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浮遊嬢は落ちぶれない  作者: 七色
第六章 幕間の日々は色褪せない
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第21話 みんなで分ければ不満じゃない

「「ただいま~!」」

「二人とも、ちゃんと手を洗おうね!」

 ちょうど二人が帰ってきたようだ。そう思って振り返ると、玄関には変身していないひとはちゃんと魔法少女姿のちひろちゃんだけでなく、魔法少女姿のえかちゃんもいた。

「あれ、芦谷ちゃん? どうして二人といっしょに?」

 御剣さんの凛々しい声が空気を揺らす。ちひろちゃんとひとはちゃんが水道で手を洗っているさなか、私たちは小首をかしげた。

 そんな私たちを見て、えかちゃんはにっこりと笑う。

「みなさん、こんにちは。散歩をしていたら、公園で二人が遊んでいるのを見つけて、私も一緒に遊ばせてもらってたの」

 ひとはちゃんって、子供だったんだね。手をメガホンのようにして小声でつけ足したえかちゃんに私はハッとした。そういえば、初めて会った日からえかちゃんとは会っていなかったから、ひとはちゃんの事情とか知らないんだ。

「そうなんだ! えかちゃんと会うのひさしぶりだからなんだかうれしいなぁ。ねえねえ! 一緒にハンバーグ、食べてくでしょ?」

「いえ、私がご一緒したら、きっと足りなくなってしまうでしょう? だから、私は大丈夫。二人を送り届けたかっただけなので」

「そんな寂しいこと言わないでよ~!」

 私の誘いに淡白な受け答えをするえかちゃん。すかさずこころちゃんは甘えるように説得しようとする。私もえかちゃんともっと仲良くなりたいし、便乗してみた。

「そうそう、こころちゃんの言う通り!」

「みんなで分け合えば、少し足りないくらい気にならないよ。きっとね」

 御剣さんの言葉は、なんだか心の深い部分に刺さるかのようで、少しだけ感動しちゃった。

「そう、ですね。それじゃあ、私もご一緒しようかな」

「やった!」

「今日はね、三人で作った自信作なんだ! みんなで食べよ!」

 遠慮がちに呟いたえかちゃん。喜ぶ私の後に続いて、こころちゃんは楽しそうに言った。

 魔法少女全員で、少しだけ足りないご飯とハンバーグ、そして御剣さんが作ったスープに舌鼓を打った。

 他愛もない話をしながらみんなで食卓を囲む瞬間は、とてもとても楽しくって、こんな時間がずっと続くことをせつに祈った。こんな日がくることを、ずっと待ち望んでいた。

 私たちは、そのままの流れで全員そろっての魔法少女会議へと移った。

 議題は、これからの活動方針。といっても、魔法少女会議の日は二日ともえかちゃんがいなかったから、前回の情報共有が主な目的だ。

「前回も話したんだけどね、一度にたくさんのメドモがでてくることがあったから、これからは魂共鳴ソウルリンクができない人だけでパトロールをするときは、四人でパトロールするっていう話になったんだ」

「たくさん……? それはどれくらいの大きさで、具体的な数は何体だったの?」

 御剣さんは簡潔に話を進めるし、えかちゃんはあいまいな部分を明確にしようと質問していて、なんだか感心してしまう。

「中くらいのメドモが三体出てきたよ」

 御剣さんは短くまとめるのがうまいなぁ。そろそろ私も会話に混ざらないと!

「それからそれから、高校生三人でL1NEのグループを作って、パトロールの連絡を取るようにしたんだけど……えかちゃんはスマホ持ってるかな?」

「はい。スマホは持ってるので、私もグループにいれてもらえるかな」

 さすが、最近の小学生はスマホもってるのが当たり前だもんね。なんて考えが脳裏をよぎったが、それではまるでひとはちゃんとちひろちゃんが普通じゃないみたいでなんだか嫌だ。二人とも無邪気でかわいい普通の女の子なのに。

