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Cランクの強さ






 俺は静寂が支配する村を駆け抜ける。

 先ほど村長が走りながら吹聴していたのだろう、先ほどの村を覆っていた喧騒は鳴りをひそめている。


 村を囲っている柵を通り抜け、北側にやってきた。

 足音をできるだけ鳴らさないようにして、あたりを見渡してみる。


 ───いた。あれが大牙虎(ファングタイガー)か。


 近くに生えている木の影に身を潜め、様子を窺うことにした。


 俺の頭に浮かんでいた大牙虎というイメージは、前世の虎と変わらない容姿であり、魔物の特徴である赤眼に口から生える牙が長いものだけと思っていた。

 だが、まったくもって違っていた。


 全体的に薄汚れた白色に、赤黒い縞模様が体を包んでいる。

 よく目を凝らすと赤黒い縞模様の毛がワサワサと動いているのが分かる。


 さて、様子見はこんなものでいいだろう。

 2匹の大牙虎は急に走ってきた近づいてきた俺に警戒心を顕にした。


 同時に俺は、口を抑えてしまった。


 ······うわぁ気持ち悪っ。見た目が本当に気持ち悪すぎる。

 前世の虎ようにかっこいいものではない。

 確かにシルエット的には虎だが、これは一緒にしてはいけない。


 ──全身を牙が覆っており、赤黒い縞模様の数だけ歯茎が存在していた。


 遠目からは赤黒く見えていた部分、これはなんと歯茎であった。

 この歯茎が体中に沢山あるのだ。

 そして、全身の白い毛だと思っていたものは歯茎から生えている牙・であった。


 ちなみに、本来あるはずの口は無い。なにか食べるときは面倒くさそうだな。

 どちらかというと、大牙虎より多牙虎だろこれ。


 とりあえず見ていて気持ちいいものでは無いので、さっさと討伐してしまおう。


色欲の霧(ラストミスト)


