第17話 泣き虫少女は耐えられない
「ゆうちゃんってお料理できるの?」
「できないよ~でもがんばって作らないと! ひとはちゃんのために!」
「大丈夫だよ! ちゃんとゆうちゃんのご飯おいしいよ!」
二人が出ていったあと、私たちは三人と一匹で他愛のない話をしていた。夜ご飯を作り始めるには早すぎるので、三人でお勉強をしながら、雑談に興じていた。お勉強は遅々として進まないが。
「っていうか、今日はこころちゃんもいるんだから、一緒にご飯作ろうよ!」
「え~……それは、ちょっと」
「そう? それなら……無理言ってごめんね?」
ひとはちゃんの一件で私は多少学習していた。相手が踏み込んでほしくなさそうなことには無理に踏み込まない。人の心はデリケートなのだから。
「ひとはちゃんは今日の夜ご飯何食べたい?」
「う~ん……ダモは何がいい?」
夜ご飯の要望はたらいまわしにされ、ひとはちゃんからダモへ移る。これまではダモとひとはちゃんで夜ご飯を考えてたのかな。
「ボクは食べないけどね。お野菜がたくさん食べられるものがいいんじゃないかな」
「それじゃあミネストローネとかいいんじゃない?」
たらいまわしにされた夜ご飯の献立は、こころちゃんがアンカーとなって答えが返ってきた。
「こころちゃんが提案するんだ……作らないのに」
「えっ……だ、だめだった?」
私の率直な疑問にこころちゃんがすこしだけ怯えた表情になった気がする。瞬きをした次の瞬間には、こころちゃんはぎこちのない笑みを浮かべていた。
「ううん! ミネストローネ、頑張ってみるね!」
ミネストローネってどうやって作るんだろう……手元のスマホでレシピを調べてみるとけっこういろいろな作り方がでてきて、どのレシピで作るか、どんな材料を用意すればいいか……うんうんと唸ってしまった。
「ねえねえ! 高校生って楽しい?」
「え~楽しくないよ高校。ひとはちゃんは小学校楽しくないの?」
ひとはちゃんの質問にこころちゃんが質問で返す。すると、ひとはちゃんは暗い表情になってしまった。
「……うん。あのね、私、小学校行ってないんだ」
「あー。そっか。ごめんね。変なこと聞いちゃって」
ひとはちゃん、いつもホームにいると思ってたけど、学校行ってないんだ……ご両親がいないから、ただ生活を送るだけでも、大変だよね。
二人の会話が気まずい空気になりそうだったので、なんとか話題をねじ込んで空気を変えようとしてみる。
「でもでも、友達といたら学校って楽しいと思うよ! ……私は友達いないけど、こころちゃんには友達たくさんいるみたいだし!」
「え~っと。三人とも。そろそろしっかり勉強しない?」
私がせっかく話題を変えようとしたのに、ダモが水を差してきた。ほんとにダモは人の気持ちわかんないんだから。
「……私はそろそろかえろっかな。じゃあねみんな」
こころちゃんはそういうとさっさと荷物をまとめて帰ってしまった。
「待って! ……ゆうちゃん、ひとはちゃん、こころちゃんを追うよ!」
「え? なんで……」
「いいから!」
口答えしようとした私の肩にダモが飛び乗ってきた。なんだかよくわかんないけど、こころちゃんを追いかけるため、ひとはちゃんと一緒に外に出てみる。
けれど、外にでて周りを見渡しても、こころちゃんの姿はすでに見えなくなっていた。
§
(「一緒にご飯作ろうよ!」「こころちゃんが提案するんだ……作らないのに」「ねえねえ! 高校生って楽しい?」「こころちゃんには友達たくさんいるみたいだし!」)
魔法少女になれば常に体調は万全なはずなのに。加速杖の力を使って走り出した私は呼吸が荒く、視界は涙で滲んでちょっとの先だって見えやしなかった。
「うぅ……ひぐっ」
走り回って、もう遊具がすこしだって残っていない公園のベンチで、声を殺して泣いている。
ダモがいうには、魔法少女は魔法少女やオリを溜め込んだ人以外には認識できないらしい。正確には認識しづらい、だったか。声を押し殺す必要なんてないのに。今までずっとこうやって泣いてきたからかな。
魔法少女の衣装は、私を着飾る読心嬢の衣装はとてつもない速度で走ってきたのにも関わらず、汚れひとつない。汚れきった心とは違って。
私は、あの子たちのようにはなれない。学校の"友達"のようにも、ホームの"魔法少女"のようにも。
