領都は活気がありました。
領都は王都以上に大きくて活気ある都だと聞いてましたので、人が多いのは驚きませんでしたが、想像以上にいろんなところから声も聞こえ、商店や露店も立ち並んでいました。
領を横切って走る、大河のゾントハイエンから引き上げられた魚を売る人や、荷物を載せたリヤカーみたいなものを引いた商売人だか配達人が道に溢れてひっきりなしに行き交う。子供も自分の親が売っている串焼きや、果実水を買ってもらえるよう客引きに余念なく、負けずに道端では見慣れない織地を高く広く重ねて目を引いている露店があったり。ここの商業地はキッチリと露業スペースが決められているらしく、隙間なく沿道添いに露店と屋台が並んでいるものの、売り物が道を塞いで邪魔になることはない。
声をはりあげ客足をとめさせ、少しでも目が合えば売り物を広げて、目端が利くなら客のいでたちから必要になりそうなものを少しでも高く売りつけようとする、まさに商売人が主人公な都。
遠くに目をやれば、ゾントハイエン川の支流を堀として城下に敷いた、主城塔が見えます。主塔は小高い丘の上に威風堂々にそびえたち、主塔の背後には針葉樹林が連なる深淵の森が広がります。こちらからは主塔以外には主塔と並ぶほど大きな円筒の防御城塔、大きなお屋敷になっている主館、城門塔と一体の盾壁が望めるだけです。
高さと厚みを誇る最大の難関である盾壁が国境地帯襲撃から主塔を守るために眼下を睥睨して威嚇するかのように見えますね。あとは、ぐるりと囲む高い壁に阻まれてよくわかりません。
大きな城塞は、更にその城塞の周囲を大きく包むように防御壁が張り巡らされていて、その内側にも建物がいっぱい建てられているそうです。
領主に会うためにどれだけの跳ね橋と城門と守衛管理人たちを潜り抜ける必要があるんだろう、大変そう……そんなことが頭に浮かびます。
今私がいる市場は新市街地にあり、城塞都市として発展した旧市街地が建物を上に伸ばし広げても足りなくなったために旧市街地を広げるため新たに作られた新しい城下町です。
そのため、旧市街地には貴族や昔からの商売人、資産家がそのまま残り、私財にあかせて新市街地へと向かった人の跡地を買い取り、こぞって旧市街地を劇的リニューアルして磨き上げたその結果、洗練された王都随一の美麗な都市を造り上げています。いわゆる観光都市としての役割を担っています。
それらと並行して、旧市街地が貴族、上級官僚、大商人が居を構えるとすると、そこから外れた一般大衆の人たちなどの、その他大勢の人は新市街地で新たに住まいを構えることになる。こちらは高級路線ではなく、実際領土の商売上の生命線、主戦場となる一般商取引が行われております。活気だけならこちらが圧勝です。旧市街地が狭くなったことを背景に、拡張性あるよう柔軟性をもたせた都市計画が施行され、道は広く京都のように碁盤の目のように張り巡らせています、。建物も上に伸びる事が出来るように堅牢な建物とすることを条件に建築許可が降ろされているそうです。
日本の建築基準法みたいだな。
とりあえず、今まで語った事はエル様の受け売りそのままなのですけど。
市場は活力とエネルギーがあふれているので、静かな日本人気質の私では、最初は楽しいのですが旅の疲れも出てヨルンくんの実家が用意してくれているだろう必要な身の回りの品を買えたら、ひとまず休息を取りたいです。
市場をひやかして、物の価格帯などを頭になるだけ入力しつつ、わら半紙に思いつく限りの今知った知識を書き込みと私は頑張りました。
ちょこちょこ気になる食べものや香辛料、小物はエル様が買ってくれています。
エル様がお金持ち太っ腹な方で本当に助かります。
次に、エルさま作の魔道具を商業ギルドに売却して同時にエルさまの連絡箱の確認ですね。
到着した領都の商業ギルドは流石に大きくて、建物は2階までが石造り、その上の3階より上は木造建築の大きな5階建で立派です。どうやって建築したんでしょうか。人力?