 手を空虚に翳し、魔剣を呼び出す。

 更にイメージするのは槍。

 短剣の時と同じように頭に浮かべた瞬間に槍へと姿を変えた。


 槍の使い方なんで知らないがら試してみたい気持ちがあったのだ。

 槍を両手で持ち、左前に突き出して槍を構える。


 なんだか一休さんの気分だ。


 俺は予備動作をできるだけ無くして、1歩で距離を詰める。

 右側の大牙虎の首目掛けて突き刺す──が、大牙虎は何事もなく首を横に傾けて回避した。


 避けた大牙虎は攻撃の動作に入ろうと脚に力を入れた瞬間、首が宙を舞った。

 残された1体は何が起こったか分からないといった様子で、俺と事切れた大牙虎を交互に見ている。


 ──首が舞った理由は突き刺そうとして、避けられた槍にある。

 素人オレが振るう槍だ、もちろん野生の動物からしたら遅く見えただろう。


 槍は最初から避けられると確信しながら突き出した。

 だから、思考の方向性を変えてみたのである。

 避けられるとわかっているのなら、そこを利用してやればいい。

 油断する奴は、油断するように行動を仕向けられていると気がついた方がいい。


 槍を突き出して避けられた時に十文字槍をイメージした。

 十字槍とは文字通り、十の字の形をした刃がついた槍だ。

 刺しても引いても切れる優れものである。


 そして、攻撃をしようと動き出した大牙虎は油断していた。

 引く槍に刃が増えてるとも知らずに。



 Cランクと言ってもこんなものか。

 油断しなければどうってこともなさそうだな。


 残された大牙虎は仲間の1体が殺されたのを理解し、憤慨し、耳を劈く憎悪に満ちた雄叫びを上げた。


 耳から生暖かいものが流れているを感じる。

 おそらく血だろう。

 音は聞こえているから鼓膜は破れてない。傷付いたのだと思う。


 霧のローブを纏ってすぐにでも殺してもいいのだが、それでは強くなれない。

 俺自身が強くならなければ本当の強さは手に入れられないのだから。


 色欲の霧を十字槍からバスターソードの形を変える。


「───フッッ!」


 素早く魔剣を振りかぶり、正面から斬り倒した。

 うん、やはり剣が使いやすい。それにしても返り血でビショビショだ。



-----------------------------




 ある程度、手作り鹿ローブで顔を脱ぐってからギルドへ向かう。

 作ったばかりだが、ローブも捨てなきゃな。

 とてつもなく血なまぐさい。


 数十分ぶりにギルドの中へ入ると、カミーラが駆け寄ってきた。


「ふえぇぇ!? そそそそその血の量はまずいですよっ! ちょっと待っててください! 今、治癒魔術かけますから!」

「いえ、これは返り血なので大丈夫です。それよりも大牙虎(ファングタイガー)の死体をこっちに持っていきたいので馬と馬車を貸してください」


 あの虎共をその場で放置したまま帰ってきたのである。

 一応、あの虎共を引っ張ってみたのだが、重すぎて全然動かなかったのだ。


「え? 返り血······死体······? 大牙虎を倒せたんですか!?」

「──? ええ、倒しましたが」

「す、すごい!! ただ今馬と馬車を手配しますのでギルドの裏で待っていてください~!」


 興奮したカミーラはそれだけを言い残してどこかへ走り出した。


 言われた通りにギルドの裏へやってきた。

 水魔術で髪やローブについた返り血を洗い流す。


 あのままじゃ気持ち悪かったのだ。許可取ってないけど······いいよね?

 そういえば川に行かなくても魔術で流せばよかったな。

 いやでも、いちいち魔術だと便利すぎてダメ人間まっしぐらだ。気づかなかったことにしよう。


 少しばかり待っていると、御者台に座って馬を操るカミーラが現れた。

 馬車の中には村長も同乗していた。


 ギルド職員って治癒魔術も使えて馬も操れるのか。それともここだけなのかな。


「クルルさん! 村長さんが馬車を貸してくれました! さっそく行きましょう!」


 興奮しっぱなしカミーラに少し引きながら馬車の方ではなく、御者台に座る。

 御者台は2人座れるスペースがあるので狭くない。

 ましてや、俺は体が小さいから余るくらいだ。


 カミーラは首を傾けて頭にクエスチョンマークを浮かべていたが、大牙虎が討伐されたという興奮が勝ったのだろう。

 即座に気にするのをやめていた。


 なんで村長がいる馬車の方にに乗らないのかって? 

 可愛い女の子と汗だく小太り村長だったらどっちの隣に座りたいと思う?

 後者を選ぶ方は人生損してると思う。


「うわぁ······これ、クルルくんがやったんですよね?」

「ええ、そうです」

「見た目に似合わじゅ結構惨いことしゅるんでしゅね······」


 興奮状態から一転し、不快感を顕にするカミーラ。

 口を抑えて今にも吐き出しそうな村長。


 その理由はもちろん大牙虎の状態だ。

 死体の周りは血溜まりができ、当の大牙虎はモザイクが必要な事になっている。


 カミーラは鼻をつまんでから血溜まりを踏まない様に大牙虎に近づいた。


「それでは依頼達成です! クルルちゃ······クルルさんって強いんですね! FランクでCランクの魔物を倒せちゃいますしEランクでも問題なさそうですね! ギルド長が帰ってきたら相談してみます!」

「わかりました。ありがとうございます」


 おい、今、クルルちゃんって言いかけなかったか?

 本人は大牙虎が本当に死んでいるのを確認したら、再び興奮が戻ってきたのか声が大きい。

 2体の大牙虎を馬車に運び出し、村へと帰還する。


「大牙虎の素材はとても高価です。よろしければギルドで売りますか?」

「じゃあそうします」

「はい、わかりました。それでは報酬と合わせてお支払いしますね」


 どのくらいの大金になるのか楽しみだ。

 宿に泊まって、ちゃんとした料理を食べれるくらいの資金になればいいな。



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