第16話 危ないままでは居られない
正直、驚いた。まさかひとはちゃんが正体を明かすとは。
魔法少女会議、なんてものを執り行ったことも驚いたけれど、ひとはちゃんが正体を明かしたこと、御剣さんがお世話をすると言い出したこと、その二点がやっぱり衝撃的だった。
そんな魔法少女会議の帰り道。私の足取りは重たい。
私は、前からあの子が小さな女の子であることを知っていた。御剣さんへの憧れも含めて。
でも、私はなにもしなかった。それが正しいと思っていたし、敵を作らないようにするにはそれが最善だと思っていたから。
本当に? ただ、首を突っ込みたくなかっただけでは?
自問自答。当然ながら答えは出ない。出したらこころが壊れてしまうから。
浮世さんとひとはちゃんに、あの日なにがあったのだろうか。どうして、あの子は赤の他人のために、行動を起こせるのだろうか。
わからない。暴露と支援の違いも判らない、空気の読めない私には、一生かけてもわからないことなのかもしれない。
頭痛がする。嫌なことを思い出しそうだ。
今になって、御剣さんを置いてホームを出てきたことが間違いだったような気がしてきた。
御剣さんの責任、それは前から知っていた私が背負うべきものじゃないの?
ひとはちゃんを助けようとしなかった私は、あそこにいてもいいの?
私は、どうするべきなの?
足が重たい。気づけば私は人の気配のない公園のベンチに座っていた。
腕の包帯をゆっくりと外す。こんなことに意味なんてないのに。
§
「それでは、第2回魔法少女会議を始めます」
放課後。ホームにつくと、今日も魔法少女会議をすると、御剣さんに伝えられた。そのまましばらく待って、えかちゃん以外のみんなが集まると、御剣さんの口から魔法少女会議の開始を告げられた。
今日もこころちゃんと一緒にホームにやってきたけれど、今日のこころちゃんは少しだけ静かだった気がする。
「今日の議題はこれからのパトロールについてです。実は昨日、中くらいのメドモが三体、現れました」
通常、中型や大型のメドモは一体しか出現しないらしい。今後も複数体のメドモが出現するなら、なにか対策をとる必要があるだろう。
「なので、これからは、パトロールを三人以上で行いたいと思います」
「はいはいはい!どうしてどうして、三人いじょうじゃないとだめなんですか?」
御剣さんの言葉にちひろちゃんが質問をした。それに対して、御剣さんはやれやれといった感じで答える。
「単純に危険だからだよ。今までは一体に集中すればよかったけど、複数体のメドモが出現するなら、不意打ちを喰らう可能性がでてくる。だから人数を増やしてリスクを減らしたいの」
「でもでも、人数増えたら、私が爆発させられるメドモが減っちゃうよ!?」
本当に爆発ジャンキーだなこの子は。御剣さんは呆れながらもちひろちゃんのことを尊重するように言った。
「わかったわかった。じゃあ不知火ちゃんと組むときは他の人はサポートにまわるってことでいいから」
「やったー!! あのねあのね、ちひろね、つくるちゃんのこと、大好き!」
「はいはい。だからといってアタシのことは爆発させないでくれよ?」
楽しそうに話しあう御剣さんとちひろちゃんへ向けて、私は一つの質問をした。
「今までに中型以上のメドモが複数体出現したことはないんですか?」
時期によって大きい個体が出てきやすいとか、複数体出現する時期があるとか。と付け加えると、御剣さんは真剣な面持ちで答えた。
「ないね。時期によってということはありえない。それなりに長いことやってるけど、少なくとも、この四年間でこんなことは全くなかった」
「最近は大型のメドモが出現することが増えているし、中型が複数体出現したことといい……なんだか悪い想像しちゃいますね」
顎に手を添えて考えるこころちゃんに、御剣さんはうんうんと頷く。
「最悪のケースは、中型三体より多い量の時だな。二体以上の大型がでてきた時、昨日みたいにうまくいくとは限らない」
御剣さんは難しい顔をして私たちに次の提案をした。
「正直言って、普通の魔法少女三人でもキツいと思う。アタシや芦谷ちゃんならともかく、その二人がいないときは四人でパトロールをしたほうがいいと思う。複数体の大型はそれだけ危険だし、少人数だと一般人への被害を抑えられるとは限らない」
「私も賛成です。私の魔法じゃサポートくらいしかできないし、私を頭数に含めてもらっても困っちゃいます」
御剣さんの発言に対して、こころちゃんが賛同した。
こころちゃんの魔法のことはよく知らないが……とにかく、人数がいればいるほど危険は減るだろう。
「今まではみんなの負担を減らそうと思ってたけど……そんなことも言ってられなさそうだね。じゃあみんな、これからパトロールの頻度が増えると思うけど、お願いできるかな?」
「「「「任せて!!」」」」
ダモのお願いに対して、御剣さん以外のみんなで答えた。そのとき、一つの疑問が浮かんだ。
「そういえば、どうして御剣さんとえかちゃんは、大丈夫なの?」
「つくるんと芦谷さんには、魂共鳴があるからね」
「そうるりんく?」
ダモが耳慣れない単語を理由に説明をしたので、私は聞き返してしまった。