 私が微妙な顔で唸っているうちに御剣さんがえかちゃんをグループに入れていた。

「今日この後はみんなどうするの?」

 えかちゃんが私たちを見渡してこの後の予定を尋ねる。

「この後はパトロールだよね。だれか、パトロールしたいって人いる?」

「今週は私ぜんぜんパトロールできなかったから、できれば私行きたいな」

 御剣さんがみんなのことを気づかいながら、えかちゃんに返す。その言葉を聞いて、えかちゃんが今日のパトロールに立候補した。

 やっぱり会話の中心はえかちゃんと御剣さんで、テンポよく会議が進行していく。どうしたらそんなに会議を進められるんだろう。私はついていくのに精いっぱいだというのに。

「はいはいはいはいはーい!! ちひろねちひろね! えかちゃんとまたパトロール行きたいな!」

 私が若干気落ちしていると、ちひろちゃんが元気よくもう一人のパトロールに立候補した。

「そういうことなら、二人に任せようかな……一応ダモモンついていってくれる?」

「もっちろん! ボクも今週はパトロールにあんまりついていけなかったから、ついていきたいな」

 御剣さんは落ち着いた表情で二人にパトロールを任せた。そして、ダモにもパトロールについて行ってもらうことにした。ダモも御剣さんの要請にうれしそうに答える。

 またメドモがたくさん出たら怖いし……そう小声でこぼしたダモの言葉を私は聞き洩らさなかった。小さな声が、心を不安と好感でないまぜにする。

「アタシら三人は夜ご飯一緒に作るけど……それまでは自由時間だな。元城ちゃん、夜は何が食べたい?」

 御剣さんがこの後の予定に話を戻し、ひとはちゃんに晩御飯に食べたいものを聞いた。

「う~んお魚たべたいかも! です!」

 元気いっぱいなひとはちゃんに私は思わず微笑んだ。さっきまでの不安なんてなかったかのように。

「夜も三人でご飯を作るの?」

 事情を知らないえかちゃんの疑問が、時計を一瞬止めた。

「えっと……元城ちゃん、ちょっとお外に遊びに行こうか」

「は、はい!」

 あとはよろしく。とでも言わんばかりに目くばせをした御剣さんがひとはちゃんと一緒に外に出ていった。任せてください、そう頭の中で返して、私はえかちゃんに向き直る。

「実は、ひとはちゃん、ここで一人暮らししてるの」

「えっ?! そ、それは、つまりご両親は……」

 驚いた表情のえかちゃんは困惑と気まずさを込めた声色でひとはちゃんのご両親の所在を聞いてくる。

「ひとはちゃんのご両親は、メドモに襲われて……」

「そう、なんだね」

 私の言葉にえかちゃんはばつが悪そうに目を伏せてしまった。この子はなんにも悪くはないのに。

「そう。だから、私たち高校生三人でひとはちゃんをお世話していくことにしたの」

 一昨日とは打って変わったこころちゃんの宣言に、私は驚いて聞きなおしてしまった。

「えっ? こころちゃんも手伝ってくれるの?」

「うん。やっぱり私も、見て見ぬふりはできないから」

 なんていい子なんだ。この子は。と言っても、こころちゃんは一個上でおんなじ高校だから、この子、なんて表現は適さないかもしれないが……

「それなら、私も……うーん」

 えかちゃんの言わんとすることは分かった。しかし、さすがにこんな子供にまでお世話をお願いするのは高校生として情けない。

「いいのいいの! 私たちでがんばるから、えかちゃんは無理しないで!」

 悩んだままのえかちゃんに対して、できるだけ声色が柔らかくなるように、優しく伝える。

 ぴちゃり。ぴちゃり。ぴちゃり。

 沈黙の中、蛇口から滴る水の音が数回聞こえただろうか。今まで話を聞いていたダモが口を開いた。

「……そうだね。みんな事情があるんだから、無理しなくてもいいよ。芦谷さん」

 子供を優しく諭すように。えかちゃんのことを気遣うように。ダモは、ときおり見せる優し気な声色でえかちゃんにそう告げた。

「……うん、それじゃあ、ひとはちゃんのことはお姉さんたちに任せようかな」

「ねえねえ! そろそろパトロール行こうよ!」

 元気のいいちひろちゃんの声にえかちゃんは笑う。

「うん、パトロールいこっか! それじゃあ、私たちはこれで」

 えかちゃんはダモを肩に乗せ、二人は手をつないで玄関へ向かった。

「私たち、どうしよっか」

「ね」

 残された私とこころちゃんは顔を見合わせ、困ったように笑う。

「そうだ! 私、お買い物に行ってくるよ! たしか、ひとはちゃんお魚食べたいって言ってたよね?」

「うん、言ってたよ。けど……早くない?」

 出かけることを告げた私にこころちゃんは首をかしげて見せた。そんなこころちゃんに私は笑って返す。

「まあまあ、私朝ちょっと遅れちゃったしさ、そういうわけで、お留守番よろしくね!」

 私はこころちゃんにホームの留守を任せて、お買い物に行くことにした。お魚といってもどんなものがいいだろうか。焼き魚? お刺身? 煮つけ? 高鳴る鼓動は頭を麻痺させ、不安も考えたくないことも、脳みそから追い出していった。

 私……なんだか情けないな。

 今、私ができることはなんだろう……そうだ。

 そして次回は浮世ちゃんの妹さんが登場するみたい……?

 次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第22話!

『完璧なんてありはしない』

 お楽しみに!

 恨み言の一つくらいは言いたくなる日もあったけどね。

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