28章・終わった−1
だが、加藤にとって想定外ではあっても好ましくない事態とは言えない。
内心では少し喜びすら感じている。
退屈な話し合いを済ませて中村達と合流しダンジョンを攻略するのが今回の予定だったが、この人数でダンジョンに入れば戦闘に慣れていない者から戦うことになるだろう。
そうなれば手強い敵が出るところまで進まなければ加藤達のパーティーに順番は回ってこない。初めて入るダンジョンならばそれほど奥まで進まないであろうことを考えればなお、戦闘に参加できる可能性はないだろう。いつもつるんでいる空手部仲間の村上もいないため、より退屈になる。
仮病で本拠地に残って可愛い新人メイドを物色し、部屋に連れ込もうかとすら考えていた。
そんな中で山口がエルフ相手に戦闘を始め、心が踊ったのも束の間。
自身が出来ない遠距離の魔法戦となり山口にも痛いところを突かれてフラストレーションが溜まっていたのだ。
山口の魔法が無効化された以上、他のクラスメイトも同じだろうが、近接格闘型の加藤には関係のない話だ。
相手から近づいて来たことといい、全ての流れが自分が目立つようになっているではないかと加藤は思った。
余裕の表情で喧嘩腰と取るには十分な態度を見せる加藤に警戒する様子も見せず、ムゥは彼と向き合った。
「ここで、殺しておくべきだろうな。」
表情からも、声からも感情の起伏は感じられなかった。
ただただ機械が打ち込まれた数式に答えを表示するように、かけられた問いに対し、当然とでも言うように返答する。
訓練中にぶつけられたクレイの気迫どころかダンジョンで猛り狂うモンスターにも、いや、命がかかっていなかった空手の試合の相手よりも圧を感じない。
そんな相手に勇者としての自信に満ち溢れた加藤が退く道理はなかった。
「俺らも殺される訳にはいかないからな。正当防衛だろ?死んでも文句言うなよ?」
「お前一人か?」
加藤の後ろに控えるクラスメイトに視線を向けながらムゥが問いかける。
「一人で十分すぎるだろ。早く来いよ。」
ため息のような息を吐いたむうは、
「そうか。では行くぞ。」
と言ってさらに一呼吸置いた。
奇襲を警戒していた加藤にとって、迎撃の準備を整えるのに十分な時間だった。
予想外だったのは剣を抜かず、殴りかかって来た事だった。
早くはあるが、加藤が驚くほどではない速度で距離を詰め、重くはあるが、加藤が未経験ではないほどの拳が腹部に放たれ、加藤は当然のように左腕でそれを防いだ。
鉄甲を付けた加藤に対し、ムゥの攻撃は素手だったのだから当然だろう。
反撃に繰り出された加藤の正拳突きはムゥの胸元へ吸い込まれるように直撃し、その重さを伝える衝撃音はクラスメイト達の耳にも届いた。
大型モンスターですら一撃で粉砕したところを見た事のあるクラスメイト達にとってその攻防は、加藤の勝ちを確信するのに十分な根拠に見えた。
(終わった。)
手ごたえを感じた加藤もそう思った。




