閑話 とある青年の前日譚
激闘による余波で、地形が崩壊している。
元々、観光地として有名だったこの場所は、金色の絨毯のような麦畑があった。
だが、今では見る影もない。
ある場所は泥ができてぬかるんでしまい、ある場所は巨大なクレーターのような物ができている。
ある場所は地面がガラス状になるまで熱された場所ができている。
更にある場所は、死体が所狭しと無造作に置かれている。
腹を斬られ腸がこぼれ落ち、抑えたままの死体。
寒さから耐え忍ぶかのような体制のまま、身体を縮こませ真っ黒に炭化した死体。
何が起こったか分からないと言った様子で、目を見開いたまま氷彫にされた数十人の死体。
スヤスヤと眠るような顔付きをした生首。
四肢欠損や左胸に風穴を開けた死体など多数である。
そして──生者は2人のみ。
足元に死体が広がる中、2人の男は睨み合っている。
少し長い白髪に、何をしても絵になるような浮世絵離れした、整った顔の者。
くすんだ金髪を無造作に伸び散らかし、所々に穴が空いている小汚いローブを纏っている者。
両者は対峙し、雨に当てられながら指先一つ動かさない。
上を見渡せば厚く黒い雲に覆われ、雷雨が降り注いでいる。
次の瞬間、耳を劈くような落雷の音が鳴り響く。
近くの木に落雷し、着火する。
その音を皮切りに、両者は相手に向かって走り始めた。
1人は刀を、1人は剣を持ち、斬り掛かる。
「うおぉぉぉぉ!」
「死ねぇえええ!」
両者の得物がぶつかり、鍔迫り合いが起きる。密着する刃と刃が擦れ出た火花を散らしながら、両者は力のみで押し合う。
徐々に白髪の男が力負けし始め、片膝を付いてしまう。
そこに雷鳴が響き渡り、両者へ向かって落雷が落ちる。
その隙を狙って白髪は数万という風の刃を顕現させ、金髪の男に放つ。
「はっ! 小癪な!!」
不服そうに鼻を鳴らし、風の刃を自らの剣で撃ち落とす。
だが、それを全て撃ち落とせるわけではなく、数万の風の刃がうち終わる頃には身体に浅い傷を無数に作っていた。
「お返しだ──ぜっ!」
金髪の男は目では追えない程の速さで動き回り、白髪の男を斬り裂いていく。
わざとなのか、致命傷だけは負わせずに金髪と同じような無数の浅い傷だけを作る。
「ふっ、ふふふ······あっははは! おそろいだなぁー! 昔もこうやってお揃いにしてたよなぁ!?」
金髪は何がおかしいのか、手に口を当てて笑いを堪えながらそう言った。
対する白髪は難しい顔をして俯いている。
暫し、そうしていたが、何かを振り切ったように顔を上げた。
その瞳に決意を宿しながら。
「──もう、終わりにしよう」
白髪の人物の周りだけ、世界が歪む。
陽炎のように、靄がかかったようにぼやけ始める。
「はぁ······そうするか。これで、もう俺たちは終わりだ」
対する金髪は、自身の影から闇としか形容ができない"何か"が水のように溢れ出る。
その溢れ出た闇を体に這わせ纏わす。形を成していく闇は、漆黒の鎧に変化する。
両者に言葉は無く、立ち尽くす。
先程落雷した木が燃える小気味よい音と、降り止まない雨の音だけが二人の耳を支配する。
燃える木が一際大きな音を立て弾けた。腕の太さはある枝が、雨によってできた水溜りに落下した。
その音が両者の合図となり、再び両者が激突する。
砂煙は舞う暇もなく吹き飛び、地面は捲れ、2人の真上の雷雲は爆風で散り、頭上に青空が顔を出す。
太陽の日差しが天使の架け橋を作り、立っている1人の男に光を浴びせたのだった────
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「はっ! 夢っ!? 夢なのか!?」
青い空や雲に黄色い星が描かれた掛け布団を行き良いよく押しのけ、ベットから飛び起きた青年。
青年は今までのが夢だと分かり、頭をガシガシと掻いた。
にしてもやけにリアルな夢だった。でもあの2人なんて知らないしなぁ。ラノベ読み過ぎたかな。
「やっべ! もうこんな時間だ! 早く用意しないと~!」
時計が視界に入った青年はそう言って、大学への入試試験を受けるために準備を始めるのだった。




