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初サバイバル






 あれからドルドの街を出て、道を赴くままに進んでいた。


 両側に木々が生い茂る街道は、森を貫くようにして作られたようだ。

 深呼吸をすると草花の青臭さが、肺いっぱいに広がり心地よい。


 そんな折、俺は街道を外れて森の中に身を隠しながら前へと進むことにした。


 ──理由は2つ。

 まず1つは追っ手のためである。

 今の実力からすると対応できない可能性が高い。

 ましてや歩いているだけでも、かなり厳しいときたもんだ。

 体力も回復しきっていない、しっかりとした食事もしてないため、やせ細ってしまっている。

 魔術で対応した場合、更に追っ手を呼んでしまう可能性が高いので即却下に至った。


 この世界は思わぬ自体が発生することがある。

 そんなことを身をもって実感した。


「とりあえずこの汚れどうにかしなきゃな」


 2つ目の理由がこれだ。

 川を目指して、この体の汚れをどうにかするためである。 

 今の格好は服ごと切り刻まれたせいでボロ布を纏っている状態に近い。

 髪に付着する血の固まった物や、泥などを洗い流したい。

 ましてや、何ヶ月も体を洗えてないので多分臭いだろう。自分の匂いとは分かりずらいものだ。


 霧のローブを纏い、歩くのに邪魔な草木を消し去りながら更に奥へ進んでゆく。



 ん? なんだ? 近くの草むらが動いた気がしたんだが······。


 興味本位でそっちの方へ近寄ってみると、大きな角を生やした鹿が怯えて蹲っていた。

 多分、俺の勝手に漏れ出ていた殺気に当てられ足が竦んでしまったのだろう。


 これもどうにかしなきゃな。

 放っておくと勝手に漏れ出てくるから困る。


 まあ、それはおいおいどうにかするとして、今はこの鹿だ。 


「──さて、お前はどうしたい?」


 怯えたままの鹿の目を見据える。

 殺気を解いても尚、俺と敵対する意思を見せるならば殺す。

 そのまま逃げるのなら見逃してやる。


 自分の中でルール決めて殺気解いた。


 鹿は震える足で立ち上がり数歩下がっていく。

 しかし逃げるために下がったわけではなく、助走のために距離を開けたのだった。


 荒い息を吐きながら、大きな角を俺に向けて突進しようと、蹄で地面を擦っている。


「そうか。お前は死を選ぶんだな」


 小さく呟いた瞬間、角を突き刺さんとばかりに突進してきた。


「来い、色欲の霧(ラストミスト)


