第2話・ライズちゃん
「うっそ~ん! 待って、ちょ、マジでヤバイって!」
――とっさに地面を蹴って全力ダッシュ。
やっと逃げ切ったと思ったのに、またこいつに追いかけられるなんて冗談じゃない!
体長十メートルはあろうかという巨体が、ドスン、ドスンと地面を震わせながら迫ってくる。歩幅が違いすぎて、逃げても逃げても距離が離れない。
だが、ウチの身体能力も段違いだった。転生者補正なのだろうか、揺れる地面の上でもバランスを保ち、余裕で脚を動かし続けられる。
このまま逃げ切れるかも――!
そう思った瞬間だった。突然ガクンと体力が切れ、息が上がり、脚がもつれる。そして……地面に顔面スライディングしてしまった。
——背後で牙がキラリと光り、凶悪な目がウチを捉えた。
生きたまま食われるのか。これ、絶対痛いよな。ぐすんっ……のんびり食レポしている場合じゃなかった。
「マジでもう、ウチがなにをしたって言うんだよ」
……
……
「……あれ?」
しかし、ティラノサウルスはウチを完全に無視して、ポーチから飛び出したチョコの箱を必死に開けようとしていた。
猫のようにスンスンと匂いを嗅ぎ、短い前足でゴソゴソと箱を小突き回している。
「もしかして……食いたいのか?」
「グァ!」
肉食恐竜とは思えないつぶらな瞳でじっと見つめられ、思わず微笑んでしまった。
「ちっ、照れるじゃねぇか……」
震える手で新しいチョコを取り出し、箱を開ける。『待て!』と指示された犬のように大人しく待つ姿が、妙に愛おしい。
ウチはチョコをまとめて口に放り込んでやった。一粒ずつじゃ埒が明かない。
「これで見逃してくれないかなぁ……?」
ティラノサウルスはしばらく夢中で舐めていたが、急に動きを止め——
「グアアアアアアアアアア……!」
荒野に響き渡る巨大な唸り声。木々がガタガタと震え、空へと突き抜けていく。
ヤバい、可愛いとか気のせいだった! 逃げなきゃ——そう思った瞬間、唸り声がピタッと止まった。
ティラノサウルスの巨体がみるみる小さくなり、『ぽんっ』という軽い音とともに白い煙が上がった。
「え……なにこれ?」
煙の中から現れたのは、人間の女の子だった。
——だが、腰からスラリと生えた恐竜の尻尾が……ゆらりと揺れていた。
赤の差し色が入った黒の特攻服。背中には金文字で『帝羅乃』と刺繍され、紅いハチマキに木刀という、昭和ヤンキー全開のスタイル。
バターブロンドの波打ったロングヘアが腰まで伸び、風に靡くたび光が透けるように輝く。切れ長の涼しげな目と、透明な蒼い瞳——かなりの美少女だ。
彼女は風で乱れた前髪を颯爽とかき上げ、自信たっぷりの笑みを浮かべてウチを見つめてきた。
「こ、これが……ウチの恐竜人ちゃん……?」
目の前にいるのは、巨大なティラノサウルスの――いや、今は可愛らしい女の子に姿を変えた彼女。
この娘がウチの恐竜人なのか。
「しっかし、チョコが変身させるアイテムだったなんて……」
彼女との視線が交わるその辺りに、小さな光がフワッと浮かんでいた。キラキラと輝きながらゆっくり落ちてくる“それ”を、ウチはじっと見つめた。
「……指輪?」
透明感のある真っ白な石がはめ込まれたシンプルで美しい指輪が、ウチの手の上に舞い降りてきた。
〔――それは恐竜との契約の証、約束珠の指輪です〕
「うおっ、だから急にしゃべんな! マジでビビるっての!」
……姿が見えない分、突然すぎて本当に焦る。
〔♪で~でんっ!〕
「もうええって。んで、約束珠って、なんなんそれ?」
〔恐竜人となった者の、言わば心です。そして繁栄の約束と知識を与えるためのエンゲージリングなのです〕
「つまり、これを指にはめてライズ化完了って事か」
エンゲージリングなんて言われると、つい左手の薬指に……と意識してしまい、訳のわからない恥ずかしさが込み上げてくる。
そんな自分を笑い飛ばしながら、ウチはその輝く指輪をそっとはめた。
瞬間、左手薬指から脳へ、妙な感覚が駆け抜けた。言葉にしにくいけれど、『嬉しい』とか『楽しい』といった、心がぱっと明るくなる感情だ。
「……これでいいのかな?」
「アンタかい? 俺様を呼びだしたのは」
「うわ、しゃべった……」
「ちっ、なんだテメェ。なめてんのか? コラ!」
「こわ……」
〔八白亜紀、あなたがライズ化させた恐竜には“それなりの知性と、ある程度の知識”が与えられます〕
……ったく、それなりとかある程度とか適当すぎだろ。
ティラノ→https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2329941/blogkey/3163814
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。




