18章・対クラスメイト戦−1
「やるぞ!山田!」
村上に言われた山田は迷いを断てないままタックルを敢行する。
背後からは村上が、
「神田からだ。目眩しを使え。さっきの防壁出される前にやっちまうぞ。」
と指示を出す。
ぶつかるのではなく、地面に盾を叩きつけるならば遥かに気が楽だった。
宗絃とクレアは即席の連携をするつもりは毛頭なく、速やかに二手に分かれていた。
山田と村上が宗絃に向かうのを見た伊藤とクレイはクレアに向かう。
この瞬間、四人全員が宗絃を最短で無力化した後に全員でクレアを倒すという策が無意識下で一致した。
伊藤とクレイは足止めに重点を置いたため近接戦闘を避けて剣の間合いの少し外で足を止めて膠着状態に入った。
山田は止まることなく盾を叩きつける。
宗絃がギリギリまで動かなかったため山田は直撃するのを恐れたが、その感触が盾から伝わってくることはなかった。
安堵した山田の後方からは気合いを込めて敵に殴りかかる村上の声が響くのが常だったが、何故か今回は、
「山田!」
と呼びつけられ、ビクリと顔を上げた。
そこには宗絃が立っている。
いつも通り全力で叩きつけていれば衝撃からも身を守る必要があったかもしれないが、迷いながら放たれた山田の一撃にそんな威力はなく、宗絃がとった最小限の回避は彼をその場からほとんど動かさなかったのだ。
慌てて構えようとした山田だったが、盾は宗絃に踏みつけられておりピクリとも動かない。
巻き上がる砂煙は当然視界を完全に奪うものではないが、突然視界を悪化させることで敵の対応力を削ぐのが目的である。
だが魔力を探知する宗絃には追撃に来る村上の動きは筒抜けだった。
山田の背後から放たれた正拳突きの軌道上に兜割の柄尻を置いておく。
自らそこに打ちつけたようにも見えた村上の拳は鈍い音を立てて、長谷川の身体強化も虚しく皮が裂けて血が滲んだ。
右拳を押さえて呻く村上に宗絃は人差し指を向ける。
「空手が先手かよ。」
冷たい言葉と同時に氷塊を発射して村上をはるか後方へと吹き飛ばすと、今度は視線を下ろして山田に向ける。
気迫がこもった訓練時の騎士団でも、ただただ目の前の敵を屠ろうとするモンスターの目でもない、何の感情も感じられない瞳を見た山田は慌てて盾から手を離し、悲鳴に近い声を上げながら後ずさると急いで立ち上がり剣を両手で構えた。
氷柱を使わないのを見れば殺意がないとクレアが見ればわかったが、山田には無理な話だった。
「今すぐここから逃げろ。誰かに言われて戦うのはもう止めろ。勇者なんて言われなくても、生きていく手段はある。この世界にはお前ほど強くなくても生きてる奴らばっかりだろ。」
落ち着いた声で話しかけても山田の震えは止まらない。
アニメの中で特別な力を得て無双するキャラクターに憧れながらも目立つ所のない現実の自分に落胆する毎日から解放されたのだ。理想ほどではないが十分に羨望の眼差しを受ける人生を得た。勇者として王国のために戦わなくなれば今と同等の生活などできないだろうし、冒険者になっても強力な仲間なしでどこまで戦えるのかは分からない。
独りでこの場を離れるなど、山田には踏み切れるわけのない選択だった。
「ワァァァァ!」
長谷川の身体強化を受けての攻撃はスピードもパワーも騎士団の精鋭に匹敵する。
だが剣術とは呼べない大振りが宗絃に触れられるわけもない。間合いの中にいるにも関わらず受け流しすらせずに二度、三度とその刃は空を切った。
「落ち着いて考えろ。」
自分の言葉が届いたかは確認せず、宗絃は山田が振り下ろす剣に兜割を一閃した。
王国の名工が作り上げた逸品ではあったが、宗絃の作り出した水鏡に触れた瞬間に芯まで凍りつき、砕け散った。
呆然とする山田の目の前で破片が舞い、その向こうでは水鏡を振った勢いのままコマのように一回転した宗絃が蹴りを繰り出す。
反応すらできず、腹部に回し蹴りを受けた山田は軽々と吹き飛び地面に叩きつけられた。
前衛の中でも盾使いは特に重装備をするのが常識だが、山田は胸を保護するプレート程度しか身につけていない。
長谷川の身体強化が優秀でモンスターから不意の一撃を受けた時にも無傷で済んだことや、実戦を通して大楯の扱いに慣れていたこと、など理由は様々だが結局は油断に他ならない。
他の盾使いに比べて圧倒的に小回りが利くことは事実だが、盾使いというポジションが最も求められる耐久力を犠牲にしていた結果が示されたのだった。




