第14話 活動嬢は負けられない
「浮世さん、本当に、ありがとうございます」
「え?」
二人で手をつないで歩いていると、突然ひとはちゃんにお礼を言われた。私、ひとはちゃんにお礼言われるようなこと、なにかしたかな……?
「その、私の面倒みるなんて、面倒くさいこと、するって決めてくれて、みんなに相談してくれて」
「そんな、全然大丈夫だよ! 気にしないで!」
私は、ただひとはちゃんがほっとけなかっただけだ。それに、みんなに相談しようと言ったのはダモだ。
そして、私は私で、家に帰るのが嫌だったから、その理由が欲しかっただけなのかもしれない。
ひとはちゃんの家に住めれば、あんな家に帰る必要はなくなるから。
私は、先ほどの魔法少女会議の時に考えていたことを話し始めた。
「お礼といえば御剣さんだよ。御剣さんが言ってくれなかったら、ちひろちゃんやえかちゃんにもご飯作らせてたかもしれないし……それにこころちゃんにも事情があるのに、巻き込んじゃうところだった」
御剣さんは会議を円滑に進めてくれたし、言いにくいことも言ってくれた。むしろ、私が御剣さんにお礼を言わないといけないかもしれない。
「あとで、一緒に御剣さんにお礼言いに行こ」
「はい!」
「ああ、それと」
私は、昨日から気になっていたことをついに口にした。……そこまで大したことでもないのだが。
「敬語、使わなくてもいいよ?」
「え……でも」
昨日、ひとはちゃんが目覚めた後からずっと、敬語を使われていた。敬語を使われるのはなんだがむずむずするし、もっともっと仲良くなりたいのに、敬語を使われていたら距離が開いてしまいそうだ。
「小学生に敬語使わせるなんて、私なんだか嫌な人じゃん? それに、ひとはちゃんともっともっと仲良くなりたいから」
「……いいの?」
ひとはちゃんはまだすこし不安そうな顔をしている。私は元気に答えてみせた。
「もちろん! これからはお姉ちゃんのように接してくれていいからね!」
「じゃあ……ゆうちゃんって、呼んでもいい?」
「うん! 改めてよろしくね! ひとはちゃん!」
「……うん! よろしくね! ゆうちゃん!」
ひとはちゃんの表情がパッと明るくなった。元気なひとはちゃんに私まで元気が出てくるようだ。
「ねえ、ゆうちゃんの魔法って、私も一緒に飛べるの?」
奇しくもちひろちゃんとおんなじ質問をされて、思わず笑ってしまう。
「アハハ、それ、ちひろちゃんにも聞かれた! やっぱりみんな空飛びたいんだね!」
「いや、私は違くて。私はメドモを探すの、苦手だから……だからゆうちゃんの飛ぶ魔法なら高いところから探せるかなって!」
浅はか。そう形容するのがふさわしいだろう。そりゃあみんながみんな空飛びたいわけじゃないよね。
私はうんうんとうなづきながらも心のうちでは反省していた。
「そうだね~高いところから見渡せばメドモも見つけやすいだろうね……」
「そう! だからね、一緒にお空を飛んで、メドモを見つけたいな~って!」
「よし! じゃあ一緒に飛ぼっか!」
私はそういってふわり、と宙に浮かんでみせる。手をつないでいるひとはちゃんの体もいっしょにふわっ、と一緒に浮かび上がった。
「え、ちょっといきなり!? わぁ!」
「だいじょ~ぶだいじょ~ぶ! ほら、行こう!」
驚くひとはちゃんを落ち着かせながら私たちはゆっくりと上昇し、街一帯を見渡せるほどの高度に上がった。
「わぁ~……」
「どう? すごいでしょ。」
「た、たかくてこわい……」
ひとはちゃんはものすごく不安そうな、泣きそうなか細い声をだした。
私は空中でずっこけそうになったが、ここでずっこけるとひとはちゃんを余計に怖がらせてしまうので、私たちは近くの高めの建物に着陸した。
「ありがとう! ゆうちゃん」
「ごめんね、高いところは怖いよね、気づかなくって……」
「ううん、いいの! たしかにちょっと怖かったけど、ゆうちゃんがいるって思ったら、大丈夫!」
満面の笑みを浮かべるひとはちゃんがあんまりにもかわいいので抱きしめそうになったが、次にひとはちゃんから放たれた言葉で我に返った。
「もうメドモいそうかな……? いっしょに探してくれる? ゆうちゃん」
「そうだった。どうだろう、いるかな?」
私は建物から離陸し、三百六十度見渡せる高度から街全体を見渡した。
そのとき、遠くに黒い影が現れた。距離はかなり遠い。被害が出る前に倒したいが、全速力で飛ばないと間に合わないだろう。
「ひとはちゃん! メドモいたよ! ちょっと待ってて!」
私はメドモを目指して、全速力で向かう。ひとはちゃんを待っていたらきっと被害が出てしまう。
