お金の価値
俺たちを乗せた馬車はギルドへと無事到着した。
さっそく、軽い手続きを済ませてから依頼の報酬を貰うことができた。
ちなみに、小太り村長は馬車を貸してくれただけなので帰っていった。
「それでは、依頼達成による報酬と大牙虎ファングタイガーの魔石と素材の買い取り金になります。合わせて白金貨1枚、金貨5枚になります。ご確認ください」
受け取った小袋は片手で収まる程度だが、ズッシリとした重量感がある。
中を開けて枚数を確認すると、白金色をした硬貨1枚に金色をした硬貨が5枚入っていた。
それを懐にしまっておき、カミーラに気なっていたことを質問した。
「これだけあれば、宿に泊まって食事できますか?」
「え? も、もちろんですよ。·········もしかしてクルルさんお金の価値って知りません?」
「ええ、知らないです。良かったら他にどんな硬貨があるのかというのを教えてくれませんか?」
「クルルさんってずいぶんと箱入りだったんですね。知らないのなら、覚えといた方がいいでしょう」
箱入りというか習う機会が無かったというか······。
普通の計算なんかはできるけど硬貨の価値とか全くわかんないんだよな。
どのくらいあれば宿に泊まれるんだろう。
カミーラは一つ咳払いをしてから人差し指を立てる。
「それではですね、1番値段が低い順から説明していきますね。
──種類としては鉄貨、鉄銅貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨と六種類あります。単位といたしましては、この大陸にちなんでレリンドとなってます。
鉄貨は1レリンド、鉄銅貨は10レリンド、銅貨は100レリンド、銀貨は1000レリンド、金貨は1万レリンド、白金貨は10万レリンドとなります。
1番値段が低い鉄銅ではほとんど何も買うことはできませんね。
銅貨からは何枚かあれば安い食べ物くらいなら食べることもできます。
ちなみに、この村にある宿ですと食事別ですが、銀貨7枚あれば10日は泊まれますね」
ふむ、ということは現在の所持金は15万レリンドってことになるな。
素泊まりであれば200日以上は泊まれるのかよ。
一文無しからずいぶんと金持ちになったものだ。
「わかりました、ありがとうございます。そういえばギルド長はいつ頃お戻りになりますか?」
「え~っとですね、予定ですと明日のお昼には戻ってくるみたいですね」
「それじゃあ明日のお昼に、またここへ来ます」
「はい! それじゃお疲れ様でした! 本当に今日はありがとうございました!」
カミーラの見送りを後ろにして村を歩く。
まずは、どこかで飯を食べたい。
しばらく村を練り歩いたが、食事処なんてどこにも見当たらなかった。
仕方ないので露店で売っていた、固そうなパンに塩で味付けされた肉が挟まれているサンドイッチを購入し小腹を満たした。
ちなみに味はというと、可もなく不可もなくと言ったところだった。
宿を探すついでに散策していると、『道具屋』と書かれた看板が掲げられている店を発見した。
興味本位で中を覗いてみると、至って普通の消耗品や冒険者には必須の寝袋など色々置かれていた。
俺は布や寝袋、冒険者用のバックパックを店員に渡す。
「······銀貨1枚」
顎に手をつきながら、短く伝える店員に小袋から銀貨を1枚渡す。
「······まいどあり」
無愛想過ぎる店員の店を出て、今度こそ宿へと向かった。
やっとの思いで宿へついた。
なぜか俺は遠回りしていたのだ。小さい村なの不思議である。
宿は二階建ての小さい建物であり、外観は少しばかりボロい。
ギルドを二階建てにしたらこんな感じになりそうだ。
扉を開けて中に入ると耳が痛くなるほど静かであった。
誰もいないのかと見渡していると、受付の前に『御用の方はベルでお呼びください』と書き置きしてあり、その隣にはベルが置かれていた。
さっそくベルを鳴らす。
可愛らしい音色が静かな宿に響き渡る。
「ちょっと待ってねーー!」
ベルの音が聞こえたのか、奥の方から若そうな女性の声が聞こえてきた。
しばし待っていると、笑顔がよく似合う快活そうな女性がやってきた。
「はーい、お待たせしました! この村唯一の宿屋、『金獅子亭』へようこそ!」
良い笑顔で出迎えてくれたのはいいが、『金獅子亭』とは名前負けし過ぎではないだろうか。
金の要素も、獅子の要素もまったく感じないのだが。
「10日ほど泊まりたいんですが」
「了解です! お嬢さんお一人ですか? それともご家族とご一緒ですか?」
「お嬢さんじゃないですし、お一人です」
「あ、あれ? それはそれは失礼しました! それではお一人で10日間の宿泊ですね! 食事はどうなさいますか? 一応、朝昼晩と三食付いております!」
