第19話 読心嬢は許されない
「私、学校が嫌なんだ」
「うん(わかる。私も学校嫌。普通に居心地悪いし、勉強難しいし、がんばってもお父さんにとやかく言われるし)」
表面上ただ返事しているだけに聞こえるが、ゆうちゃんは私に心の中で同調してくれた。
「それに、魔法少女も嫌」
「そうなんだ(私は、ホーム好きだけどな~みんな優しいしいい子だし、役に立ってるって感じする!)」
「私は、あんまり戦えないし、顔色伺うのとか、苦手だし……」
「私も、顔色伺うの苦手……(学校も家も、顔色伺ってないといけないからほんとは行きたくないんだよねぇ……)」
ゆうちゃんは、私の言葉を決して否定することなく、聞いてくれた。
どんな愚痴をこぼしても、嫌な顔一つしなかった。
「友達がたくさんいるって言ってくれたよね」
「うん(周りに人いるのみたし……もしかして、友達じゃなくってグループの人とかだったのかな……?)」
ゆうちゃんは友達がいないって言っていた。でも、私にだって、友達はいない。
「……あの人たちは、友達じゃない。友達って、思えない……」
「……(なんだか、辛そう。これ以上、無理して言わせない方が……いいの、かな?)」
「いいの。話したい、から」
「え(あれ? もしかして、心の声聞かれちゃってる!?)」
この時初めて、ゆうちゃんは心の声が聞かれていることに気が付いた。私は、若干の申し訳なさを感じながら遠慮がちに微笑んだ。
「うん。聞こうと思った対象の心の声が、聞こえるから、その、ごめんね」
「いやいやいや、大丈夫! ちょっと恥ずかしいだけ! (私、変なこと考えてなかったよね!? 例えばあんなこととかこんなこととか、考えてなかったよね?!)」
耳まで真っ赤にして手を前に突き出してブンブン振る姿が可笑しくて私は楽しくなってきた。
「ふふふ……」
「ちょ、ちょっと! (やばいやばいやばい、こころちゃんに、変な子って思われちゃう!?)」
「ごめんごめん。その、変身、解くね」
そういって私は、読心嬢をやめて、喜読こころに戻った。もう、ゆうちゃんの心はわからない。大きな不安が心を襲ったが、隣に座る、恥ずかしがっているゆうちゃんをみたら、そんなものはどうだってよくなった。
「私、昔いじめられてたんだ」
「それは、その」
私はさっき思い出した苦い記憶を吐き出す。そんなものをぶつけられたかわいそうなゆうちゃんは気まずそうに俯いた。
「それ以来ね、人の機嫌を損ねないように、嫌われないために、長いものに巻かれ続けるために。ただ、ただそれだけを考えて生きてきたの」
「……」
「そしたら……そしたらね。ふふふ。こんな風に、なっちゃった」
こみあげてくるものの正体がわからなくて、私はそれに狂気という名前を授けた。
§
「おかしいよね、私」
こころちゃんは包帯でぐるぐる巻きの両腕を見せながら、笑い、泣いている。
「いじめられたのも、きっと私が悪いの。空気が、読めなかったから。周りに同調し続けたのも、きっと私が悪いの。人を、怖がってしまったから。魔法少女になったのも、きっと私が悪いの。私が、心が弱かったから」
こころちゃんの頬を伝った雫は、大きな粒となって、スカートを湿らせた。
「おかしくなっちゃったのかな。ゆうちゃんに話して、すごくつらいのに、すごくすっきりしてるの。涙が止まらないのに、笑っちゃってるの。いつからおかしくなっちゃったのかな。私は、もしかしたら、最初から……」
「そんなわけないでしょ!」
つい感情的になってしまって、大きな声を出して、こころちゃんの手を握っていた。
驚き、目を見開いたこころちゃんの瞳は、美しく輝いていた。
こんな、こんな優しい子が、おかしいわけがない。
「こころちゃんはちっともおかしくなんかないよ。たしかに、間違えたこともあるかもしれない、他人に疎まれるような、嫌われるようなことをしたこともあるかもしれない。けれど、それがこころちゃんが傷つけられる理由にはならない!」
「で、でも、わたし」
「でもじゃない! 大体、私、こころちゃんにも怒ってるんだからね!」
