第18話 自傷少女は消えられない
ダモはひとはちゃんのほうについていった。ひとはちゃんの活動魔法なら高速で街中を走れるので、ダモが一緒についていくことで、捜索力をさらに上げようという算段だ。
「すみません!!」
私はというと、とりあえず大きい通りに出ようと思い、徒歩で走っていた。大通りに出ようとする途中、私は白衣を着た人とすれ違いそうになったので、その人にこころちゃんを見かけなかったか聞いてみることにした。
「このあたりを女子高生が通っていきませんでしたか?!」
私の質問に白衣の女性は片眉をあげる。私の質問に不思議そうな顔をして答えた。
「女子高生なら私の目の前にいるが」
そう言って、女性は私の方に人差し指を向ける。私が女子高生だから、今目の前にいるよってこと?
「~~~~!!! そういうことではなく、私より年上の、かわいい女の子です!」
こんな冗談を言ってる暇ないのに! っていうかなんでこの人白衣着てるんだ?!
「君もかわいいと思うが……」
「女の人に言われてもうれしくありません! お世辞じゃないですか!」
女性が女性に対して言う”かわいい”にSNSのいいね以上の価値はない。そんなことこの人だってわかりきっているはずだ。
「いやいや、私は本心から君をかわいいと思っているよ」
「それはどうでもよくって!」
こんな人の相手してたら埒が明かない!! 私は聞き込みに見切りをつけて走り去ろうとした。
走り去ろうとした私の背中に、女性は声をかける。
「君と同じ高校の女の子と先ほどすれ違ったよ。方角的に〇×公園の方にいるんじゃないだろうか。行ってみるといい」
「~~!? 知ってるなら最初に言ってください! ありがとうございました!!」
なんだったんださっきの人……私は感謝を伝えつつも、先ほどの白衣の女性への不信感を拭いきれずにいた。
私が変身して飛んでいけばいいと思ったのは公園までもう少しというところだった。イマイチ移動手段として魔法を使うという思考になり切れていない。
§
「いた! こころちゃん!」
こころちゃんはベンチに座って、俯いていた。
「……って血!? 腕どうしたの!?」
「……ゆう、ちゃん」
私がこころちゃんのもとに駆け寄るとこころちゃんは両腕に切り傷ができて、血だらけになっていた。
こころちゃんの隣にはカバンが置いてあり、その上に開いたままの筆箱、こころちゃんの手にはカッターナイフが握られている。
「えっとえっとえっと、ばんそうこうじゃだめだよねなんか包帯えっとえっと」
「……包帯なら、もってるよ」
腕が血だらけになっているこころちゃんをみて、パニックに陥った私に、こころちゃんがひどく落ち着いた声で言った。
「本当!? 今巻いてあげるからね! 包帯借りるね!」
「……いいよ、別に」
力なく呟くこころちゃんの言葉を了承だととらえた私は、こころちゃんのカバンを漁り始めた。
「えっと、カバンに包帯入ってる? どこかな……」
「いいって言ってるでしょ!!」
こころちゃんの口から飛び出した、聞いたことのない、大きな声にびっくりして、思わずカバンを漁る手が止まる。
「……あ、えっと。勝手にカバン漁ってごめん。でも、包帯巻かないと」
「もう、いいから……ほっといてよ……」
「放っておけるわけないでしょ!!」
泣き出したこころちゃんに、今度は私が大声を出してしまった。
こころちゃんは少しびっくりした様子で目を見開いたあと、また俯いて黙り込んでしまった。
いけない。こころちゃんが傷ついているのに。私まで取り乱してしまった。私は深く息を吸って、カバンをもう一度漁る。
「……あった。包帯、巻いていくね」
「……うん」
教科書やら文庫本やら、お菓子やら財布やらリストバンドやら。いろんなものがごちゃ混ぜになって入っているカバンから包帯を取り出す。
私は持っていたハンカチで血を拭い取ったあと、ゆっくりと包帯を巻き始めた。
「……この傷、どうしたの?」
「わかるでしょ。自分でつけたの。リストカット」
こころちゃんは力なく笑いながら、やけっぱちでも起こしたような調子でつぶやいた。
「どうして」
「消えたくなったの。自分が、嫌になって」
「……そっか」
包帯を巻き終わり、私はどうしたらいいかわからなくなって、とりあえずカバンをはさんでこころちゃんの隣に座ることにした。
「……こんなヤツ、嫌だよね」
「そんなこと」
「うそつき。私、心が読めるんだよ。……そういう魔法なの」
「そっちこそうそつき。今、こころちゃん変身してないじゃん」
責め立てるように言ったかと思えば、悔いるように力なく話すこころちゃんに、私は事実を突きつける。
こころちゃんは、何でもないように握りしめていたカッターナイフを筆箱にしまい、カバンの中からいつもつけているリストバンドを取り出して、包帯の上からつけた。捲くっていた袖を戻して、包帯が完全に見えなくなる。
「私、何考えてると思う?」
「……わからない」
うつむいたまま首を振るこころちゃん。私はさらに、こころちゃんに本心を伝える。
「心配なんだよ。こころちゃんのこと。大好きな友達だから。友達だって、私は思ってるから」
「……」
「疑ってるなら、変身して、確かめてみたら?」
私がそう言うと、こころちゃんのリストバンドが光だし、こころちゃんは魔法少女へと変身した。
紫色の量産型ファッションのこころちゃんは、私の方を向くと、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「……うぅ……ごめん、ごめんなさい。疑って、ゆうちゃんのこと、私、私……」
「いいよ。こころちゃんの気持ち、わかるもん」
いいや、本当は何一つだってわからない。私たちは、真に分かり合えることはない。だから、わかり合うために、話し合うんだ。
「教えて? こころちゃんのこと。私、こころちゃんのこと、もっとわかりたいな」
全部、バレちゃった。
なのに、なんで嫌わないでいてくれるの?
どうして私のこと、否定してくれないの?
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第19話。
『読心嬢は許されない』
お楽しみに。
ちゃんと、話してね。




