10章・行方は……−3
「もどかしいな。」
アルセリア王国からの情報が入ってこないことに対するルギウスが漏らした一言だった。
国交が絶たれた隣国からの情報はゾゾ経由が最短で入ってくるルートだが、それでも滅多に得られるものではない。
王国側が本気で帝国の要人を確保したと思っているなら使節を送り込んでくる可能性が高かったが、それすらないままだ。
セルディスが帰ってきてからすでに十日が過ぎている。
悩ましい顔は元老院の面々も変わらない。
ヴォルミンが少しでも好材料を出そうと、
「エリシア姫からもたらされた情報もありますが……。」
と言い淀んだ。
彼自身、その情報が王族目線のものでしかないことに不安を覚えていた。
それ自体の有用性は否定しないが、全幅の信頼を寄せるための確証もなく、俄には信じがたい情報でもあった。
「勇者を召喚とはな……。」
「それも、終わっているとなればできる対応はありません。軍備を整える程度でしょうか。王国の世相も分かりませんと、なんとも言えませんな。」
「『爆炎』を個人で越える戦力が二十人以上とはな。そんな者がゴロゴロと……。」
「ふらりと現れた者なら我が国にも一人おりますが。」
発言したヴォルミン自身は思いつきを口走っただけだったが、室内には一瞬、時間が止まったようだった。
だが冷静になれば共通点が無さすぎる。わずかながら宗絃の出現の方が早い。
突然現れた実力者というだけで、本気で宗絃と勇者召喚を結びつける者はいなかった。
「では先に人心を操る魔法への対応策を出しておきませんか?」
誰かの言葉にヴォルミンも賛同した。
「そうですな。勇者よりはまだ身近です。我々の常識外であることには変わりありませんが。」
教会では禁忌とされる類の魔法である。
今の所成功例もなく、エリシアの話では王国でも『人に対しては』進展が聞かれないとの事だった。
それはつまり人以外への成功例は実在していると言う事だ。
確定ではないが、傷つきながらも王国から飛んできたワイバーンなどはそうかもしれない。弱った個体ならば成功率も高かったのではないか、という見解が多数を占めている。
これが人間にも使えるようになれば大きな脅威であり、対応は必須である。
だが、そもそも魔法自体も見たことがないために対応策が立てづらい。
物理的な対応が効くのか、新しい魔法が必要なのか、時間経過で解けるのか、かけられた者は見分けがつくのか。
とにかくあらゆる可能性を考慮しながら策を探さなければならない。
「それに、人に使われる可能性は喫緊の課題で間違いないでしょう。」
「そこまで断言する根拠は?」
ルギウスからの問いにヴォルミンは答えた。
「マティアス殿の報告にあった、ソウシ殿を連行する際のストラウド公爵の言いがかりを覚えておいでですか?」
その問いで彼が何を言いたいのか、全員が理解した。
それを察した上でヴォルミンは明示する。
「出来る見込みがあったから、魔法で人を操るなどという発言に辿り着いたと考えるべきでしょう。」
内容が内容だけに公に情報を公開するわけにもいかず、限られた人数で暗闇の中を手探りで進むような議論が続く日々が始まるのだ。




