第1話・チョコとラーメンとボッチ
――ウチは人知れず死んだらしい。
いや、人知れずどころか自分でも知らないうちに、だ。八白亜紀、年齢はごにょごにょ。短い生涯だった。
♢
今朝の事だ。布団に寝転がったままパソコンの電源をいれた。面白くもない起動音を聞きながらチョコを口に放り込み、でっかいあくびをひとつ。
ちょちょ切れる涙を指でぬぐって、目をひらいたその時、なんとも表現のできない違和感がウチを襲った。
いつのまにか、暗闇にフワフワと浮いていた。そこにはパソコンも机も、なんなら床すらもない。上も下もわからず重力も感じず、まったく方向感覚がつかめなかった。
「え、待って、なにこれ!?」
夢? ……な訳ないよな。
「お~い……誰かいませんか~?」
ウチの問いに答えるのは、シーンとした静寂だけだった。
なんか、段々と怖くなってきた。真っ暗でなにも見えないし、身体は浮いているし。いや、もしかしたらこれ……落ちてるとか?
「ちょっ、マジで怖いんだけど。どうなってんのよ」
なにか潜んでいるかもしれないとか思ったら、さらに増す恐怖。変な汗がふき出て、首や背中を伝って流れていくのを感じる。
〔——落ち着きなさい、八白亜紀〕
そんな時、どこからともなくハスキーがかった女の声が語りかけて来た。正面のようでもあるし、遥か遠くから語りかけているようでもあった。
「……誰? どこ? ……怖いって。なんなんここは?」
〔八白亜紀、山梨県在住。ひきこもりのボッチ。一応女性。独身。アラサー。恋人なし。趣味・アニメと漫画とボッチ。好きなもの・チョコとラーメンとボッチ〕
「コラ、個人情報保護法はどこにいった。」
なんかもう『ふざけんな!』って気分が先に立って、『怖い』とかの感情も『ここどこ?』とかの疑問もどこかに吹き飛んでいった。吹き飛んで木端ミジンコだ。
「ったく、なんで知ってんのよ? だいたい一応女性ってなに、一応って。つか、ボッチ強調しすぎや。大事な事でもないのに三回も言いやがって。めっさえぐられたわ」
〔それはさておき〕
「おくな!」
〔あなたはサクッと死にました。これから転生し、第二の人生を歩むことになります〕
「サクッと死にましたって、なんか軽くねぇか? それにトラックはどこに行ったんだよ、普通はひかれて転生するんじゃないの?」
〔今どきトラックなんて流行りませんから。スマートにいきましょう、スマートに。それに痛いですよ? ひかれると。グチャっと〕
……う、想像してしまった。
「んで、これって異世界転生のチュートリアルかなんかなん?」
〔概ねその認識でよいでしょう。今、魔王の手により人類が存亡の危機にさらされています。あなたはこれより転生し、魔王軍と戦ってもらいます〕
「マジ? 魔王と戦うとか勇者転生じゃんか。こんな事、本当にあるなんて……なんかすげえ!」
いきなりテンションが爆上がりしてしまった。勇者属性なんて大当たりなのだから。
……ここからだ。ウチの人生はここから始まるんだ!
「さらば退屈な日々。待ってろ異世界! 超絶大勇者の爆誕やで!!」
〔どうどう、落ち着いてください。まずは最初に、受諾報酬としてマジックアイテムをひとつ与えましょう〕
ウチのサブカル知識が警告している。『ここで武器や防具を貰うのは素人だ!』と。そして、『生きるためにはまず食料』とも告げている。
それに、『どんな時でも食えるヤツが生き残る』って、“銀河鉄道に乗った黒い服のお姉さん”が言っていたしね。
「チョコとラーメンを無限にとりだせるカバンをくれ。ラーメンは飽きのこないアッサリ系がええな。塩……あ、鶏塩で頼むわ」
〔わかりました。意外と謙虚なのですね、見直しました。大抵の人はどんな物でも取りだせるカバンにしてくれと言うのに〕
あ、言われてみればその通り。
「ウチは謙虚じゃないのでそっちにします。やっぱりなんでも取り……」
〔注文確定しました!〕
……そうっすか。仕事早え~。
「もうちょっと余裕持とうよ、人生無駄な時間は必要なんやで?」
〔それはさておき〕
「おくな!」
〔次に、付与される固有スキルです〕
「おお、きた! さすがにドキドキするな~。チートなの頼むよ、女神様!」
〔あなたには【ライズ化】のスキルが付与されます」
「は……? ライズ……化? なんぞそれ?」
やばい、意味わからん。スキルってなんかこう『無限の超級魔力』とか『一振りで街が吹き飛ぶ』とか『どんな攻撃も一切通じない』とかそういうのじゃないのか?
〔これは、恐竜たちを仲間にし、変身させる事ができる能力です〕
「……はい?」
――この女神、今なんて言った?
〔恐竜とお友達になれるのです。ちなみに超チートですよ。ヨカッタデスネ~!〕
「いや、そうじゃなくて、きょうりゅ…………きょ……えっ? ……なに?」
〔また、魔王軍は人間を警戒しています。あなた自身も人間から他の種族に転生してもらいます〕
「ちょっとまて、その流れだとウチも恐竜になるってことか? 美形エルフとは言わんからせめて人型にして! つか恐竜はないだろ、恐竜は。どこの世界線だよ。異世界転生が恐竜勇者って。聞いたことないっての」
〔では、恐竜たちを指揮し、地球を魔王軍の手から守って下さい!〕
「って、お~い。説明それだけ? ……マジで?」
なにもなかった真っ暗闇に、前方から一筋の光が差し込んで来た。その光は段々大きくなり、あまりの眩しさに目をつむってしまった……。
う~ん……ウチ、恐竜になってしまうのですか?
(注)
本作品の造語【Live-th:ライズ】について。
元は“共に”を意味する〔Live with:ライブ ウイズ〕から。
恐竜人を総称してライズと呼ぶ。
※Liveth(生きる)という単語そのものもありますが、本作では「寄り添う者」という意味で“造語”として使っています。
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。