5人組のパーティ
朝日の光が閉じた瞼に直撃する。
眼球を焦がすような眩しさに目を開けた。
寝起き独特の微睡みの中、太陽の位置を確認する。おそらく9時くらいだ。
今、宿にはフィーの気配しか感じ取れない。
あの5人組はおそらくギルドに行って、依頼を受けてるんだろう。
「ふぁぁあ」
ちゃんとした熟睡ができたのは久しぶりだ。
拷問の時は眠るという状態じゃなかったし、森のときは常に気を張っていてゆっくりとはできなかった。
さて、用事があるのは昼からだし、それくらいまでもう1度惰眠を貪るとするかね。
横になって至福の二度寝に……フィーが来たな。
コンコン、と部屋の扉を控えめにノックされる。
「おはようございます。お客さん、起きてますかー?」
「今、起きました」
「それじゃあ朝食作りますので下でお待ちください」
朝だからなのか、昨日とは違って声量を抑えてしゃべるフィー。
確かにお腹すいたな。
桶の水で顔を洗い、鹿ローブを羽織ってから階段を降りる。
昨日と同じ席へつき、少しばかり待つ。
「お待たせしました、庭で採れたてのサラダに目玉焼きサンドにカポカスープです。昨日、お客さんがお好きそうだったので、また作りました」
「ありがとうございます。いただきます」
朝食を食べ進める。
うん、この優しい甘さがいい。
具が溶けきって、トロトロ具合も最高だ。
スープを飲み干してから自分の格好を見た。
そういえば、鹿のローブがあるからあまり見えないが、なかなかアブノーマルな格好をしている。
「この辺に服屋はありますか?」
「ありますよ。宿を出て少しまっすぐ行ったところにあります」
よし、昼までは時間があるし、まずは服を買うか。
さっさと朝食を終えて、宿を出る。
この世界の住人は朝が早い。
もうすでに、村のメインストリート付近は活気で溢れている。
そのメインストリートをフィーに聞いたとおり進む。
周りを見ながら散策していると、赤く塗られた服の絵が書かれた看板を見つけたので、さっそく中へ入る。
中は色々な服があり、所狭しと並べられていた。
こんなにあるってことは、この村で唯一の服屋なのかな。
俺は服にあまり頓着がないので適当に選ぶことする。
数ある中から無難な黒の長袖の服と、同じ形の白の長袖を手に取る。
次はズボンだ。オシャレな人はパンツとも言う。
こちらも無難な茶色のズボンを選んだ。
もう少し買おうかと思ったが、また別の村や町で買うことにしよう。
机に頰杖をつき、気だるそうにしている店員のところに持っていく。
「これください」
「1500レリンド」
ということは銀貨1枚と、銅貨5枚か。
ある程度、お金を崩しておいて良かった。
ジャラっと机に硬化を置いた。
「まいどあり」
それにしてもフィー以外、ここの村の店員は態度が悪い気がする。
······あー、なんとなく分かったかもしれない。
日本での客は、神のように扱われていたからかな。それに慣れちゃったってことか。
確か海外じゃ、お客は神様扱いはされてないんだよな。
さて、もう用事は終わったし宿に戻るか。
部屋で着替えて適当に筋トレや魔力操作で時間を潰す。
魔力操作とは、その名の通り魔力を操作することだ。
俺がやっているのは放出した魔力を任意の形に変える訓練。
これを続けることによって、魔術の威力や規模、精度を上げれると本で読んだ。
しばらくすると、いい時間くらいになったのでギルドへ向かうことにする。
扉につけられた小さな鐘がギルド内に響く。
中へ入ると5人組が机で談笑をしていた所だった。
俺がギルドに入ってきたのに気が付くと、昨日の女の方が手を振ってくる。
