7章・再戦−1
ウォータージェットの連射で動きを制限しながら接近戦に持ち込む。
クレイ相手にこれを使わなかったのは魔力を温存するためだ。威力だけなら遥かに強いが燃費が悪い。
燃費効率ならば回転させた氷柱を飛ばす魔法もあるが、こちらは回転させるせいで射出が若干遅くなる。
クレアが接近戦を仕掛けたのはこの魔法を嫌ったのだと判断して使ったのだが、果たして予想は当たっていた。
クレアは攻め込まれたにも関わらず、宗絃が性格に魔法を選択した事実に笑みが溢れた。
(良い嗅覚をしておる。仕込んだ者とも戦いたいのう。)
剣が再び交錯し、クレアはやはり力ずくで押し返す。
最も彼我の差が大きい腕力を押しつけようとしていたクレアとは真逆の対応だった。
原因は青く染まった宗絃の刃であることに間違いない。
(冷えておる。厄介な刃じゃ。)
傍から見れば不自然な攻防はクレアの剣が急速に冷たくなった事が原因だった。
鍔迫り合いをしている間に熱を吸い取られるように冷え始め、戦闘中でなければ手を離してしまうほどの温度になった剣は一行に元に戻る様子を見せない。
長年剣を握り続けたクレアの感覚が、これを続ければ剣が『砕ける』と予見していた。
剣に魔法を纏わせるのも、魔法で生成した武器も見たことがあるクレアだっだがこんな現象は初めてだ。
同時にこの魔法が未完成である事も察知していた。
宗絃の理想は触れた瞬間に凍らせ、砕く事だろう。
そこに及ばずとも触れるだけで武器破壊に繋がる刃は危険である。
風魔法で温度を維持しようと試すが、クレアといえど戦闘中に正確な温度調整は出来なかった。人知れず手の内に火傷を負ったのみである。間違いなく一朝一夕や思い付きで成せる魔法ではない。
これを形にした発想と努力に感激を覚えながらも、未完である予想の根拠を見つけた。
宗絃の顔色である。
表情はさして変わらないが酷寒雪山にいるのかと言いたくなるほど血の気が失せている。
温度を下げる効果が完全な制御下にないため術者本人にまで影響しているのは明らかだった。
それさえなければ先ほどまでと同じように相手が攻めてくるのを待っていただろう、というクレアの予想が当たっているのは半分だけである。
宗絃とてここまで全力で戦うのはクロス以来であり、自身の内側で何かが昂るのを感じての攻勢だった。
その姿勢がクレアのテンションを更に上げていく。
これまで相手にしてきた中でも、魔人を含めても最高クラスに上質な強敵。一度は見事に自信を打ち破ってみせた強敵。
あらゆる敵が殺してしまえば二度と戦えないと分かっていても、同時にそれを倒した時の甘美さを忘れられず、彼女はいつまでも闘争を求めるのだ。
好敵手と戦える喜びと、殺してしまえば二度と戦えない葛藤を抱え、口角が上がるいつもの笑みではなく歯まで見えてしまう最上級の笑顔を浮かべて剣を振るう。
そしてクレアは刃に入ったヒビに気づいた。
温度を奪われた自身の剣ではなく、宗絃の水鏡にである。
(色がついて分からなかったが、この温度を出すために氷にしていたか。完成しておれば魔人も恐れる強者になったであろうが、若過ぎたな。)
名残惜しさを感じながら徐々に大きくなるヒビに戦いの終焉を感じ始めた。
それは確かに未完成な宗絃の魔法が壊れ始めた証。
だが、時間を稼いで崩壊を待つなどもっての外だった。
己の剣が砕けるにはまだ余裕があると判断したクレアは最後の一撃を振るい、それを宗絃が迎え撃った時、宗絃の剣が砕けた。
驚きに身を見開いたクレアとは真逆に冷たい表情のまま宗絃は切り上げる形で剣を振り抜き、青い稲妻が轟音と共に満点の星空へと昇った。




