第24話 幕間の日々は色褪せない
はぁ~今日はふっつうに疲れたわ。
朝から料理初心者にレクチャーしないといけないし、事前の準備とか、安全に気を付けてとか、わかりやすい説明とか。いろいろ気を遣わないといけないし。
そもそも気を遣うのが嫌いだってのに、なんであんなの引き受けちまったんだろうな。まあ楽しかったし、ハンバーグもうまかったからいいんだけど。
それに、みんなとご飯食べるの、なんか良かったな。
そのあと、元城ちゃんと一緒に遊びに行ったんだっけ?
小学生女子の好みとかわかんねえよ……なにするのが正解だったんだ?
とりあえず公園に連れてったけど……結局ブランコ漕ぎながらおしゃべりしてただけだったしな。
そのあと夜も一緒に作って……塩サバはいいとして、肉じゃがは自分がほとんどやったけど、あれでよかったのか……?
でも塩と砂糖間違える奴に、和食の味付け任せたくないしな……
ま、夕飯は全部うまかったし、多めに作ったおかずは、明日以降の朝昼に食べてくれるだろうし結果的には大正解か。
浮世さんが買い物行ってくれたから、その分の代金は支払ったんだけど……はぁ。昼の分と合わせて、洋服代に貯めてたバイト代が……
まあ、女の子に払わせるわけにもいかねえしな。しゃあねえ。切り替えてくか。
ピロリロリン♪ ピロリピロリン♪
ん。電話だ。こんな時間に誰だ……?
スマホに映った名前は、芦谷えか。芦谷ちゃんとは長い付き合いになるけど、電話がかかってくるのは初めてだ……今まで連絡先交換してなかったからか。
暗い夜道だから、辺りにはだれもいないと思うが、一応辺りを見渡してみる。
うん、だれもいない。魔法少女から電話かかってきたら変身しないといけないの、初めてだけど面倒くさいな……
「もしもし、芦谷ちゃん? ……うん。今一人だけど……今から会いたい? まあ、別にいいけど……もうこんな時間だし、早く寝た方がいいんじゃない? 話は別に明日でも……今日がいいの? あぁわかった。じゃあ、どこに行けばいい? ○×公園? わかった。今から向かうけど、気を付けてね」
耳元に当てていたスマホを胸元まで下ろして液晶を覗いてみる。時刻はすでに二十時を回っている。
こんな時間に外出してて、親に怒られないのかよ……ちょっと心配だけどまあ呼ばれたからには仕方ない。
そうして鈍色の影は、目的地へ向けて発射されていった。
§
月曜日ってなんだかゆううつ~! 学校なんて行きたくもないし、お家にはママがいないし、今日は一日ホームで遊ぶことにした!
ひとはちゃんとダモと一緒に遊んだり、ご飯を食べたり、夕方になったらパトロールにいこ~っと!
前までは、ひとはちゃんはず~っと変身してて、眠そうな顔してることが多かったんだけど、一回目の魔法少女会議があってからは、変身せずに、元気に遊んでることが多くなったの!
そんな風に考えてたらね、つくるちゃんが作り置きしてくれたお昼ご飯を食べていたら、ひとはちゃんがお話ししてきた!
「ちひろちゃん、その、よかったらなんだけど、さ」
ひとはちゃんがすっごくごもごもしてる! まるで、魔法少女会議をする前みたい!
私は笑顔で話しの続きを聞くことにした!
「うんうん、どうしたの?」
「……ホームに一緒に住まないかな?」
……? すごく真剣な顔で言ってきたからなにかと思ったら、変なこと言うの。
「それって、どういう意味?」
私の目を見たひとはちゃんは一瞬ビクッて肩を震わせ、俯いた後、顔をあげて真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
「だって、ママに暴力を振るわれてるなんて、絶対おかしいよ!」
ひとはちゃんは今にも泣きそうな声で、力強く声を発した。
「それに、身長も私より低いし、すっごく痩せてるし……ホームなら、きっとちゃんとしたご飯食べられるから!」
机の上のダモはずっと黙っている。ひとはちゃんは涙をこぼして、口を開いた。
「だから、あんな家じゃなくって、ここに住もうよ……」
……わけわかんない。私に、ママと別々で暮らせって言いたいの?
どうして? 私はママが大好きなのに。ひとはちゃんも、大人とおんなじこというの? 私とママを引きはがしたいの?
……あ! わかった! きっと、ひとはちゃんは親がいないからうらやましいんだ!
