あまりの気配りに私は感嘆の声を上げた。

「えかちゃん優しい……私は眠くないから、一緒に起きてるね!」

「ちひろもちひろも~!」

「アタシは……どうすっかな。ここにいるのも……」

 私に続いて、ちひろちゃんも起きててくれるみたい。そんな風に思っていると、御剣さんはスマホを下して、顎に手を当てていた。

「御剣さんも一緒におしゃべりしましょうよ!」

 悩む素振りを見せる御剣さんを誘うと、御剣さんは笑顔になった。

「ん、じゃあアタシもここで暇つぶそっかな」

 そういって立ち上がった御剣さんが、うつらうつらしているこころちゃんとひとはちゃんのためにしまってあったお布団を敷いてあげた。

 二人は小さい布団にくっついて寝っころがる。お布団が小さすぎて二人ともはいることができないようで、こころちゃんの体はほとんど布団から出ていた。

 二人はすぐに眠りついて、すぅすぅと穏やかな寝息を立て始めた。

 そのとき、私はちひろちゃんがそわそわとしていることに気がづいた。

「ちひろちゃん、どうかした?」

 私の問いかけに、ちひろちゃんは煮え切らない返事をする。

「ううん、別になんでもないよ。でもねでもね……」

「パトロールに行くのが……っていうか、爆発させるのが待ちきれないらしい」

 御剣さんは、スマホから目を移さず淡々とした調子で言った。御剣さんはちひろちゃんのことがよくわかってるな……

 ふと気になって、私はみんなに向けて浮かんだ疑問を投げかけた。

「そういえば、私以外のみんなはどれくらい魔法少女をやってるの?」

「私と御剣ちゃんが六人の中では一番古株かな」

 えかちゃんはそう言って目を閉じる。過去のことを思い浮かべているのだろうか。御剣さんはともかく、えかちゃんが古株というのはすこし意外だ。

「なんなら、アタシより芦谷さんのほうが長いことやってるよね」

「そうかも。私は五年前に魔法少女になって、御剣ちゃんは……」

「四年前かな」

 御剣さんとえかちゃんの会話にテーブルの中央から返事が返ってきた。テーブルの中央を我が物顔で占拠する毛玉は懐かしむように天井を見上げた。

「ダモ、もしかしてみんなが魔法少女になった時期覚えてるの?」

「もっちろん!もはやボクの存在意義と言っても過言じゃないからね!」

 わたしがダモに問うとダモは得意げな顔をして答えた。ドヤ顔の愛玩動物(マスコット)に私はそのまま疑問を追求した。

「じゃあ、ほかのみんながどれくらい前に魔法少女になったか教えてよ」

「えっとね、ちひろちゃんは半年前で、ひとはちゃんはちょうど三年前かな。それとこころちゃんは一年と五カ月前だね!」

 ダモの話を聞いて少しだけ以外に思った。みんなパトロールやメドモ退治に慣れているからもっと長いことやっているのかと思っていた。

「意外とみんな最近なんだね」

「そうそう、だから魂共鳴ができる人も少ないんだ」

 ダモの話がひと段落したとき、御剣さんは手に持ったスマホを裏向きでテーブルに置いた。

「ダモ、芦谷さんが五年ってことはそろそろなの?」

「うん、そろそろ、卒業だね……」

 しとしと。しとしと。遠慮がちな雨音がホームの中を悲しげな雰囲気に染めた。

 二人は寂しそうにえかちゃんの方を向いた。私も、二人につられてえかちゃんを見る。

「でも、私は平日あんまりパトロールに参加してないから、まだいいんじゃない?」

 えかちゃんは困ったように笑う。そんなえかちゃんにダモは力強く告げた。

「たしかに! でも、来年には絶対卒業だからね!」

「その、卒業って何?」

 私は吐き出した疑問に困惑を乗せて、ダモの小さな体をつつく。もふもふしていて触り心地がいい。枕にしたい。

「魔法少女を卒業するってことだよ。大体六年魔法少女をしていると魔法化が進行して魔法杖になっちゃうから」

 ダモはすこしだけ寂しそうにうつむいた。私につつかれて小さな体が揺れている。

「そっか。じゃあお別れ会はみんなで盛大にしないとね!」

「そうだな。ちゃんとお別れできるんだったら、楽しくお別れしたいな」

