27章・エルフにとっても不安な存在−1
森に潜むエルフの前線部隊にはムゥと共に森の奥から出て来たババが合流していた。
「ババ様、なぜ急に魔人が?」
「言うたであろう、確認すると。便りではなく、魔人が直接来るとは思わなんだがな。」
偽りのない言葉だった。
昔から伝わる魔人への連絡方法を試してはみたものの、上手くいけば儲けもので、期日に備えて様々な方針の策を用意していたのだ。
明確な回答どころか魔人の一人が直接来るなどと予想できるはずがなかった。
さらにその魔人は森を害した勇者を名乗る人間と戦おうとしている。
魔人と敵対した過去もあるエルフだがババが生まれるよりも前の事であり、今どちらに肩入れするかは明白である。
問題は伝承に残る魔人の力が誇張でなかった場合、森や、近くで見ている自分達までが争いの被害を受けるのではないかという事だ。
ムゥが姿を見せたのはつい先程である。魔王が生まれていないことを告げると戦闘の気配を感じ取りすぐにこの場へやって来た。
彼がエルフや森の被害を気にかけるような性格かを推し量るにはあまりに短い会話しかない。好戦的であるためにここに来たのなら配慮は望み薄だろうというのがババの予想だ。
とはいえここから逃げ出すわけにもいかない。
不安を微塵も見せず、いつも通りの表情で戦場を見つめながら、
「さて、どうなることやら。」
と漏らすババの後ろ姿をエルフ達は黙って見つめていた。
「野放しにできないなら、どうするんだ?」
前に出たのは加藤だった。
山口が動けなくなり、この場に居る勇者では最も戦闘能力が高い自負があるからである。
渡辺、山口、加藤の三人は各ポジションで最も実力のある者を集めたパーティーのメンバーに選ばれている。
他に二人、特に戦闘能力が高く騎士団員からもクラスの中で最強と評価されている剣士の中村と、幅広い強化魔法を使いこなす森下がパーティーのメンバーだが近くの町で勇者の凱旋パーティーに出ているためこの場にはいない。
中村に執着する山口は直前まで森下と役割を変わろうと駄々をこねていたが、変わろうとしている相手は学校全体で見ても指折りの美少女であり、加えて高い社交性も持ち合わせていた。
こちらの世界でもその評価は変わらず、パーティーに出ると言われたならば満場一致で中村と森下が推され、逆に山口を出す理由は一つもなかった。
結果、山口を抑えられたはずの中村が不在となり武力衝突になってしまう可能性を指摘した者はいなかった。