「え、えぇ?」
こころは目を点にして口をぽかーんと開けてしまった。
「こころちゃん自身にだって、こころちゃんを傷つけたこと、許せないんだから!」
「なに、それ」
こころちゃんは失望したような目を私に向ける。この目を私は知っている。数日前私がダモに向けた目。苦しんでいる人間を無理やり救おうとする偽善者に猜疑心を持つ者の目だ。
けれど、私は、偽善って思われたってなんでもいい。こころちゃんに、消えてほしくなんかないから。
「こころちゃんは、私の大切な友達なんだから。一生かけて償って。私とずっと友達でいて」
「とも、だち。私、が?」
「あたりまえでしょ? 消えたいなんて、もう絶対言わせないんだから。覚悟してよね」
泣き出したこころちゃんの頭を胸に抱いて、頭を撫で続ける。今は、泣き止まなくってもいいから。
§
「「さあ、召し上がれ!」」
三人と一匹で帰ってきて、私は急いで夕飯の準備を始めた。帰ってくる途中で材料は買ってきていたため、あとは切って煮込めばミネストローネの完成! ……のはず! と思っていたら、こころちゃんが手伝いたいと申し出てくれた。私はうれしさのあまりなんにも考えずに了承して、二人でミネストローネを作ることにした。
こころちゃんが手伝いたいと言い出したことに対して、ひとはちゃんもダモも、すっごく驚いたみたいで、ひとはちゃんはわくわく、ダモは不安といった様子だった。
結果から言うと、ダモの不安は的中した。私は、結局なぜひとはちゃんのお世話を断ったのか、なんにもわかっていなかったのだ。
こころちゃんは料理のセンスが致命的に欠けていた。ミネストローネの深い赤は決してトマトだけの色ではないだろう。けっこう野菜焦がしたし。
そんなわけで、手にたくさんの絆創膏をつけたこころちゃんと、絆創膏を一枚だけ指に巻いた私で作ったミネストローネを三人で食べた。……味付けはこころちゃんに任せたが、どうやら塩と砂糖を入れ間違えていたらしい。
「あ、甘くておいしいね!」
さすがに気を遣っているとわかる。ひとはちゃんの笑顔は引きつっていた。
「はぁ………………」
こころちゃんはこの世の終わりのような顔をしてため息を吐いた。
「これから改善していけばいいんじゃない?」
のんきなダモに内心イラっとする。もうちょっとなんかないの?!
「だって君たちにはまだまだ時間があるんだから。過去の失敗から成長できるのは人間の能力だよ」
「ダモ……」
なんだかこころちゃんの表情が明るくなった気がする。ダモ、いいこと言うじゃん。
「私、成長できるかな……」
「それは頑張り次第だね~お料理だけじゃなくって、お掃除もできるようにならないとね」
どうやらこころちゃんは家事全般において壊滅的なセンスをしているらしい。一瞬希望が灯ったこころちゃんの表情はまたしても絶望に沈んだ。
「だ、大丈夫! 私が一緒にがんばるから! 一緒に成長していこ?!」
「ゆうちゃん……!」
元気づけるために放った言葉をこころちゃんは素直に受け取ってくれた。こころちゃんは両手を祈るように胸の前で握って、感動したように目をウルウルさせている。
ダモは私たちににっこりと笑いかける。
「家事が得意なつくるんとかに習って二人とも成長していこうね」
「うん!」 「うん……」
元気に返事した私に対して、こころちゃんはか細い声で答えた。
「こころちゃん、不安?」
「ちょっとだけ、ね……」
「だーいじょうぶ! だって、私が一緒なんだよ? 友達と一緒なら、きっと楽しいよ!」
「……うん!」
頷くこころちゃんの表情に暗い影は少しも入っていなかった。
こころちゃん、まさかとんでもない料理音痴だったなんて……
でもでも、御剣さんはお料理上手らしいし、二人で習えばきっと大丈夫だよ!
それに、みんなで食べるご飯なんておいしいに決まってるんだから!
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第20話!
『休日の空は曇らない』
お楽しみに!
あなたのこと、もっと知りたいな。