別に手を振り返せるほど仲良しなわけでもないので、軽く会釈をしてから受付へ行く。
「クルルさん、こんにちは! ······すみませんがギルド長はまだ帰ってきてないので、ちょっとあちらで待っていてもらえますか?」
カミーラは申し訳なさそうな顔をして、5人組の隣にある席へ手で示した。
まぁ、少し俺も早く着きすぎた感があるしな。
「わかりました」
首肯してから席へ座る。
カミーラは紅茶と茶請けを用意して俺の席に置いてくれた。
おお、久々の甘味だ。さっそく頂こう。
まずは、茶請けのクッキーみたいなやつから手を伸ばす。
あ、このお菓子おいしい。でも、クッキーではないな。
シットリしてるしカントリーマ〇ムみたいな食感だ。
更にカントリーマ〇ムへ手を伸ばそうとした時、俺のティータイムを邪魔する奴が現れた。
そう、さっき手を振ってきた女である。
旧友であるかのような感じで気軽に声をかけてきた。
「どうしたの? 依頼しに来たの? あ、そのお菓子もらっていい?」
「いえ、違います。ギルド長を待っているだけです。あと、お菓子はあげません」
「いいじゃん、一つくらい。というか、なんでギルド長なんか待ってるの?」
······ちょっとウザイなこの女。俺のお菓子を勝手に食いやがったし。
しょうがない、こういう奴はハッキリ言わないと分からないだろう。
「なぜ、あなたにそんな事を言わなければならないんですか?」
少々、突き放した言い方をすると、お菓子を勝手に食った女とは別の女が近づいてきた。
歳は俺よりも上だ。
というか、この5人パーティ、俺より歳上しかいない。
「アンタ、昨日からなんなの? シアンがせっかく声かけてあげてるのに、そんな言い方ないんじゃないの?」
「大丈夫だよ、アミロ! 落ち着いて、ね? ね?」
青筋をヒクヒクさせながら、そんなことを言われた。
学校に1人は居るよな、こうゆう女。
それで合唱会とかになると「男子がちゃんと歌ってくれない!」って言って泣きながら教室から出ていくんだよな。
あー嫌だ嫌だ。関わりたくないね。
ウザイ女もといシアンは、怒っているアミロを宥める。
何故、シアン以外にこの女を止めてくれないのかと、他のパーティメンバーに目を向ける。
頭を抱えている者、睨みつける者、オドオドしてる者、それぞれが別々の反応をしていた。
はぁ。揉め事は起こすまいと考えてたのに。しょうがないか。
「別に頼んでませんし、逆に迷惑なんですが?」
「──!! アンタねぇぇっ!」
ほらな。
こういう女はちょっとでも煽ってやればすぐにキレやがる。
そうすれば、次の行動が自おのずと読める。
アミロはシアンの制止を振り切り、俺の首襟を掴もうと手を伸ばしてきた。
流石におニューの服を破かれたら堪らん。
なので、俺は立ち上がり、アミロの首を掴む。
誤解が無いように言っておくが、正当防衛である。
「ぐぅ············ぅぅうっ!」
「ア、アミロ!? ご、ごめんなさい! 気に触ったのなら謝るから離してあげて! アミロが死んじゃう!」
「そ、そうだね。僕からも謝るから、離してあげて欲しい」
「貴様ぁっ! アミロから手を離せ!」
「ひ、ひぃ······!!」
他のパーティメンバーからも声が掛けられるが、無視をして首を締め続ける。
アミロは締まる手を必死に離そうと、俺の腕を引っ掻いている。
なんで他の皆が謝るんだ?
だって、悪いのはこの女だろう?
他の人の謝罪なんて必要ない。
俺の敵に回ったのだから殺されても当然だ。
──この世界は、そういうルールなんだろ?
