第3話・最強じゃねぇか!
目の前にいるティラノサウルスの娘。彼女がウチの恐竜人なのか。
そんな彼女の視線とウチの視線が交わる辺りに、小さな光が浮いているのが見えた。キラキラと光りながら、フワッと落下する“それ”をじっと見てみる。
「……指輪?」
透明感のある真っ白な石がはめ込まれた指輪が、ウチの手の上に舞い降りて来た。
〔それは恐竜との契約の証、約束珠の指輪です〕
「うおう、急にでてくんな! 声だけの存在でも焦るっての」
姿が見えない分、突然すぎて怖いわ。
「で、約束珠って、なんなんそれ?」
〔恐竜人となった者の、言わば心です。そして繁栄の約束と知識を与える為のエンゲージリングなのです〕
「つまり、これを指にはめてライズ化完了って事か」
エンゲージリングなんて言われると左手の薬指にはめなきゃいけないような気がして……訳の分からない恥ずかしさを感じながら、ウチはその輝く指輪をそっと指にはめた。
その瞬間、妙な感覚が左手薬指から脳へと走った。上手く言葉にできないけど、『嬉しい』とか『楽しい』と言った“気分が明るくなる感情”だ。
「……これでいいのかな?」
「アンタかい? 俺様を呼びだしたのは」
「うわ、しゃべった……」
「ちっ、なんだテメー。なめてんのか? コラ!」
「こわ……」
〔八白亜紀、あなたがライズ化させた恐竜には“それなりの知性と、ある程度の知識”が与えられます〕
……それなりとかある程度とか適当すぎる。
それはさておき、指輪をはめた時にウチの方にも流れ込んでくる情報があった。ライズ化し、約束を交わしたこの娘の名前だ。
「あ……あのう……ティラノさん?」
「おう、なんだ?」
「チョコ……食べます?」
「今なんつった⁉」
――キラリと光り、獲物を狙う鋭い目つきになるティラノ。
「ひぃ、すみません!!」
「食うに決まってんだろうがヨ!」
彼女はその場にドカッと腰を下ろすと、右手を無言で差しだしてきた。さっさとよこせという事らしい。
恐竜人相手って事もあって最初は恐る恐る話していたけど……ライズ化の力なのか、転生のテンションのせいなのか、はたまたティラノサウルスの性格なのか。三箱目を開く頃には、笑顔で会話を交わすようになっていた。
「——なあ、それも食っていいのか?」
「それって?」
ティラノを見ると、彼女はウチの頭の上を指差していた。
〔やめてください。私は食べ物ではありません!〕
「え? その声……女神さん?」
見上げるととそこには、絵本にでてきそうな妖精が飛んでいた。
「い、いつの間に……」
身長はウチの手の平より少し大きい位だから二〇センチほどか。薄紫の髪の毛と、緑色が透けて見える透明な羽。もの凄く清楚なイメージだ。
……でもこれ、中身は詐欺女神なんだよな。
〔なにを驚いているのですか、八白亜紀〕
「あ、いや、なんで妖精なの?」
〔姿があった方が話しやすいでしょう?〕
「まあ、そうだけどさ」
〔それに、こうやって実体化できるのは“数名しか持っていない貴重な能力”なのですよ。ラッキーと思ってくれてもいいんだからね!〕
……なんか微妙にツンデレ口調が入っているような?
「で、食っていいか?」
ティラノはよだれを垂らしながら、女神さんをハンターの目で見定めていた。
〔八白亜紀、なんとかしなさい〕
「もう、丸投げかよ」
フワフワと飛びながらウチの背中に隠れる女神さん。ってか、こいつはウチをこんなところに送り込んだ張本人じゃん。
むしろ食われてしまえ。と一瞬思ったけど、目の前で食いちぎられる絵面はさすがに遠慮したい。
それに、多分口を滑らせたのだろう……今女神さんは『数名しか持っていない能力』って言ったんだよな、『数名』って。
これって他にも神仲間がいるってことだ。そしてその中には、異世界転移ができる能力を持った神さんがいるかもしれない。
……そう仮定すると、手掛かりであるこの女神さんには死なれちゃ困る。
「えっと、ティラノさん相当お腹空いてる感じ?」
ティラノの横に転がっているチョコの空き箱。いくつあるかわからないくらい山積みだ。
「おう、一週間ぶりだからな」
「そか~、弱肉強食の世界って大変なのね」
地面が乾いている場所を探し、大きめの岩を背もたれにして座った。青空の下での食事ってキャンプ飯みたいでよき。
カバンを開くと、二人分のどんぶりがヒョコっと飛びだした。その中は湯気が立ち上る熱々のラーメンだ。よくわからないけどなんか凄い構造のような気がする。
……っておい。
「これ豚骨醤油じゃないか! 鶏塩って言ったのにさ、ったくアホか。どうやったら間違うんだよ……」
「なんだこれ?」
濃厚な香りがティラノの鼻孔をくすぐったのだろう。『なんだこれ?』と言いながらも、どんぶりに口をつけてスープを飲み始めた。
――ゴクッ
「——ん⁉」
ティラノの目がキラリと鋭く光る!
――ゴクゴクゴクゴクッ
「んんんん……」
お、これは気に入ったな。ティラノは足をバタバタさせながら一気にスープを飲み干してしまった。麺と具材が虚しく顔をのぞかせているのはご愛敬だ。
「うめー!! なんだこれ、最強じゃねえか!」
笑顔のティラノにつられて、ウチもどんぶりに口をつけた。
ズズズっとスープを一口のむと、まず最初に魚介だしの香りが鼻孔をくすぐった。次に、す~っと鼻に抜ける醤油の風味。最後にこってり濃厚な豚骨の甘みとうま味が、口いっぱいに広がって確かな存在感を残す。
「旨っ!」
透明感のある中太麺がもちもちシコシコしていて……メチャクチャいけるな、豚骨醤油って。今まで“もたれそう”ってイメージだけで敬遠していたけど、これはまさしく最強だわ。
「なんか、今までの人生損した気分だよ……」
コクとキレのスープが麺に絡んでなんとも素敵なハーモニーを奏で、ウチとティラノは、あっという間に完食していた。
「ふう……豚骨醤油、侮れん! 大変おいしゅうございました」
パンッと手を合わせて食材に感謝。ティラノも真似て両手を合わせていた。
「おめースゲーな、こんな食いモン作れるなんて」
キラキラとした尊敬の眼差しで見つめてくるティラノ。う~ん、ラーメン好きブロンド美少女なんて、モテ要素満載じゃないか。
女神さん→https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2329941/blogkey/3174175
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