 その瞬間、手のひらが鈍く光り、紫紺の魔剣が現れる。

 猛進してくる鹿を半身を躱して避け、魔剣を鹿の首へ、垂直に振り下ろす。

 ヒュッと風切り音がなり、首は宙を舞った。


 首の無くなった胴体は慣性の法則に従って、血が溢れる断面を木にぶつけて動きを止めた。

 ぶつかった木には、まるでハンコを押したように首の断面の血が飛び散った。


 ピクリとも動かなくなった鹿の足首を握って、引きずりながら再び川を目指す。


「よし、今日の飯ができた。······でも、鹿の肉ってちょっと臭いんだよな」


 誰もしゃべる人がいないので独り言が多い気がする。まぁいいだろう。

 それにしても、鹿の肉は少し臭いのだ。獣臭いというかなんと言うか。


 しっかりと下処理をして匂いを消したいのだが、やり方がわからないし、そんな事が出来るほど今の環境は恵まれていない。

 なので、諦めるという選択肢しか無い。


 はぁ、うまいものが食べたい。特に甘いものがいいな。




 鹿を引きずりながら小一時間が歩いた所で、やっと川のせせらぎが聞こえてきた。


 水はとても澄んでおり、底がよく見えるほどだ。

 穏やかな川の流れで小石が転がり、楽しく遊んでいるように見える。


 まずは服を脱ぎ捨てる。

 全裸になってから、鹿の死体を引きずって川の中に入れる。

 川底から飛び出している大きな岩へ器用に乗せて、首の断面を下流の方へ向けて血抜きする。


「これでうまくできればいいんだがな」


 こんなサバイバルな生活したことないし、血抜きなんて素人が満足にできるわけがない。

 これである程度、血が抜けてくれれば御の字だ。


 しかしまあ、これから冒険者になろうと思ってるし、どんどんやって練習していかなければな。


 川の上流で髪と体を流し始めると、血の固まったものがどんどん溶けていく。

 一通り洗い流してサッパリしたのだが、やはり物足りない。やっぱ、石鹸とか欲しいよな。


 無い物ねだりは置いといて、火魔術と風魔術を使って真っ白になった髪を乾かす。

 ボロ布(着ていた服)をジャバジャバと濯いで、そのへんの木に引っ掛けておく。


 下流の方に放置してある鹿の死体を見てみると、もう血は流れ出ていなかった。

 その辺に落ちていた木の枝を火魔術で焚き火を作り、鹿を引き上げて魔剣を呼び出す。


 魔剣って本当に便利。

 一家に一台ならぬ、一家に一振だな。


 呼び出しに答えた魔剣を手に持ち、イメージするのは普通の短剣。


 よし、作業に移ろうか。  

 鹿の肉はもちろん重要なのだが、毛皮も大事である。


 まずは手首、足首を切り落とす。

 肛門から首にかけて一直線に皮膚を切り裂く。

 ······うわ、(はらわた)全部出てきちゃった。


 気を取り直して作業を続行する。

 と言っても、あとは首の断面から毛皮を剥ぐだけなんだがな。


 剥ぎ終わった毛皮を川で洗ってから木の枝で支えを作り、焚き火の隣に置いておく。 

 毛皮を乾かしている間に、ズル剥けになった鹿肉を切ってゆく。

 もちろん、内臓は土に埋めた。まだまだ血が残ってたし、あまり食べたくない。


 肉を一般的なステーキほどの大きさに切って、焚き火で焼いていく。

 流石に全部の肉は食べきれない。

 なので、燻製にして日持ちさせようかと考えている。


「ん、そろそろいいか」


 充分に乾いた毛皮を手に取って大きさを確かめる。

 不格好になった要らない部分を切り捨てると、毛皮は縦横1mくらいの大きさになった。

 毛皮を俺の背中から被せると、スッポリと上半身を覆うことが出来た。

 少しばかり複雑だが、小柄なことに感謝しなければ。


 俺の首の付近にきた毛皮に、人差し指ほどの穴を左右に開ける。

 そこにボロ布になった上着を細長にちぎり、先ほど開けた穴に通してリボン結び。

 その作業を胸と鳩尾みぞおちにも同じものを作る。


 これで簡易ローブのできあがり。

 藍色と茜色が入り混じる空へと掲げて、でき栄えを確認した。


 そんなことをしてる間にちょうど肉が焼けた。

 タレも塩も何も無いので味は肉本来のものだろう。

 たまにはこういうのもいいよな。


 肉に一気にかぶりつく。独特の風味をさせながら肉汁が口の中で溢れてくる。

 新鮮だからなのか、腐っていないものを久々に食ったからなのか、なかなかいけるな。

 咀嚼し、嚥下しながら次の肉を切って焼き始める。



 腹がくちくになった所で地面に寝転がる。

 辺りは静寂が支配する闇に包まれているが、起こした焚き火が自分の周りを優しく照らしている。

 少しばかり1人で影遊びをしたあと、虚しくなってゆらゆらと揺れる火をじっと見つめる。


 しばらくすると眠気がやってきた。重くなってきた瞼に抵抗せずに目を瞑る。


 明日あたりには街に着けるといいな。

 さすがに一文無しはみっともない。さっさと冒険者になって金を手に入れなければ。


「──そういえばあの女、あれから話しかけてこない······な」


 睡魔に意識を刈り取られ、久々にゆっくりと惰眠を貪ることができたのだった。




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