第9話・竜の刃
――ティラノが突然手を離した。
次の瞬間、ウチの体は再び激しい濁流に引きずり込まれる。
「なんで――!?」
必死で顔を水面に上げたその刹那。 巨大なワニの口が、すぐ目の前でガブリと空を噛み砕いた!
牙が水しぶきを爆散させ、一瞬前までウチの身体があった空間を文字通り食らい尽くした。凶悪な顎が閉じる音が、水中と空気の境目で不気味に響く。
「マジか……!」
水の中で冷や汗が噴き出すような恐怖。心臓が跳ね上がり、背筋が凍るのを感じていた。
ティラノが手を離さなかったら、ウチは今頃、真っ二つだった。
だが、恐怖はまだ終わっていない。ワニが、獲物を逃した怒りで再び向き直ってきた。
しかし――
「ざけんじゃねぇぞコラ!」
ドカッ!、という鈍い衝撃音と共に、完璧なまわし蹴りがワニの後頭部にクリティカルヒット。
「俺様の“ツレ”に手を出してんじゃねぇ!」
ワニの巨体が派手に吹っ飛び、気絶したまま腹を見せてぷかぷかと流されて行った。
……”ツレ“って言われるのは悪い気がしない。むしろボッチ殺しの嬉しい言葉だ。
ティラノは軽くふざけたような口調だけど、あの瞬時の判断力と正確な行動は本物だ。
野生の生き物は“生きる”ことに貪欲で敏感――それが彼女の本質なんだろう。
「少し休んでおけよ。あの白いのは任せておけって」
彼女は立ち並ぶ木々の根元に行くと、木刀を頭上に構えて目を閉じた。
足元からゆらゆらと熱気が立ち上がり、全身を包んでいく。
「これは……」
〔恐竜人の持つ、闘気ですね〕
最初はうっすらとしていたが、みるみるうちに鮮明な形になっていった。
「え? あの形……ティラノサウルスじゃん」
同時に、ポケットの中の約束珠が熱を帯びて輝き始める。
「——いくぜ! レックス・ブレード!!」
カッと目を見開き、上段から一気に振り下ろす。木刀とは思えない凄まじい切れ味で、巨木をあっさりと切り倒した。
「なにこの威力……」
闘気を纏った一撃。まさに竜の刃。
近くにいるだけで危険な、凄まじい威力と反動。周囲の砂や小石を吹き飛ばし、有り余るエネルギーが竜巻となって吹き荒れた。
「これが女神さんの言っていたスキルなのか」
〔そうです。切り札になりうる能力ですよ!〕
恐竜の幻を背負って技を放つ姿は、思わず見惚れるほどだった。技名は……まあ、ちょっと微妙だけど。
彼女は切り倒した巨木を軽々と担ぎ、中州へと運んでいく。最初に『俺様一人で十分』と言っていた意味が、痛いほどわかった。
「これでいいかー?」
「お、落ちないでくださいね……」
プチが心配そうにウチの腰に蔦をしっかり縛り、ベルノの分の蔦も用意してくれた。
……なんて頼もしい、素敵な娘たちなんだろう。
「ちゃっちゃと行ってこいヨ!」
「うん、ありがとう」
丸太の上は転がり落ちそうに思っていたけど、意外と安定している。猫人のバランス感覚と、爪を少し引っ掛けるだけで体勢を整えられるのが大きい。
「……猫の爪って、めちゃくちゃ便利やな」
♢
みんなのおかげで、なんとかベルノを助け出すことができた。無事でよかった……本当に、よかった。
ウチは結局、自力でなに一つ成し遂げられなかったけど――そんな反省は後でいい。今はただ、この子のことだけを考えよう。
白い柔らかな毛並み、しっぽの先の焦げ跡、そして金色の瞳。呼びかけにピクリと反応する耳。
……間違いない。ウチの飼い猫、ベルノだ。
「幼いころに死に別れて、再会したのが白亜紀って……」
腕の中で小さく震えるもふもふの体。川の水を浴びて冷え切っているし、いつからあんな場所に放置されていたのかわからない。とにかく体力が心配だ。
「この子もチョコで体力回復するかな?」
〔それはわかりません。さすがに猫まで想定していないので……〕
「っていうか、こんな弱肉強食の時代に子猫のまま転生させるなんて、バカ神はどこまでアホなんだよ」
〔バカなのかアホなのか、どちらかに統一してください〕
……両方でいいだろ。
「ったくもう、擬人化するとか考えなかったのかよ」
〔ですがもし擬人化していたら、あなたの飼い猫と気がつかなかったのでは?〕
言われてみればその通り。結果オーライ……と言いたいところだけど、素直に納得できるわけもない。
「ベルノ、ちょっと口開けて~」
と、薬を飲ませる要領で口を開け、小さく割ったチョコを放り込んだ。……これで体力回復しなかったらどうしよう?
しかし運命というものは、アッサリとウチを裏切ってくれる。悪い方にも、よい方にも。
ご覧いただきありがとうございます。
「この作風嫌いじゃない!」という方いらっしゃいましたら、このあとがきのかなり下にある☆☆☆☆☆で応援していただけると嬉しいです(下にずんどこスクロールお願いします!)
ブックマークやランキングボタンをポチっとして頂けたら、涙流して踊ってしまうかもしれません。Shall we ダンス?
是非是非、続けてご覧いただけると幸いです!
無断転載・引用禁止。
表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。




