第20話 休日の空は曇らない
晴天の街を歩く。今週も一週間頑張った。
一週間ぶりなのに、休みはひどく久しぶりに感じる。
今日はカフェにでも行って、ゆっくりコーヒーでも楽しもう。それから読みたかった小説を読んで、誰にも邪魔されない休日にする。……それでもパトロールにはいくつもりなのだけれど。
ふと、視線を横に向け、道路を挟んだ公園の方を眺めると、二人の少女が砂場で遊んでいるのが見えた。
一人は不知火ちひろちゃん。真っ赤なミニドレスを着ていて派手な格好だ。夜の街にいても違和感のない衣装だけれど、百三十センチ程度の少女が着ているのはやっぱり違和感がある。
もう一人は見たことのない少女。橙色のスニーカーが暖色系で可愛らしい。白い服にピンクのスカート、黒檀色の髪がマッチしている、百四十センチほどの少女だが……なぜ変身しているちひろちゃんと遊べているのだろうか。一般人には見えていないはずだ。
ちひろちゃんがなにかやらかして見えるようになってしまった……? 可能性はある。あの子はちょっと危ないところがあるし、可能性は十分にありうる。だとしたら、私たちで保護する必要がある。
そんなことを考えながら眺めていたのだが、ふと周りにダモがいないことに気が付いた。
いやいやいや、保護者もなしに子供だけで遊んでいるの?! 急に心配になってきた。カフェに行くという今日の予定はキャンセルして、あの子たちのことを見守ることにしよう。
そうと決まれば私は柔軟嬢に変身して、引力杖の力で道路の上五メートル程度の高さを飛びこして公園に降り立った。
「おはよう! ちひろちゃん! 今、二人で遊んでるのかな?」
「あ、えかちゃん!」
私に気が付いたちひろちゃんが元気な声を上げる。そばにいたもう一人の子もちひろちゃんの声に気が付いて顔をあげた。
「あ、えかちゃん! おはようございます!」
私に気が付いた少女は元気に挨拶してきてくれた。やっぱり魔法少女が見えているらしい。
「あ、えっと、ちひろちゃん、この子は……?」
「えかちゃん、わたし、元城ひとはです!」
私は驚いて目を見開いた。
「え!?!? も、元城さん?!」
「そう、なんです。今までかくしてて、ごめんなさい。」
元城さんは私と同じだと思っていたから、驚きと同時に、寂寥感、そして空しさに襲われた。そっか、私だけなんだ……
「い、いやいいのよひとはちゃん。改めてよろしくね」
「うん! よろしくね! えかちゃん!」
元気に返してくれたひとはちゃんがすごく眩しく見える。あぁこんな子たちと一緒に魔法少女やってたんだ……なんだか居心地悪いなぁ。
「ねえねえ! そんなことより! えかちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
ぎこちない笑みを浮かべる私にちひろちゃんが満面の笑みで誘う。
そういえば、この子たちの保護者として見守ろうと思っていたんだった。我に返った私は小さな子供たちと一緒に童心に帰って、砂場で時間をつぶすことにした。
§
「お姉さま、本日もお出かけですか?」
日曜日。今日はこころちゃんと御剣さんとお料理の練習をする日だ。一昨日、こころちゃんと一緒にミネストローネを作ってから、三人の予定が合ったのが今日なのだった。
「ええ、学校の図書館でお勉強してきます」
「朝早くから精が出ますね。お昼ご飯はどうされますか?」
昨日は四人でパトロールを行ったが、メドモは出現しなかった。今週は私がパトロールをした日は毎回メドモが出現していたが……珍しい日もあるものだ。ほかの三人から聞いた話だと、一週間のうちに何度も出現するほうが稀なのだとか。
「お昼ご飯と晩御飯は外で食べてきます」
「……そうですか。お金は大丈夫ですか? もしよければわたくしが」
「いってきます」
できるだけ、妹のことは、なにも考えたくなかった。なにも話したくはなかった。
それでも、考えたくないと考えるほどに、思考の沼にハマるようだ。
うざったい。お勉強ができないことを、バカにしているのだろう。嫌味ったらしい。私よりも朝早くから起きているくせに。気持ちが悪い。気を利かせてくるところも、私が気を利かせることが苦手なことをわかっててしているのだろう。極めつけはお金出しましょうか? だ。ふざけるな。私が両親からもらえるお小遣いが少ないことを、自分がねだればいくらでももらえることを、すべてわかって言っているのだ。私が、彼らに愛されていないことを、自分が愛されていることを、再確認させるようなその言葉は、私の心をぐちゃぐちゃにする最低な凶器だ。
いや、わかっているのだ。本当は。
妹は、浮世かいは、そんな人間ではない。とても優しい、両親の成功作品なのだ。
彼女は幼い頃からなにも変わっていない。変わらず頭がよく、変わらず優しく、変わらず愛されている。
変わったのはむしろ私の方なのだ。劣等感でおかしくなって、一方的に嫌っている。
でも、それなら私が悪いのだろうか。私がおかしいのだろうか。だって、しょうがないじゃないか。
あんなものと一緒に育って、平気でいられるはずがない。正気を保てるはずがない。
だから、だから、だから私は。
ほんとうに、そうなのだろうか。
「お邪魔します」
「あ~! ゆうちゃんやっと来た!」
私はいつの間にかホームについていた。ぐるぐると回る思考回路は今にもショートしそうだが、今からは楽しい楽しいお料理教室! 昏い気持ちは全部掃き捨てて、みんなとのお料理を楽しもう!
