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第8話・【ジュラシック・テイル】

 (まご)(かた)無き((注))大自然。


 人類文明に汚染されていない澄んだ空気と、なにひとつ視界の邪魔をするものがない、遥か遠くまでつき抜ける青空。そして、静かで穏やかな流れの川。


 そう見えていたのは、ただ単に、ウチが白亜紀を舐めていたからなのだろう。


 大自然の驚異とはよく言ったもので、所詮ちっぽけな人間一人の力でどうにかなるようなものではなかった。


 ウチは岸からは全く想像がつかない速さで流されながら、どんどん中央の方に引き寄せられていった。


 ……本当に馬鹿だ。 


 こんな時代に転生させた女神に怒り

 ベルノを助けようと我を忘れ

 皆の言葉を無視して死地に足を踏み入れ

 挙句の果てに川に飲まれてしまった。


(マスターさん……)


 自業自得ってやつなのか? こんな滅茶苦茶な時代に転生させられて、意味不明のスキルを与えられて、訳の分からない使命を課せられて、それを受け入れなかったウチが悪いのか?


(マスターさん……)


 まあいいや。もう、これで終わるんだ。

 


 ……って、そんな事思うわけないだろ!! 



「ふざけんなバカ神!」


 ――ベルノを巻き込んだことは絶対に許さん。


「ふざけんな魔王!」


 ――誰がてめぇらの為に死んでやるかよ。 




「ふざけんな、恐竜時代(ジュラシック・テイル)!!!!」




 叫んだらなんかふっ切れた。ま、叫んだと言っても半分は水中でだけど。大声を出したら思考がリセットされた気がして、そしたら状況が少し見えてきた。


「マスターさん!」

「プチちゃん⁉」


 うねる波の合間に水面ギリギリを滑空しているプテラノドンの恐竜人(ライズ)が見える。この()はいつからそこにいてくれたんだ? 


「マスターさん、これを!」


 ウチが流されている速さに合わせて飛び、なにかを手渡そうと手を伸ばして来た。持っているのは蔦……だよな。これをロープ代わりにしろって事か?


 必死で手を伸ばいているけど、体勢が安定しなくてなかなか掴めなかった。川のうねりが不規則すぎて、闇雲に振り回した手が何度も何度も空を切ってしまう。


 プチは、このままでは(らち)があかないと判断したのだろう。一瞬だけ上体を起こしてわずかに上昇すると、次の瞬間一気に加速して突っ込んで来た。


 ウチが止まっていれば、風圧を感じながら横を通り過ぎるほどのスピードなんだと思う。だけど今は川の流れがある。相対的に“す~っ”とウチに近づいてきた感じしかしなかった。


 差しだされたプチの手を掴んだ。暖かく、血の通った生き物の手だ。

 彼女は“ニコッ”と微笑むと上昇して離脱、そしてウチの手の中には緑の蔦があった。それは猫のしっぽくらいの太さで、ちょっとやそっとでは切れそうにない。


 蔦は岸に立ち並ぶ木々の上にいくらでもある。しかし、結構複雑に絡んでいる”それ“をこのタイミングで手渡してくるって事は、ここまでの事態を予測してあらかじめ(ほど)いてくれていたのだろう。

 

 冷静で先々に考えが及ぶ恐竜人(ライズ)、それがプテラノドンである彼女の長所か。まあ、気の弱い所だけ玉に(きず)だけど。


 でも、おかげで命綱は手に入った。後はこれを伝って岸に上がるだけだ。


 ――しかし大自然の驚異は、そんな簡単に愚か者を許しはしない。


 蔦を手にしたのはよいのだけれど、ウチの手が水にぬれている事もあって結構滑る。なんとか手放さないようにと全力で握ってはいるが、ズルズルと滑り続ける。


 これを手放したらマジで生き残れない。どうすればいいんだ? 手に数回巻きつけるだけでいいのに。


 そんな時、女神さんの声がした。白亜紀(ここ)に来て一番役に立った情報だ。


〔八白亜紀、爪を使いなさい!〕

「そうか、猫の爪……」 


 そもそも猫人の手は、見た目だけなら人間と変わらない。だから爪をだし入れできるなんて、言われるまで全くわからなかった。

 ウチはガッチリと爪を立てて蔦を引き寄せ、手や腕だけでなく全身に巻きつけた。


「もう……先に言ってよ」

〔あら、自業自得ですよね?〕

「ったく……」

〔こんな事で死んだら許さないんだからね!〕


 ……また微妙にツンデレ入ってるし。


「ちゃんとつかまっていろよー」


 ティラノは蔦をしっかりと握り、力強く引っ張り上げてくれている。手に怪我をしているはずなのに。


 そんなことを考えていたら、自然と涙があふれて来た。みんなにはあれだけ酷いことを言ったのに、見捨てずに助けてくれるなんて。


 久々に人の(ぬく)もりを感じたウチは、感動のあまり涙と鼻水が止まらなかった。ぐちょぐちょで、でろでろだ。


 ……水の中で良かった。


 しかし、あとはこのまま岸まで引っ張ってもらえれば、という時に理解不能な事をするティラノ。


「あ、やべぇ」


 と、彼女は引っ張っていた蔦を手放した。手を滑らしたとかではなく『やべぇ』と言ってから“パッ”と手を放した感じだ。


「え、なんで……」



 ――そしてウチは蔦に絡んだまま、またもや濁流にのまれてしまった。

(注) (まご)う・(かた)|無き――まごう/まがう・かたなき/ことなき 

 どの読み方も正解です。漢字表記にすると“事なき”ではなく“方なき”と書きます。


〇タイトルについて。

 日本語表記というのは便利なもので、テイルという三文字にいくつもの意味がこめられます。単純に“尻尾”という意味や、“末端”“隅っこ”を意味する【Tail】。そして寓話/おとぎ話を意味する【Tale】。

 この物語においてはどちらも正解なのですが、英語表記は寓話/おとぎ話を意味する【Tale】としています。

 余談ですが、寓話の定義のひとつとして『擬人化した動物が登場する』というものがあります。赤ずきんちゃんやシンデレラ等はまさしくその定義に沿っていますね。

 


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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。


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