やっぱり、魔法?こんな人混みの中での人力建築には限界があると思うし。併用してるのかな?未だ魔法の一般的な取り扱いとか世間の認知度とかを掴めてないから、不明なことだらけです。
商業ギルドでは商品の納品が大量だったり大きかったりするためか、馬車寄せもかなり大きく充実しています。
私とエルさまは人(使役獣の同伴は大丈夫)専用の正面玄関から入り、入口近くの総合受付カウンターらしきところまで歩きましたが、あちこちから人の視線を感じました。
私は口すっぱく髪色については注意を受けているので、編み込みをまとめて旅人風にフードの中に突っ込んでかつ、頭部全体をベールで包むという重装備です。瞳の色はエル様が持ってた色眼鏡をかけ、さらに幻影魔法を使うという(もちろんエル様さまがかけた)徹底ぶり。
…というわけで、異世界生活期間が超短期なにわか眼鏡っ子の私への熱視線ではありません。隣の美青年エルマールさまですよ、もちろん。確か、とても人気があるんでしたね。
入口から受付までのこの距離でもう人物認識されてるって…
えっと、誤解されると困るので私は離れていてもいいですか?
だめ?
見習いが主を避けるなんてダメに決まってるでしょとか言われてしまい、距離をおけないです。私がいても何の役にも立たないし、今のところ仕方ないので目立たないよう空気に徹してますよ。私空気、空気だからコッチミナイデ。
「ダメですよ?カリンさんが私の目の届く範囲にいないと私の精神上、とても気になるんです。
ヨルンくんからもずいぶん説明を受けてご理解されているでしょう?何度も言いますけど、私が困るんですよ、カリンさんがどこかでうろうろされていると。
別に私の世話をしていただく必要ありませんので、そのために私から離れてしまうぐらいなら、隣でヨルンくん謹製の『一般常識覚書 』の中身をそらで言えるぐらいに熟読していてください。
彼が時間をかけて作成した一覧表ですよ、いつ抜き打ちで本当に覚えてるか確認されてもおかしくないでしょう?また愚鈍だの能無しだのと言われて悔しい思いをしたいです?」
エル様に断りを入れてから、お水でも買いに行って居心地悪いこの位置から外れようと努力して?話しかけたら、この返しです。一息に言われました。
ええー?抜き打ちテストは嫌ですが、ご主人の身の回りのことをしない従士なんてことがばれたら、団長至上主義のヨルンから、それこそ私がゴミ扱いされないですか?そこは秘密でお願いします。
それに、ほかの人との交流ないから、判断できないけど、少女の域を出ない私みたいな見掛け倒しでも成人前の子がエルさまの隣でぼやぼや張り付いてたら、エルさまの好みのタイプが女ではなく少女だと疑われませんか(ロリコンだよ)?
最終的に有望な夫、婿候補に余計な虫が着いたと貴族さまたちに勘違いされて、嫌がらせされるのは私でして、なるべく危機回避したいのです!ご理解いただきたい。
「ヨルンくんに怒られるのは嫌ですが、あちらにいるご立派なご主人とお綺麗な奥様がずっとこちらを見てるんです。その…私には厳しいお顔をされているので、もう少し離れていたいんですけどエルさまから私。できれば領都訪問した初日からエルさまの事情に巻き込まれたくないんです、怖いんですけど!
ああ…コッチ来ますよ?コッチ来てますって」
焦り顔で訴えてみます。
「…あの方たちは確か前、ご夫婦の愛娘を私にどうかと打診された…。まぁ申し訳ないですが興味ないとはっきり言えないので、私のような若輩者ではと、遠回しにお断りしたからでしょうか。その後も何度か申し出がありましてね、私からはもちろんですが、父からも重ねて辞意の旨お伝えしたんですけど。もっとしっかりと意思表示をしていればよかったんでしょうね。貴族の慣例に倣ったんですが、どうにもなかなか引いていただけないんですよ」
微苦笑浮かぶお顔は美人ですが、それ結局あっちの愛娘振ったんでしょ?