「あ! 待って! そっちにい……」
下から聞こえたひとはちゃんの声が遠くなるのを感じながら私は飛んでいた。
その瞬間、《《私は目を疑った》》。ひとはちゃんがとてつもない速度で建物の屋根から屋根を飛び石のように跳ねて、私を追いこしていったのだ。
私が驚いていると、あっという間に私たちは出現したばかりのメドモのもとにたどり着いた。大きさは今まで見たものに比べてすこし小さい、街路樹と同じくらいの大きさ。黒い、芋虫のような体にゲジゲジのような細い脚がたくさんついたメドモは、細い足を器用に動かし建物から建物へと移動している。
そんな風に考えているとひとはちゃんがメドモへと跳びかかっていった。
「ヘンゲンちゃん! ハンマー!」
ひとはちゃんが叫んだ瞬間、灰色の魔法杖はおよそ人間には扱えそうにない大きさのハンマーへと姿を変えた。
メドモへと猛進したひとはちゃんはその勢いのままに巨大なハンマーでメドモを殴り飛ばし、中空へとメドモを吹っ飛ばした。
「ヘンゲンちゃん! なんかするどいやつ!」
ひとはちゃんがそう叫んだ瞬間、巨大なハンマーは巨大な槍に姿を変え、ひとはちゃんは槍に変わるのも待たずに吹っ飛ばしたメドモに向かって跳躍し、そのままメドモを突き刺した。
槍が突き刺さったメドモは光の粒子となって風に解けていった。
しかし、次の瞬間、空中のヒトハちゃんに向けて先ほど倒したメドモと同じメドモが襲い掛かる。
「ひ、い、いや」
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ひとはちゃんに襲い掛かろうとするメドモを空中で殴りつけ、ひとはちゃんの手を取って落下を防ぐ。今の私、さいっこうにキマってる。今までひとはちゃんにかっこいいところ見せられなかったけど、これで名誉挽回、かな。
「ひとはちゃん、大丈夫」
「ゆうちゃん、メドモきてる!」
「え?」
ヒトハちゃんが槍を向けた方を見ると、さっき殴りつけたメドモが私たちの方へ跳びかかってきていた。
「けん!!」
ひとはちゃんが叫んだと思うと、私の手を引っ張り勢いをつけてメドモの方へ飛び出し、剣へ姿を変えた魔法杖でメドモを切りつけた。
ひとはちゃんが地上へ着地したときには、切りつけられたメドモは光となって空へと解けていた。
顔をあげた先には、三体目のメドモ。
「ヘンゲンちゃん、ハンマー!」
ひとはちゃんは目にもとまらぬ速さでメドモに向かってダッシュし、止まることなくメドモの大きな体を下から殴り飛ばす。
メドモが空中に吹っ飛ばされたのをみて、私はメドモに向かって突進した。
「ひとはちゃん、行くよ!!」
「え!? う、うん!」
私は、空中で加速した勢いのままにメドモをぶっ叩き、ひとはちゃんの方へ吹っ飛ばした。
すると、ハンマーはひとりでに大きな剣へと姿を変え、メドモの体に突き刺さった。
私がふわりと着地したときには、メドモの体は光となって消え失せていた。
「やったね、ひとはちゃん!」
「う、うん。でも、おかしいよね」
「え、どうして?」
私が聞き返すと、ひとはちゃんはハッとした顔になった。
「あ、そっか。ゆうちゃんは最近来たばっかりだから」
「そうそう。なにがおかしいのか、わかんなくて」
ひとはちゃんは「ん~」と唸ったあと、少しずつ教えてくれた。
「あのね、今まではメドモがたくさんでてくるってことはなかったの」
「そうなの?」
「うん。小さいのが一日に二匹くらいでてくることはあっても、中くらいのが出てくる日は一匹だけだし、それに、おんなじ場所にでてくるなんて、今までなかったの」
困った顔をしながらゆっくり説明をしてくれたひとはちゃん。そんなひとはちゃんに私は曖昧な返事を返す。
「そうなんだ……なんだか不思議だね……」
「うん。だからね、もしかしたらまだ周りにいるかも! ちょっと一緒に探してくれる?」
「もちろん!」
イマイチ状況がピンときていなかったが、魔法少女においては先輩なひとはちゃんに従って、周りを探してみることにした。
私たちは上空から周囲を見渡し、メドモがまだいないか探してみた。が、周囲にはもうメドモはいないようだった。
奇妙な静けさをその場に残して、私たちは各々の家に帰ることにした。
へんなの。どうしてメドモがたくさんでてきたんだろう?
それに、一人の帰り道はなんだか、いろいろ思い出しちゃうな。
帰っても、お家にはだれも……えっ?!
次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第15話!
『救援の過去を忘れない』
お楽しみに!
こんな未来がやってきたのは。