ホームにいたのは二人と一匹。先生の御剣さんと生徒のこころちゃん。そして、可愛らしいダモ。
私は、こころちゃんに困ったような笑顔で言葉を返した。
「ごめんね! ホームまでの道、ちょっと入り組んでて!」
吐きなれてきた嘘だけど、大切な人たちに対して言うのはやっぱりちょっとだけ心苦しい。朝の会話で生まれた、胸中に広がっている黒いものを少しずつ、少しずつ取り除いていく。
「飛んでくればよかったのに……」
「たしかに! ん~なんだか空飛んでこようっていう考えが抜けちゃうんだよね……」
ダモの正論に対して思ってもない返答をした。
本当はそんなことも考えられないくらい、嫌な気分だっただけなんだけど、そんなこといって、みんなを嫌な気持ちにさせたくないもんね。
「あ~わかるかも。アタシも普段、魔法を移動に使おうって思えないんだ」
「アスカちゃんの魔法は緊急時以外使わないでね? 事故ったら大変なんだから」
アスカちゃん、とは御剣さんの魔法杖の名前だろうか。御剣さんの魔法杖は移動にも使えるんだ。どんな魔法なんだろう? ダモの言葉にそんな思考を巡らせながら、私はこころちゃんにならってエプロンを付けた。御剣さんはエプロンを付けていなかったが、魔法少女に変身してるから、汚れとか気にならないのかな。
「ひとはちゃんは?」
「不知火ちゃんと遊びに行ったよ」
ダモに聞いたつもりだったけれど、御剣さんが答えてくれた。こういうときってどう反応すべきなんだろうか。まあ、答えてくれたんだから深く考えないでおこう。
「そうなんですね! 今日はなにを作るんですか?」
「今日はハンバーグを作ります」
「やったー! ハンバーグ!」
私が今日つくるものを御剣さんに聞くと、御剣さんは丁寧に返してくれた。
無邪気に喜ぶこころちゃんに思わず頬が緩む。楽しそうなこころちゃんをみると、こっちまで楽しくなってきた。
「こころちゃんハンバーグ好きなの?」
「ハンバーグが嫌いな子なんて、世界中のどこにもいないよ、ダモモン」
顎に手をついて首をかしげるダモに御剣さんは優しい口調で答えた。
三人と一匹で談笑しながら、私たちはハンバーグ作りに取り組み始めた。
包丁を使うところは、御剣さんが最初にお手本を見せ、それから私とこころちゃんが一人ずつ挑戦した。
「玉ねぎ切っても涙でないね」「冷やしておいたからね」「つなぎってなんで入れるの?」 「形が崩れないようにするためだよ」「焼けたかな?」 「生焼けは怖いから、一つ割ってみよう」
「「できた!」」
長針と短針が数字の上で出会う頃、私たちはいくつかのハンバーグを焼き上げた。パチパチと小気味のいい音を立てて、肉汁が弾ける。肉の焼けるいい香りが鼻腔をくすぐり、口内では洪水が起きそうなほどだ。
ちょっとくらい味見してもいいかな……なんて考えていると、ホームの玄関を勢いよく開く音が聞こえてきた。
子供が二人だけで遊んでるなんて、ダモは一体何してるの?!
というか、元城さん大人じゃなかったの?!
まあいいか。そろそろお昼時だし、二人をホームに帰して、私は休日を堪能しようかな。
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第21話!
『みんなで分ければ不満じゃない』
お楽しみに!
ありがとう。楽しかったよ。