くだらない話じゃ心の底から笑えない。たかだか他人に、自分の人生をかけられない。
「ううぅぅ……」
カバンの中から、筆箱の中から。いつも愛用しているモノを取り出す。キレイなキレイな、魔法少女の衣装を脱ぎ捨てて、汚れきった、貧相な喜読こころへと変わっていく。こうしないと、感じられないから。
キズモノな私は、いつか救われることがあるのだろうか。そんな日は来ないだろうな。
§
いつから、こうだったんだっけ。
ハジメテは中学三年生のころ。あの頃は、というか、あんなことをするまでは、私にだって友達がいたんだ。
私は、スクールカーストとかいうやつの頂点の子と友達だった。今思えば、私はただの金魚のフンだったのかもしれない。
そんな、スクールカーストの頂点のグループの一人に、恋愛相談をされた。なんでも別のクラスの男の子が好きなのだとか。
本当に私は、空気が読めず、頭が悪かった。何を想ったか、というかその友人のことを想ったのか、男の子にあの子が君のことすきらしいよ、なんて伝えてしまったのだ。
それからのことはわざわざ思い起こす必要もない。友人は知らないところで好きな子にフラれ、恋愛相談という、当時の私たちのプライバシー、絶対領域を言いふらした私は、学年中、いやもしかしたら、学校中の生徒から嫌われた。
いわゆる、調子に乗っていた、というやつなのだろう。実際、そんなことを言われて服で見えない場所に暴力を振るわれた記憶がある。たしか、体育館裏に呼び出されたんだっけ。
いろんな事されたな……集団で無視されたり、机の上に花瓶が置いてあったり。無実の罪で先生から怒られたこともあったっけ。先生の影で嘲笑るあの子の顔をやけによく覚えている。本とか教科書を隠されるのはまだよかったけど……指をさされて嘲笑われたり、陰口を言われたり、それを人づてに聞くのは、けっこう辛かったなぁ。
消えたくなって、ネットでよくないこととして知っていたコレをシ始めて、ただただ痛いだけで、なんにも変わらなかった。それからはもう完全にクセになってしまって、死にたい、消えたいって思っていたら気が付いたらスルようになっていた。人目につかない公園のベンチ、トイレの個室、暗い自分の部屋の中。漠然と助かりたい思いはあるくせに誰にも助けてって言えない私は、ずっと一人で自分を罰していた。
私は完全に悪者で。もう学校に居場所なんてなくて、三年前のちょうど今ぐらいの時期から、学校には行かなくなった。
両親が味方してくれたのは幸いだった。不登校になった私を、二人は決して責めなかった。けれど、コレのことは、すごく怒られた……いや、悲しまれたんだっけ。
中学校に通っていたころからシていたけれど、見つかってからは両親がそれまで以上に、私に優しく、甘くなった気がする。そんな対応に罪悪感を覚えて、私は両親になにも要望を言えなくなった。
それから、両親のために、家でお勉強をがんばって、ちょっと離れた高校……今の高校に進学した。
もちろん、お家でお勉強してる間も、何度も何度もシてしまって、定期的に確認されて、そのたびに泣いて抱き着かれた。
私は、一人暮らしするつもりだったけど、両親は引っ越して私のそばにいる選択をしてくれた。きっと、私が心配だったのだろう。
進学して、ほどほどに人間付き合いをして、それから私は、もう友達を作れないことを自覚した。
正確には、友達だって思えなくなった。どれだけ愛想笑いを浮かべても、話を合わせて同調しても、なにも楽しめなくなっていた。きっと、今私の周りにいる人たちは、たった一回の減点要素で離れていく人たちだから。
よくわからない話に相槌を打って、へたくそな作り笑いを浮かべて、減点要素におびえながら神経をすり減らして。そんな日常に疲れ果ててしまったんだ。
両親が寝静まったあと、いつものように、両親からもらった大切なモノに傷をつけて、お湯の溜まったお風呂場に行って。
その日、私はダモに出会ったんだ。
嫌なこと、思い出しちゃったな。
こんなこと、思い出す必要なんて、ないのに。
あれは……浮世さん? どうして、ここに。
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第18話。
『自傷少女は消えられない』
お楽しみに。
あなたのおかげでもあるんだよ。