「じゃあ三食ともお願いします」
「かしこまりました! 10日と三食付き合わせて、金貨1枚になります!」
差し出してくる両手に金貨1枚を乗せる。
女は受け取った直後、「あ!」と大声を上げた。
「申し遅れました! ここの女将のフィーと申します! 10日間よろしくお願いします!」
「こちらこそ。それでなんですが、食事は今日の夕方からお願いできますか?」
「はい、任せてください! それでは201号室へどうぞ、鍵はこちらになります!」
桶とタオル、部屋の鍵を渡されて階段へと案内される。
キィキィと、うぐいす張りのように鳴り続ける階段を上がっていく。
ひんやりとした空気が漂う廊下を進むと一番端の部屋に止まった。
「何かあれば下にいますのでお呼びくださいね! そ れではごゆっくり!」
そう言ってフィーは下へ降りていった。
宿は全部で5部屋しかないみたいだ。
少ないと思ったが、人もあまり来なそうな村だし、この部屋数で事足りるのだろう。
そんなことはさておき、さっそく扉を開け部屋へと入る。
前世のホテルと比べてしまうとやはり劣ってしまうが、この安さだししょうがないかなとも思えるな。
先ほど購入したバックパックを床に置き、ベットに腰掛ける。
さて、これからどうしようか。
一応は冒険者を続けるが何か目標が欲しいな。
力が必要という目標はあるが、それは決定事項である。
それまでの工程をどうするか決めなければならない。
手っ取り早く力を手に入れる方法·········。
一朝一夕で強くなれるなんて思ってない。だがそれでも、できる限り早く強くなりたい。
なんだか願望だけが先走りしているような感覚だ。
別に冒険者にこだわる必要はないが、強さの基準がランクでわかるし金も稼げる。
じゃあランクを上げることに専念するか?
でも、それには相応の力が必要だ。何かいい方法はないものか······。
いい案が浮かばないな。
とりあえずこの街では10日間滞在して、旅を続けよう。
そう思いながら横になった。
「お客さーん! お食事の用意ができましたー! 下で待ってますよー!」
扉の奥からフィーが呼んでいる。
フィーが階段を登ってきた辺りでもう目が覚めていた。
だって、床が鳴ってうるさいんだ。
ベットから立ち上がり階段を降りる。
1階の食堂には、他にも5人の客が食堂に集まってるようだった。
5人組は大きな丸テーブルを囲んで食事を取っている。
確かこの宿、5つの部屋しかなかったはずだが?
飯だけ食いにきた客かな。というか、物珍しそうにこちらを窺う視線が絶妙にウザイ。
席へつき、テーブルに用意された食事を見た。
「あ、早かったですね! 今日の夕食はパンにカポカと牛乳を煮込んだスープになります!」
「いただきます」
「めしあがれ!」
カポカとは聞いたことなかったが、食べてみたらかぼちゃだった。
かぼちゃスープならぬカポカスープはなかなかいけた。
お代わりも用意してあるとの事なので、遠慮なくいただくことにしよう。
フィーに空になったスープの皿を渡すと、5人組で食べている客の男女2人がこっちへ近づいてきた。
「君が僕ら以外の客かい? めずらしいね、いつもは僕ら5人で貸し切り状態なのに。良かったら名前を教えてくれないかい?」
「こんなバカ男は放っておいていいよ、お嬢さん。ひとりで食べてるなら一緒に食べよって誘いにきたの」
キザったらしい男を後ろへ追いやり、女の方が前に出てきた。
ってか、またお嬢さん呼びか。
髪でも短くしたら男に見えるかな。一々訂正すんのめんどくさい。
まあいいや、あまり気にしないようにしよう。
「僕は男です。お誘いですが遠慮しておきます」
「え、男なのかい!? 本当に? 本当に──げえっ!!」
「ごめんごめん、男の子だったのね。でも、ひとりで食べるの寂しくない?」
「いえ、別に大丈夫です。お構いなく」
「そっか、じゃあこの街でなんかあったらあたし達に相談してね。一応、この街で唯一の冒険者だから力になるよ」
キザ男を女が裏拳で黙らせた。
断わられた女は男の襟首を掴みながら席へと帰っていった。
あの5人組がカミーラの言っていたパーティか。
いつもは貸し切り状態って言ってたし誰かが1部屋を2人で使うのかな。
でも、こういうのって早い者勝ちだし、気にすることはないだろう。
お代わりしたスープも飲み終わり、さっさと部屋へと戻る。
桶に溜まった水で体を拭いて、寝る準備も終わった。
下からは先ほどの5人組の話し声などが聞こえる。
アイツらのランクはどの程度なのだろうか。
ランクが高いのならば1度戦ってみたい。
……ったく、俺はいつから戦闘狂になったんだよ。