だから、カリンさんはお気になさるような事ではありませんよ?とか言ってくれましたが、見習い従士として特段気にするような人ではないということでしょうが、私がエルさまの横でいたら、娘にとってはダメな人筆頭じゃないですか。
「適齢期の子供を持つ貴族の割に、父母は私に甘いんですよ。前に言ってたように恋愛結婚推奨派であり、実力主義者ですからね。騎士での仕事振りとギルドでの私の働きを考えれば、まだまだ当面は結婚時期を先延ばししても大丈夫そうです。それに、私の実家はお金にも家格にも困ってないですから、お嫁さんの所持金や家柄なども必要としてません」
だから、大丈夫ですよ?と言ったって私は知りませんから。
エルさまの将来の嫁は、エルさまのお好みで好きな人を選べるんだって。
うん。わかった。
でも、そのままのことを吹聴したら、更に嫁になりたい娘とその家族からのアプローチが面倒そうなので、聞かなかったことにしますね。
「そうなんですか、実家からもお断りしたのに、まだ諦められてないんですね。大変ですね(モテまくりなのも)。よくわかってなくて申し訳ないですが、エルさまは、それ程に貴族様たちから見て自分の娘と縁を結ばせたいという方なんですね?では実際のところ、エルさまはここの領内ではどのぐらい婿、夫にしたいランキングに入るんですか?」
「らんきんぐ?というのがあまりわかりませんが、多分この領都内で言うなら、僭越ながら順番つければ五指に入るそうですね私」
「はぁぁぁ?五指ですか……。やっぱり私離れていた方が無難ですよね?そうですよね?!王都に負けないこの領で、五本の指」
えーーー、えーー。それって、超優良物件じゃない。綺麗な顔は鑑賞するにはいいけど、実害あるなら、いらないんだけどそんな危険物。壊れやすい硝子細工は見て眺めるだけで実用性ないから、私は要らない派です。
平穏な生活がいいのにーっ!
「そうですか。そうなんですね。それならば、そんなにお断りが大変ならエル様はもう少しその美顔を幻影魔法で崩すとか汚すとかしたらどうですか?好意を寄せられすぎるのも大変でしょうし、私も面倒、いえいえ、ええと、嫉妬に怯……いえ、失礼しました…私の失態の尻拭いでご迷惑をおかけする機会が減るはずですし」
心情ダダ漏れですみません。
徐々に近づく貴族夫婦が怖いんですよ!
「彼らが私と縁付いきたい理由として、一つに私はすでに成人して長いため、魔法騎士としての功績、商業ギルドでの実績もあること、親から引き継いだ爵位もありますね。次に貴族なら早く婚約者が決まっていることが多い中、決まった相手がいないこと。さらに辺境領として王都から離れているここの領では高位貴族がそれほどいないため、独身貴族の私に集中しやすいこと。黒い髪が示すように魔力が豊富であることかと」
何よそれ、いっぱいあるじゃない!
もう少し控えめでいいのよ?
お金持ちなのは、親から引き継ぐ爵位もあるけど、騎士団からの収入に商売ギルドの魔道具売上と、富豪で当然ですよね、その若さで。
「貴族の子が王都で王族や上級貴族の目に止まるように王都を目指す中、地元の領地には目ぼしい未婚の男女が少ないのです。未婚の若い、王都行きにあぶれたご令嬢が、手が届く範囲に存在する上、他の令嬢に自慢できる程度には好物件だとして私が見られているんでしょう」
さらに本人は言わないけど、眉目秀麗ですしね、エルさま。
実績あって金持ちで、才能豊かな美麗な独身男性…狙われるわ確実に。
私からしたら問題人物なだけじゃない。
地雷踏まずに過ごせるのか?
後見人にはエルさまではなく、団長の方がよくない?結婚願望ある人たちからのやっかみを集める立場でしょ、ここ。
「ん?え。ええ、えええ。奥様のドレスで遅いながらも、なんか、もうすぐ着きますよエルさま。ど、どうしたらよいですか?私このままエル様の隣に張り付いていて本当にあの豪奢な扇を投げつけられませんか?」
奥様の扇を持つ手に力入っているのが、ここからでも確認できて怖いのです。
気合いで見えてないふりして、従者っぽくエルさまの近くで控えてますが、焦ります。
「彼らの愛娘はこの領都では評判の美姫とされているんですよ。ずっとこちらの領で過ごされるので珍しく王族狙いではないか、何か他に理由があるんでしょうね。ただ、私からすれば、王都に行けば各領で特に選りすぐりとされた姫が集まってきてますのでね…こちらで彼女に対する女神もかくやという表現はどうかと思えるような気はしておりますが。彼女が美神なら王都行けば、女神だらけですね?」
ふふっと笑ってるけど、うわ、辛辣!
うん、わかった。田舎だからここでは女神ほどの美女とされてても、王都の美女集団のいるとこでは埋もれる程度ってことよね?
ましてや、毎日鏡で自分(美人)を見て、美の基準が普通の人より高くなってるだろうし。
絶世の美女クラスで、やっと美しいと認識するぐらい?
厳しいな!
