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クラスで勇者に転生するはずが一人で置いて行かれました。  作者: NayuTa


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6章・再来−2

「走れるか?」

 宗絃の問いかけにセルディスは短く答えた。

「あぁ。」

 宗絃が探知して警戒していたのはクレイではなくクレアだったのだと気付いたセルディスは言葉を続けられなかった。 

(より危険視すべきがクレアとやらの方だというのは理解できるが、王国最強と言われる魔法使いが眼中にもなかったとは……。)

 呆れ果ててため息どころか笑いが漏れそうになるセルディスだったが、意識を戻して背を向ける。

「待て!」

 クレイは足止めに魔法を放ったが、宗絃が止めるまでもなく空中で風の魔法にかき消された。

「貴様ッ。」

 睨みつけるクレイだったが、風の魔法を放った当人は冷たい視線を向けて、

「そ奴が消えねば宗絃がやる気にならん。」

と言い放った。

 それは最初からクレイを相手にしていないという意思表示。

 同日に二人から蔑ろにされるなどクレイの王国貴族としての誇りが許すはずもなかった。

「揃いも揃って!私は栄えあるアルセリア王国貴族、クレイ・ストラウドだぞっ!」

 怒号と共に剣を抜き、クレアに迫る勢いは一流の騎士と遜色がない。

 魔法使いが負傷してなお、これほどの踏み込みであれば最強の名に恥じない実力だと誰もが認めるところだったが今回は相手が悪かった。

 その場にいたほとんどの者が視認できないほどの速さで抜刀したクレアは迫る刃を力尽くの一撃で跳ね返した。

 万全であっても腕が痺れたであろう衝撃はクレイの全身を駆け巡り、彼の動きの全てを止めた。

 剣を弾かれたまま、立つ事で精一杯のクレイに魔人の掌が向けられる。

「肩書ではなく力を持ってこい。」

 その目に光は無かった。

 クレイが不正にまみれた貴族や権力者に媚びる者を見るのと同じ。関わるだけ時間の無駄、無関心を示す瞳だった。

 全力の魔法防壁と身体強化も虚しく圧縮された風の魔法一撃で吹き飛ばされたクレイは絶命を疑うほど無反応で地面に転がった。

「さて、準備はよいかの?」

 再度宗絃に向けられた瞳には輝きが戻っている。ずっと欲しかったおもちゃをサプライズでプレゼントされた子供のような輝きが。

「いや、出来れば今度にして欲しい。」

 事実である。

 時期を曖昧にして先延ばし、二度と出会わない事を祈りたい。

 クレイ戦では小手先の技術で温存したまま凌いだが、迎賓館を丸ごと防ぐために使用した魔法は想像以上に体力を消耗したせいで疲労感もある。

「ふっふっふ。前回同様、人間ならば死ぬほどの一撃を入れれば我を好きにして構わんぞ?」

 少し前にかがみ、「ホレホレ」と言いながら服を指で引っ張り胸元をちらつかせると、半開きだった目が開かれる。

「ほう。」

「お?やる気になったか?」

「こちとら健全な青少年だぞ?」

「前は興味がなさそうだったが?」

「正体不明の化け物だと思ったからな。」

「なるほどのう。」

 ましてや前回はダンジョンの中であり、宗絃の警戒は納得のいくものだった。

「コレで釣れるとは、良い事を聞いた。そこの。我が我慢できておる内に早く消えよ。これ以上のお預けは不快感に変わるぞ?」

 クレアがまだ暴れ始めないのは宗絃と戦うためであり、その力を引き出すには気兼ねなく戦える状況を作らねばならないからだと理解したセルディスは、

「帝国でな。」

と言い残し闇夜に消えた。

 彼を追う者は、追える者はもう誰もいなかった。

 遠ざかる魔力を感じ、クレアの機嫌が良くなっていく。

「どうじゃ?戦う前に触っておくか?」

 突き出した胸が綺麗に揺れる。

「悪くない提案だけど、集中力がなくなりそうだからやめとく。」

「本当にやる気が出ておるのう。我にとっては喜ばしいが、何かあったのかと勘繰ってしまうぞ?」

「最近中途半端に力を出さないといけない相手が続いてストレスだったんだよ。」

 クレアほどの戦闘狂でないとはいえ、微妙な加減は宗絃にとっても好ましくなかった。

 そこへ来て気兼ねなく全力でぶつかれる相手は嬉しいものだ。師匠との手合わせを思い出す。

(見返りに釣られた訳じゃない、それだけではない。死ぬリスクを負ってまで求めるものじゃない。アイラよりも大きそうとか思ってない。)

 脳裏を念仏のように駆け巡る言い訳は嘘ではない。

 冗談混じりの雑念と煩悩を振り払い、神経を研ぎ澄ます。

 戦闘に集中し始めた宗絃を見てクレアから発する空気も少し鋭くなった。

「準備はできたか?」

「あと百年待ってくれ。」

「たわけ。」

 言葉の直後には高速の踏み込みで目の前に迫ったクレアが剣を振るい、宗絃がそれを受け流した。

 同じ構図が二合続いた後、鍔迫り合いとなった。

(やっぱりただの筋力バカじゃない……。)

 ただでさえ腕力と速度の差で上回る相手の攻撃をいなすのは一苦労だが、攻防の中で学習し角度を変えて攻めて来られて誤魔化しが効かなくなる。

 徐々に押し込まれ刀身が宗絃に迫る中、飛び下がったのはクレアであった。

「何じゃ、それは……?」

 笑みの代わりに驚きが浮かんだ表情で見つめる先は宗絃の刃。

 前回戦った時とも、ついさっき宗絃が生成したのとも違う、『透き通っているが水と分かる』ではなく、『水だと分かり透き通っているが青く染まった』刃である。

「さあな?」

 答と共に今度は宗絃が攻めに転じた。

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