「ちょ、ちょっと!? クルルさん、何してるんですか!?」
「この女の人が僕の首襟を掴もうとしたので、やり返している所です。ところで、ギルド長は来ましたか?」
「い、いえまだです······ってそんなことよりアミロさん離してあげてください! 本当に死んじゃいます!」
カミーラはこう言うが、俺は首を絞める手の力をさらに強める。
あ、でも殺してしまったら冒険者を続けられなくなるな。
この世界でも多分、殺人罪とかあるだろうしな······。
それは少々いただけない。やるならバレないところで、だな。
犯罪は犯罪と認識されなければ犯罪にはならない。
そろそろ離してあげよう──と、したのだが、俺のことを「貴様」と呼んだキレ男が、しびれを切らしたのが目に見えてわかった。
そして有無を言わず、腰に帯剣していた両刃剣で俺に斬り掛かってきた。
──悪いが、それは下策だ。
俺の首目掛けて振り下ろされる剣をギリギリまで引きつける。
寸前のところで、首を掴んでいたアミロを盾にした。
両刃剣は止まらずアミロの背中を斬り裂く。
ギルドの床は鮮血が飛び散った。
それも結構な量です。可哀想に。
背中をざっくりと斬られたアミロ、仲間を斬ってしまったキレ男。
アミロの首を離してあげると、そのまま倒れてしまった。
それをシアンが受け止める。ナイスキャッチ。
「き、貴様ぁぁあっ!」
「いやいや。それ、お前が斬ったんだからな?」
背中から血を流し続けるアミロを指差して言った。
すぐさま、カミーラはアミロに駆け寄って治癒魔術を掛けている。
「──はいはい、そこまで」
ギルドの中に声が響き渡る。
それはこの5人組でもなく、俺でもない。もちろんカミーラでもない。
声の出処を見やると、ギルドの扉に背を預ける若い男が立っていた。
「と、止めるなギルド長! こいつ、こいつはっ!」
「ふむ。カミーラ、どうしてこうなってるか説明してくれる?」
「は、はい!」
ふむ、こいつがギルド長か。思っていたよりも若いな。
俺のイメージだと、厳つい顔をしたオッチャンかと思ってた。
カミーラは身振り手振りで説明をすると、ギルド長はうんうんと頷く。
「なるほどね~。それはお前らが悪いだろうね」
「なぜだ!? なぜ俺達なんだ!?」
キレ男は「信じられない!」といった顔でギルド長に問い詰めた。
その拳は血が滲むんじゃないかと思うほど、力が込められている。
「普通に考えて、なんでもかんでも聞いてくるシアンも悪いし、先に手をだそうとしたアミロも悪い。そして一番悪いのはお前だよ、トーロ」
「なっ!? お、俺?」
ほらな、俺は悪くない。
飛びかかる火の粉を振り払っただけだ。
「ああ、そうさ。剣を抜いて相手を殺そうとした。この場合、お前は殺されても文句は言えないよ?」
「で、でも!」
「聞き分けの悪い奴だな。······あ、そうだ! じゃあこうしよう。Dランクのお前とFランクであるクルルくんで決闘をしてもらおう」
ギルド長はそう言うと、俺に何か意味を含めたウィンクをした。
これはEランクは飛ばしてDランクへの昇格試験ってことか?
うん、悪くない。受けようじゃないか。
「わかりました。僕はやりましょう」
「だってさ? どうするよトーロ?」
「お、俺だってやってやる! 貴様、後悔しても知らんぞ!」
なに言ってんだ、後悔なんてするわけないだろう。
「ギルド長、決闘とはどこまでアリですか? 殺してもいいんですか?」
「ははっ、面白いね。だけど殺しはダメだ。それ以外ならいいけどね」
ま、そうでしょうね。
ただ、キレ男──トーロを煽るために言っただけだ。
目論見は功を奏し、青筋が破裂しそうなほど膨らんでいる。
「じゃあ、決闘は明日の昼過ぎに行うことにするよ。2人はそれでいいかい?」
「はい、問題ありません」
「わかった」
「あ、そうだ。宿が一緒だと何かあっても面倒だ。
クルルくんには悪いんだけど、これからはギルドの一室を貸すからそこで泊まってくれるかな? 宿のフィーちゃんには俺から伝えとくからさ」
ふむ、ギルドに宿泊なんて早々出来ることではないだろう。
「わかりました」
「じゃあ明日は昼過ぎにここへ集合ね」
その一言で5人組はギルドを去っていった。
明日は決闘か、楽しみだ。