不思議に思っている私を見て、ダモは得意げな顔で説明し始めた。
「そう! つくるんと芦谷さんは、魂共鳴と言って、魔法杖の力を引き出すことができるんだ!」
「でも、わたしも魔法杖の魔法を使えるでしょ?」
魔法杖の力を引き出すということであれば、私だってミライちゃんの力を使っている。主に物理攻撃で。
「うんうん、でも、魂共鳴なしだと魔法杖の魔法は持っている子と、魔法杖にしか作用しないんだ。」
「どういうこと?」
それではまるで、魂共鳴のない私にもミライちゃんの魔法が作用しているというように聞こえる。
「例えば、ゆうちゃんは空を飛べるし、ほかの子と一緒に空を飛ぶことができるよね?」
「うん。手をつないで一緒に飛ぼうと思えば、飛べるよ」
私は、ちひろちゃんとひとはちゃん、二人と一緒に飛んだ時のことを思い返した。
「それは、魔法が自分以外にも作用している状態。ゆうちゃんは、魔法少女の状態で怪我を負ったことはある?」
「……あれ? そういえば、この前転んだとき、変身解除しても傷が残ってなかったかも……?」
私は、ちひろちゃんとパトロールに行ったとき、一緒に飛ぼうとして派手に転んでしまったが、そのあと変身を解除しても怪我をしていなかったことを思い出した。
「そう、それは不壊杖の魔法で、傷つかなくなってるからなんだ! でも、みんなのことも傷つかなくすることはできないでしょ?」
「できないというかやり方がわからないというか……」
一緒に空を飛ぼうとしたときは、ただ手をつないで飛ぼうと思ったら飛べたけど、そもそも自分にミライちゃんの魔法が作用していることすら知らなかったのだ。ほかの人にミライちゃんの魔法を作用させる方法はわからない。
「うんうん。ミライちゃんはみんなを傷つかなくさせることができてたから、たぶん自分以外にも作用させることができたんだ」
「つまり……えっと」
「つまり、魂共鳴によって魔法杖の使用者が本来所持している魔法に加えて、魔法杖の魔法も100%の能力を発揮できるってこと」
御剣さんが要約したことで私は完全に理解することができた。つまり、魂共鳴によって、魔法杖の魔法を自分以外にも作用させることができるようになる。もっと簡単に言えば、魔法杖の魔法を自分の魔法のように使えるようになるのだ。
「魂共鳴ってすごいんですね! 私も早くできるようになりたい……!」
「ねえねえダモ、ヘンゲンちゃんとそうるりんく? できるようになったら、どんなことができるの?」
ひとはちゃんがダモに問いかける。ダモは今までの魔法少女のことを知っているから、魂共鳴することでできるようになることだってわかるんだ。
「サヨちゃんはメドモを直接変形させてぐにゃぐにゃにして倒してたから、辺りのものを自由に変形させられるようになると思うよ」
「ねえねえ! ちひろはちひろは?」
ひとはちゃんは杖のことをヘンゲンちゃんと読んでいたけど……変幻自在からとったあだ名なのかな?サヨちゃんが本当の名前みたいだ。
次いで、ちひろちゃんがダモに問いかける。アイミキミカちゃんの魔法はたしか……
「キミカちゃんは……みんなで探したいものの匂いがわかるとかかな……」
なにそれ地味ー! なんて喚くちひろちゃんにみんなで笑ってしまう。
そんな中、真剣な眼差しのこころちゃんが意を決したように切り出した。
「四人でパトロールするなら、連絡手段も整えておいた方がいいかな?」
「たしかに! 今日来れない~とかの連絡が入ったら御剣さんとかに頼めるし!」
御剣さんに頼るようなことを言ったのに、御剣さんは嫌な顔一つせず頷いて言った。
「確かに大事だな。ピンチになったとき助けに行ける」
「うん! それじゃあ、スマホがある人でL1NEのグループ作っちゃおうか」
こころちゃんの呼びかけで私と御剣さんがスマホを取り出す。小っちゃい子二人はスマホを持っていないので、二人への連絡は三人のうちだれかが伝えないといけないね、なんて話していた。
「芦谷さんにも連絡のこと伝えておくね」
「うん、お願い! ダモ!」
この場にいないえかちゃんにも伝えないといけないが、ダモが伝えておいてくれるみたいだ。
「今日パトロール行きたい人いる?」
「はいはいはい! 今日はね今日はね、私がパトロールに行きたい!」
魔法少女会議の最後に御剣さんが今日のパトロールの話をすると、ちひろちゃんがパトロールに行きたいと立候補した。
「それじゃあ、不知火ちゃんと……今日は浮世さんの当番だから、アタシで行ってくるか」
「あのねあのね、ちひろね!」
ちひろちゃんはうるうると上目遣いで御剣さんを見つめる。
その様子を見た御剣さんは、ちひろちゃんの言いたいことを察したようだ。
「はいはい、わかってるわかってる。アタシはサポートに徹するよ」
ちひろちゃんは本当にうれしそうに、やったー! と言って、二人でパトロールに出発していった。
また魔法少女会議……みんな、頑張ってるな。
わたしも、頑張らないと、嫌われちゃうのかな。
はぁ……なんだか、もう、いいかな。
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第17話。
『泣き虫少女は耐えられない』
お楽しみに。
浮世さんだけじゃない。