 私の言葉に御剣さんは視線を遠くへ向ける。なんだかしんみりしちゃったな。

「私ね、最近魔法少女楽しいんだ」

 えかちゃんは手を組んで祈るようにつぶやく。

「これまでは、パトロールした後は疲れるし、面倒くさかったんだけどね」

「アタシも。浮世さんが元城ちゃんのことで会議してくれてから、なんか空気変わった気がする」

 えかちゃんに御剣さんが同調した。そんな御剣さんにえかちゃんはからかうように笑った。

「御剣ちゃんとか、前まで一匹狼って感じだったよね」

「いや、そんなことは……」

 困った顔になった御剣さんにダモが追い打ちをかけた。

「ツクルンはだいぶ一匹狼やってたね~」

「ダモモンまでそんなこと言わないでよ!」

 楽しそうに笑う二人と一匹にこっちも楽しくなってくる。

「ちひろねちひろね! みんなと一緒にご飯食べたり、お話しするの大好きだよ!」

 ちひろちゃんもテンションが上がってきたのか満面の笑みを浮かべる。

「最近すごく楽しいから、魔法少女が名残惜しくって」

 儚げな笑みを浮かべるえかちゃんに私は明るく笑いかけた。

「大丈夫だよ! 別に、今生のお別れってわけじゃないし! 魔法少女を卒業しても、またみんなで集まろ!」

「ダハハ、まだ芦谷さんは卒業しないのに~」

 四人と一匹で笑いあう。私も、自分の居場所ができて、最近は本当に楽しい。

「あ、そういえば、ひとはちゃんが魔法少女になるまでは拠点どうしてたの?」

 ひとはちゃんが魔法少女になったのが三年前なら、それまではみんなどこに集まっていたんだろう……そう思いながらダモのおなかをもふもふする。

「前までは特に集まったりせずに、ボクが魔法少女二人に声をかけてその日のパトロールをしてたよ。……あんまりおなかさわらないでくれる?」

「この前まではスマホで連絡を取ったりもしてなかったんだよね?」

「そう。だから、前まではほんとうに仕事仲間みたいな関係だったんだ。」

 私の質問に答えた御剣さんは私と一緒にダモをもふもふし始めた。

「ひとはちゃんが場所を貸してくれて、みんなが話し合いの場を設けてくれて、私ほんとうに感謝しているの」

 えかちゃんはダモのほっぺたをつんつんしている。

「ちひろねちひろね! え~っと……みんな大好き!!」

 ちひろちゃんはダモの後ろ足の肉球をぷにぷにしている。

「う~~~~~! もう! ボクは愛玩動物(マスコット)じゃなーい!!」

「んぅ……」

 ダモが大声で抗議したとき、こころちゃんが目元をこすりながら起き上がった。

「も~、ダモが大きい声出すからこころちゃん起きちゃったじゃん!」

「みんながボクのこと触るからでしょ!」

 喚いている私たちにえかちゃんが穏やかな笑みを浮かべた。

「まあまあ、二人とも。もう十五時だから、パトロールにいい時間なんじゃない?」

「あ、ほんとだ」

 えかちゃんに言われてスマホの画面に目を落とす。時刻は十五時過ぎ。そろそろメドモが出現しやすい時間帯だ。

「……もぅそんなじかんぅ?」

「おはようこころちゃん!パトロールの準備しよっか。」

「ぅん。ひとはちゃんもぉこさなぃと……」

 まだ眠たそうな声のこころちゃんがひとはちゃんを揺らして起こす。

 ぴちゃり。ぴちゃり。いつの間にか雨は止んでいて、オレンジ色の日差しが窓から差し込んでいる。

 さあ、魔法少女のお仕事はこれからだ。

 今週はメドモでてこなかったし、今日もでないといいな~!

 え? 二手に分かれるの? 私はちひろちゃんと、ゆうちゃんとひとはちゃんとダモは別行動?

 まあ、ちひろちゃんいたら私戦わなくて済むからいっか。

 次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第28話!

『私たちはもうあやまれない』

 お楽しみに!

 ……私には止める権利なんてないから。

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