私とママのことがうらやましくって、引きはがそうとしてるんだ!
それに、ひとはちゃんは親からたからものをもらってなかったみたいだし!
じゃあ、親からもらえなかった分、友達の私があげないといけないよね。
合点がいった私は、ひとはちゃんにたからものをあげようとして、笑顔で立ち上がった。
その時、ひとはちゃんのところまで歩いていこうとした私をダモが止めた。
「ちひろちゃん。約束、覚えてるよね」
「……はーい」
ダモとの約束。たくさんしたなぁ。みんなの前で変身を解かないっていうのは、魔法少女になったばっかりのころ、ひとはちゃんの前でやぶっちゃったけど。こういうこと言われるから、変身を解かないっていう約束だったんだっけ。
約束したなかに、人や物を爆発させない、とか人に暴力を振るわない、とかの約束をしちゃったから、ひとはちゃんにたからものあげられないや。残念。
私は席に戻ってお昼ご飯を食べることにした。ママと一緒に食べられないご飯はぜんぶぜんぶ、おいしくない。
ひとはちゃんは泣きながらごめんなさい。なんて言っていたけど、なにがしたかったのか結局わかんないや。
§
月曜日の朝。平日という名の牢獄がまた始まる。
私は、昨日慣れないお料理を頑張ったからか、ものすごく疲れていて、朝から自分の机でぐでーんと突っ伏していた。
「おっはよう! ここちゃん!!」
うるさい。顔をあげると同じクラスの女子生徒、藻歩原さんがいつも通りの元気で晴れやかな表情でこちらを覗きこんでいた。
「ん……おはよう」
あ。やっちゃった。嫌な汗が背筋を伝うのを感じた。
先週まではちゃんとテンション合わせられたのに。このままではノリが悪い陰湿な女として扱われてしまう。早く挽回しないと……
でも、もういっか。
今まで散々頑張ったし、これから先ずっと周りに合わせるのも辛い。それに、私には魔法少女という、仲間がいる。この後の数か月、いじめられたところで別に問題なんかない。学校に来なければいいだけだ。
「……なんか、元気ないね。大丈夫?」
「ははは。私はいっつもこんなもんだよ……逆に今まで頑張りすぎてただけ」
藻歩原さんの表情が心配そうに歪む。そこにもう一人の女子生徒……少女坂さんがやってきた。
「やほーひーちゃん……どったの? そんな顔して」
「あーちゃん! ここちゃんが元気ないの! 保健室につれてってあげたほうがいいかな?!」
藻歩原さんはあわあわしだして、少女坂さんが私の方を見つめる。
「そーなん? ここちゃん。だいじょぶそ?」
「全然大丈夫。むしろ、私の素はこっちっていうか……」
声の抑揚が薄い、いつものテンションではない私をみた少女坂さんは不機嫌になる……かと思いきや意外なことににっこりと笑いだした。
「え~ってか、ここちゃんのイメージ的にはこっちのがあってね? なんつーかクール系っていうかさ~」
「え?」
予想外の反応に目が点になる。驚いていると、藻歩原さんまで楽しそうに笑いだした。
「たしかに! クールな感じもここちゃんに合ってるかも! いつもはかわいいけど、今日のここちゃんはかっこいいかも!」
「ちょ、な、なにそれ!」
耳が熱くなるのを感じながら、びっくりして席を立った私に少女坂さんがいつものにへらとした笑顔を浮かべた。
「あ。照れてる。おもろ。かわい」
「か、かわ……!?」
「え~ここちゃんはいつもかわいいよ~!」
藻歩原さんの言葉に恥じらいが限界に達するのを感じた。私は再び机に突っ伏して、二人に抗議する。
「か、かわいくなんかないもん! も、もう二人のことなんか知らない!」
「あ~ここちゃん拗ねちゃった~ひーちゃんのせいだかんね~?」
「あーちゃんも同罪でしょ! ここちゃん機嫌直してよ~!」
その日私は一日中、二人からかわいいかわいいといじられた。
別に嫌じゃなかったけど……なんだかこそばゆくって変な感じだ。
まさか、芦谷さんが……おっと。
次回予告の時間だな。今回いろいろあった分、次回は一つのお話しみたいだよ。
浮世姉妹の昔のお話しをするみたいだ。
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第25話!
『追憶の日々は滲まない』
お楽しみに!
あなたが救った人のこと、忘れないで。