それに、研究大好きな彼があんまり興味なさそうな分野の、つまり煌びやかなキラキラ世界が好きそうなご両親ですね。そのキラキラゲットのためエルさま狙い撃ちのお嬢様と研究のためならお金と時間を湯水のように使うエルさま。価値観合わないだろうなぁ…多分。
ツラツラ考えたところで、貴族様然としたご夫婦到着。
「お久しぶりですグロタンディーク卿。こちらでお見掛けするとは偶然ですね。お聞きしたところ領を離れておられたそうですが、お帰りになられたんですね」
エル様の正面に到着した貴族だろうスーツ?燕尾服?なんか違うな、を着た立派な体格(太った)の金髪くせ毛、青い目紳士に話し掛けられました。
「久方ぶりでございますね。お顔を拝見できたこと大変うれしく存じます。
ええ、おっしゃる通り、こちらには先刻戻った次第です。ギルドへ連絡もありまして立ち寄りました。これから騎士団へも城登し帰還の報告をするつもりです」
「ごきげんようグロタンディーク様、つつがないご様子でなによりでございます。
さようでございますか、すでに本日は予定がございますのね」
ご婦人が残念そうにため息つきます。少しわざとらしい?
わかってしてるのか。そうだろうな。
「久し振りに別室にてゆっくりとお茶でもご一緒できたらと思いましたのに」
宝飾品が施された美しい扇を口元に当て、奥様がしっとりと話しかけられてます。
「それは残念ですね、是非次回に機会を設けましょう」
これは本気なのか、世辞なのか。エル様の貴族仕様返事は読めません。
「そうですわ!では、領内にて当面このままご滞在されるようでしたら、私共の居城で晩餐会を近く催す機会がございますの。子爵をお招きしましても失礼ではございませんか?」
良いことを思いつきました風で、提案してます、美容に命掛けてそうな奥様が。美しいけれど、退廃的な雰囲気漂う方です。
自分なりのこだわりがあるようで、ある意味貴族らしさがよく出てます。
ドレスがまず、この新市街地では浮いてまして、クリノリンで膨らんだドレスは、この人が多く集まる建物の中では誰かとすれ違いざまに、ドレスの端に接触しそうです。効率第一なこのギルドには、あんまりそぐわない。それに貴族様だからか、奥様は堂々としてます。そのために先ほどから歩く速度はかなり低速ですが道の譲り合いは全くする必要がないと思っているようで、かわりに周囲の皆様が必死で避けてます。
さっき近くにいた商売人が、奥様のいきなりの方向転換についていけず、当たってお怒りを受けるくらいならと、勢いよく後ろにジャンプしてました。さすが、生き馬の目を抜く新市街地です。見事なジャンプでしたよ。
偶然後ろの着地点にいた無防備な商売人にぶつかり、しこたま叱られてましたけど。
「ありがたいお招きですね。もちろん、都合がつきましたら、ご招待をお受けいたします。また、別の時に詳細をお聞かせいただければと…」
エル様はここではっきり行くとは言ってません。都合がついたらと、にごしてます。
おまけに詳細を聞いてからってことは、詳細を直接聞いたらってことでしょうか?招待状送り付けただけじゃダメってことなのかな?
貴族って難しい。異世界語では謙譲語とか丁寧語とか、どうなってるんだろう。こちらで会話したときに伝えたい事が私の不思議能力の限界から適当に変わって相手に伝わったら、ややこしそうだな。
あっという間に、不敬罪とかで捕まりそう。
どうやったら言葉の内容を検証できるんだろとか考えてたら、いつの間にか私の隣に立っていた(ビックリしたよ!隠密スキルとかあんのか?!)総合受付のお嬢さんがなんか紙を押し付けてきました。
このお嬢さんは、日本でのライトノベルに出てくるギルド受付嬢に推薦したいぐらい、可愛い上、幼い顔だちなのに巨乳(ここ大事)なのです。異世界あるあるをここで発見しました。
「ご歓談中申し訳ございません。エルマール様へ商業ギルドのギルド長よりお伝えしたいことがあるとのことですが、いかがしましょう?」
なんか、伝言メモみたいなのを小さな声音と一緒に受付嬢から渡されました。
伝言メモを読み、ギルド長からの呼び出しメモですよと、ずっとエルさまに話しかけているご立派そうな貴族夫婦とエルさまとの話題の合間をみて伝えてみましたよ。
そしたらキツイ目で扇の影から奥様に睨また。うーん、会話の流れを読んで伝えたつもりだったけど、ダメっぽい。
「ここのギルドはいつもいつも子爵と話しが弾んでいたら、必ず邪魔してくるのではないのかしら。それに見習いの貴方もも少しは場を読むようにしなければ、主の品位を落としましてよ?」
奥様から八つ当たり!
