第2話・ライズちゃん
肌に風を感じ、足が地についている感覚があった。恐る恐る目を開けてみると、そこに広がるのは想像していたものとは全く違う風景だった。
「ここが……異世界?」
スカッと抜けるような青空に揺蕩う白い雲。そして、遥か向こうに煙を吹いている火山が見える。中世的な街並みも石畳の街道もなく、ただただ、大自然の真っただ中だった。
そんな爽やかな天気とは対照的に、枯れた樹木と岩山ばかりのなにもない大地。所々水たまりがあるのは雨でも降った後なのかもしれない。気候的には春か秋かといった感じで、暑くも寒くもなく過ごしやすい気温だ。
「そうだ……ウチ、恐竜に」
……なってなかった。人間サイズで一安心、手も足もそのままだ。いつ着替えたのかわからないけど、フード付きの白いパーカーと黒の膝丈スウェットパンツになっている。
持ち物は報酬でもらったカバンが一つだけ。パソコンもスマホも無いとか、ちょっと落ち着かない。位置情報もわからないとか不安しかないな。
流石になにもなさすぎて『なにすりゃいいんだろ?』といろいろと考えていたら、ウチの頭の上から”グルグルグルグル“と盛大な音が聞こえてきた。
なんの音なんだろう? と見上げると、そこにいたのは……
……ティラノサウルスでした。
「うっそ~ん、いや、マジで待って。ちょ、ヤバイって!」
とっさに地面を蹴り、余力なんて考えずに全力ダッシュだ。
ついさっきまでエアコンが効いた部屋に引き籠ってたのに、『今はティラノサウルスに追いかけられています』とかないわ! マジないわ!!
つか、ティラノサウルス速え~。体長が十メートルもあれば歩幅も相当なものだし、一歩ごとにドスッ、ドスッ、と振動が地面を伝わってくるから走りにくいったらありゃしない。
でも転生者の補正なのだろうか、身体能力は驚くほどすごかった。ゆれる地面の上でも転ばずに走っていられるバランス感覚。これは嬉しい誤算だ。
しかしここに来て三年間のひきこもり生活が祟ったのか、突然ガクンッと体力が途切れた感じがして体が動かなくなった。息切れも激しいし、いったい、ウチの体はどうなってしまったのだろう。
ティラノサウルスの牙がキラリと光り、その凶眼がウチを見下ろしてくる。どこかで見た映画のワンシーンを思いだしながら、ウチは、身体を丸めて恐怖に悶えるしかなかった。
いや、まてよ。もしかしたら今度こそ異世界転生できるとか? いやいや、さすがにそれは都合よすぎな気がしないこともない。
それに死ぬのって痛いよな、間違いなく。それもこの状況だと……生きたまま食われるってことだよね。
「マジでもう、ウチがなにをしたって言うんだよ」
……あれ?
「なんだお前……」
ティラノサウルスはウチの事をそっちのけで、チョコの箱をデカい口と短い腕で開けようと必至になっていた。いつの間にかカバンから飛びだしていたらしい。
カカオの香りにでも惹かれたのだろうか。猫みたいにスンスンと匂いをかいだあと、爪先でゴソゴソと小突き回している。
「もしかして、それ……食いたいのか?」
言葉が通じているのかはわからないが、肉食恐竜とは思えない“つぶらな瞳”でウチをじっと見つめてきた。
「ちっ、照れるじゃねぇか」
震えがおさまらない手で、カバンから新たにチョコを取り出して箱を開けた。『待て!』と指示された犬みたいに大人しく待っている恐竜が、なんか妙に可愛いく思える。
ウチは、取りだしたチョコをティラノサウルスの口にまとめて全部放り込んでやった。最初はひと粒ずつ入れていたんだけど、口がデカすぎて埒があかなかったからだ。
「これで見逃してくれないかなぁ……?」
ティラノサウルスはしばらく舐めていたかと思うと急に動きが止まり、突然『グアアアアアアアアアアア……』と唸り声を上げた。
荒地に響く、巨大生物の唸り声。木々を揺らして上空に突き抜けていく。
これはもう、怖いなんてもんじゃない。可愛いとか気のせいでした。やっぱり無理、ここは逃げるか……と、ガクつく脚を手で押さえながら逃げの態勢に入ったその時。
“ピタッ”と唸り声が止まったかと思うと、段々とティラノサウルスの身体が小さくなっていった。
「え……なにこれ?」
人間サイズになった所で『ぽんっ』と言う軽い音とともに煙が発生。中から人が、女の子が現れた。なんだこれは……チョコ効果? このミルクチョコって変身させるアイテムなのか?
そしてこの娘が、女神さんの言う恐竜人なのだろう。見た感じは人間そのものだが……ある、あるのだ。恐竜のしっぽがスラッと生えていた。
赤の刺し色が入った黒の特攻服を着ていて、背中には『帝羅乃』の金文字刺繍。さらには紅いハチマキに木刀という、思い出の一枚とかの昭和のヤンキースタイルだった。
バターブロンドの波打ったロングは腰の辺りまで伸び、風になびく“それ”は光が透けて見えるようだ。そして結構……いや、かなりの美少女。切れ長の目が涼しげで超クール!
彼女は風でまとわりついた横髪を颯爽とかき上げる。口元に軽い笑みを浮かべ、自信に満ちたその眼差しでウチを見つめて来た。これはヤバイ、透明な蒼い瞳に吸い込まれそうだ。
「こ、これが……ウチの恐竜人ちゃんなのか」
ティラノ→https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2329941/blogkey/3163814
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。