19章・あの日の会話−1
「向こうは終わってしまったか。お主等も止まっておってはつまらんじゃろ。」
振り返りたい衝動を抑えながら、伊藤は剣を握る手に力を込めた。
長谷川達が村上と池田を呼ぶ声から結果は容易く想像できた。
「アイツらが、もう……?」
村上は乱暴だが決して戦闘能力が低いわけでなく、山田は強固な防御力を有している。
あの二人が、特に山田の防御がこの短時間で破られたのは信じ難い事だった。
「イトウ、強敵だが我々でやるしかないようだ。」
「……はい。」
「私が前で戦う。隙を見て一撃離脱を心掛けろ。」
返事を待たずにクレイは斬りかかった。
数合の打ち合いを経て、クレアは彼への評価を改めた。
前回はあまりにあっけない相手だと落胆したが、今日は一撃一撃のキレが違う。
クレイからすれば、宗絃との戦いで負傷していたとはいえ一度は敗北を喫した相手である。連敗は許さないという自身の誇りが後押しし、本人も意識しない内に炎を纏った剣にはいつも以上に力が入っていた。
(押してる?)
三人がかりで手も足も出なかった相手が、クレイと打ち合うたびに徐々に後退していく光景は見入ってしまうものがあった。
迷っている暇はない。
クレイに指示を出す余裕はない。
隙があれば自ら動かなければならないのだ。
伊藤は目を凝らして二人の剣戟の行く末を見守った。
(ふむ。ソウシのように投げ飛ばす技をやってみようかと思うたが、懐に入り込むのが思った以上に難しいのう。力尽くで投げるのは出来ようが、美しくないのぅ……。)
猛火の剣で攻めたてられるクレアは頭の中でいつかの大会で見た宗絃の一本背負いを繰り返していた。
彼女がこれまで見てきた戦士の中にも力に頼りきらない者は多くいた。
肉体の全盛期を過ぎるほど独自の動きで相手を翻弄する術が磨かれるというのは寿命を持つヒトという種族の特性だと見込んでいたが、少年と青年の間に見える宗絃が見せた動きはその推測を完全に破壊した。
戦闘経験だけではなく、一つの技術して確立されたのがあの動きであるならばクレアにもできて然るべきなのだ。
(投げる動きは訓練できたとして、相手の動きに合わせるには……やはり経験か?という事はソウシの奴、あの年でかなりの相手と戦っておることになるな。量か質かは分からぬが。いや、見た目以上の年齢という可能性は……ないか。)
物思いにふけりながら投げを挟む隙を探すクレアに、
「いつから入れ替わっていた?」
とクレイが問いかけた。
「牢に入った初日の夜からじゃの。」
クレアは怒気を感じる声にも平然と答える。
「アルセリア王国のドラゴンに会いたい。」
ゾゾの病室で勝った褒美に何が欲しいかを聞かれた宗絃の答がそれだった。
「ドラゴンの居場所なぞ知る者はおらんじゃろ。」
「アテはあるけど、国に入るのが大変らしいんだよな。」
「ふむ。我の魔法で姿を隠せばそこそこ簡単に入れるかもしれぬな。まずは動けるようになるがよい。我は気晴らしに散歩でもしてくる。」
そう言って姿を消し、窓を開けたところにクレイが入って来たのだ。
何をしたわけでもないが会話は宗絃をアルセリア王国に連れて行く流れになったため、クレアは身を隠したまま、宗絃が牢に入れられるまで同行したのだ。
妙な腕輪を付けられた宗絃だったが看守の会話から気力が無くなる効果があるらしいと察してその通り演じ、力尽くで外せないかと身体強化を使うために魔力を展開したところ簡単に自壊する事を発見したのである。
何かあっても合流できるように宗絃は兜割をクレアに渡し、代わりの武器にとクレアが剣を貸すとそのまま牢を抜け出てドラゴンがいるという山に向かったのだった。
計画としては穴だらけというほかないが、国境を超えた時点で目的は達している。
後は宗絃が戻れば逃げ出すだけという最後の段階で狂ったが、ここまでが出来過ぎなほど穴だらけの計画だった。