「誠に申し訳ございません。適切な判断もできずに、ご不快に感じられたなら、心よりお詫び申し上げます」
とりあえず、謝っておきました。なんか、やっぱり面倒な人っぽい。
「ギルド長からの伝言ですか。ではなるべく早く伺うように致しましょう。なにぶんギルドでの私はまだまだ若輩者ですので、ギルド長の多忙な時間をつぶすような真似は避けたいですし」
顔に謝意を軽く載せて、エル様は貴族ご夫婦とお別れのご挨拶をしています。
私はなるべく顎を引いて、目線は奥様のドレスに刺された複雑な刺繍を眺めてます。
「では失礼しますね」
爽やかな微笑みを浮かべつつ、さっさとお別れらしい。グイグイ腰を引っ張って、総合受付横の階段を上がって2階に連れて行かれた。
結局、貴族様の名前聞き取れなかったな。
「ところで、ギルド長のお話に、私が混ざっても大丈夫ですか?扉前でお待ちしておきましょうか」
国内最大級のギルド長って、日本で言うなら大手銀行の頭取とか?スケール違う?
日本の人口より少ないし、もっと小国の経団連長ぐらいかな、合ってる?
「カリンさんには散々言いましたけど、目の届く範囲内に出来る限り居てもらいたいんです。それが、王族だろうと他国の要人だろうと関係なくです。私が大丈夫と考えられるまでは、基本私の近くにいてくださいね?」
ダメな時にはお伝えしますから。わかりました?ちゃんと言うこと聞いて、ここで待ってて下さいよ?ウロウロしたら怒りますから!
ほぼこんな内容が後から続きました。
だんだんと聞き分けのない子供扱いされてまして、なんだか最後はエル様のお小言が、お母さん風に聞こえてきたわ、やだ幻聴?
同じような扉が左右続いた先の最奥の行き止まりになった箇所。大きな木製の扉に金塗装、扉には今までなかった装飾が施され、ある程度ほかのドアとの差別化が見られます。
掛けられたプレートには「ギルド長室」、目的地に着いたらしい。
扉前には、案内人もいないし、呼び出しベルもありません。
って、エル様がコンコン、ガチャで開けました!
他に来客あったら、どうするの?ギルド長怒らないか?
焦って顔色変わる私と、全く平然としたエル様。
「ああ、久し振りだねー、元気でした?」
私たちに気づいた多分ギルド長、全く怒らなーい。
おおらかなのか、子細は構わないひとなのか。エル様の身分とギルドへの貢献度からエルさまだけが特例なんでしょうか。
体型と顔どちらも丸い。
色白、温和、そして、体積大きい。
大きな執務机なんだけど、普通サイズに見えてます。
「ええ、ご心配ありがとうございます」
「いつも人に囲まれてて難儀ですね、下でも捕まってしまって。」
「まぁ、先程は助かりました。あの夫婦は諦め悪くて疲れますから。理由付けても、なかなか引き下がってくれないんで、魔法でギルドの窓でも割って、有耶無耶のうちに置き去りにしようかどうか、考えてました」
確かに、好意もいきすぎると迷惑ですしねー。ただその好意に気づいてるなら、私をエルさま好きの方からは見えない位置に配置するような配慮をお願いします!
「いやいやいや?窓は、最近やっと強化ガラスにしたばかりですので割られると困ります。大変困ります。結構な費用がかかってるんですよ。魔獣が空から襲撃して来ても、たいていのものは跳ね返せる強度にやっとできたんです、ですが子爵の魔法では耐えられないでしょう。本気で困ります。」
柔らかい言葉遣いの困りますのクレームは、エルさまに全く響いてませんけどね。
「ま、それは置いておいて、そちらの若いお嬢さんは?貴方が女性を、それも年頃の女性を側に付けるのは珍しいですね?一応私ギルド長ですし何かこちら関係で把握しておくべき事があるんですか?」
「これから彼女をギルドで見かけることも多くなるはずですから、ギルド長に先に紹介しておこうかと考えまして」
「わざわざありがとうございます。それは珍しいですな?」
眉がヒュっと上がって驚きの表情?
「彼女の名前はカリン、カリン・デ・シャンラ。ただ名前はカリンからカロリーナ、カタリーナあたりに変えることになるかもしれません。こちらのギルドにはカリンの名前で登録しています。成人するまでの保証人兼後見人は私です。現在190です。幼い外見から少し見えないかもしれませんが、すぐに成人します」
ん?
私の名前変えるかもって?聞いてませんよ?
「ただ、成人のそれまでは、私と騎士団長が保護する予定ですが、ギルドでも商業ギルドとしてではなく、青のギルドとして彼女の……をお願いしたい。それは、赤からの……があってもです」
ん?赤?青?一体何の隠語?エル様の話す言葉も微妙に細く小さくなって聞き取り辛くなってしまいましたし。
これ聞いてていい話題?
いきなりわからない単語で戸惑います。
ギルド長は、ちょっと困り顔から大きな困り顔になってますが、相変わらず、笑顔はキープです、ちょっとだけ、唇ピクってしたけど。
「赤ですか?真紅ではなく?」
赤? 青?真紅?
「確かにこちらの商業ギルドにおいて、青はギルドの出発点とも言えるのですが、その……青の魔導士……関係づけるには…ではありませんか?」
青の魔導士?
話しが見えない。
私ここにいてもいいのかな。
それにギルド長まで微妙に声音が小さくなって、はっきり聞こえないし。
ここには3人しかいないんだから、もう少しハッキリ発音してくれたら、まだ聞き取れるんだけど。
どちらも笑顔キープしてますが、ついていけてない私は聞き取りに四苦八苦。
その後の話も見えなくて、だんだん飽きてきました。
「さて、カリン。この方は国内全ての商業ギルドの中でも一番の裁量権を持っているギルド長です。これからカリンに何か心配事ができた場合には直接彼に助けを求めるようにしてくださいね?」
なんか突然会話に混ぜられた展開ですが、助けが多いのはいいことですので、丸顔ギルド長様になるだけ愛想のいい笑顔でご挨拶します。
ギルド長っていうと、ここの最高責任者ってことですが、こんな平民な庶民の私がいきなり単独で訪ねても本当に大丈夫でしょうか。
ただギルド長は位が高いため、私の最後の手段、切り札になっていただけるなら、大変心強いです!
「ご紹介頂きましたが、カリンと申します。突然のお願いに困惑されたかと思われますが、精進致しますので、何卒よろしくお願い致します」
こんなものでいいですか?
笑顔と少しだけ頭を下げて、伺いますが、ギルド長は継続して困惑、曖昧な顔つきです。
「ギルド長、わかってもらえましたー?」
ハッとギルド長がエル様を見ます。
エル様かなり砕けてますがいいの?
「え?そ、そうですね。」
ギルド長の混乱が伝わりますが、赤とか青とかで迷いがあるの?
意味わかんないから、どうしたらいいのか、私も分かりません。
「カリンさんですね?子爵は時々無理難題を押し付けては、高笑いされるような腹黒いところがあるのですが、才能にはかなり恵まれた方です。味方にすればこの上なく頼りがいのある人なので逆らわずに、隣で守られていらして下さい」
うん。そうですね。
エルさま、頼りにしてますよ!
腹黒くて高笑いって…酷いもんだけど…。
コクコクうなづきます。
「商業ギルドとしましても、青の魔導士の教えを違えることはしぃません。
貴方が助力を望むときで、ギルドは拒みませんから。これから何ぃかあったら相談して下さぃね」
困り顔は相変わらずですが、ぽにゃぽにゃお手てでキュっと両手を握られました。
なんていい人なんでしょう。さりげなく、エル様の人格が腹黒とか落としていますが、知りません。
相変わらず混乱してるからか、言葉おかしいし。
「ありがとうございます。心強いお申し出に感謝致します」
最大限の笑顔でお答えします。ギルド長の両手ギュっもそのままにして更に私も力を加えてみます。
伝われ!私の『これから是非宜しく』のお願いココロ!
「…………さてさて。ギルド長本人も今これで確認できたでしょう?彼女は大魔導士に連なる青の担い手ですよ?紹介する必要性をわかっていただけますよね」
その言葉にうなずくギルド長ですが、一体何をさてさてと確認したんでしょう?
手を握ってたから、そこからギルド長が心読みしたとかでしょうか?
サトラレの能力持ちとかあんのか?
でもさ、心読みされてたとしても、何の確認ができたの?
ちなみに青の担い手ってなんですか。
本人抜きで進めるのはよくないと思います!
「今後カリンからギルドに販売委託をお願いする品があります。青の技術革新と並ぶ事になり得るものです。
今後混乱が予想されますので、ギルドとしてある程度の人員整理を先に進めておくことを提案します」
私の名前が出たので、私に関係ありそうですが、謎が深まるばかりです。
青の技術革新?
何ですか〜それ。
もしかしてその販売委託ってチーズ鱈のことでしょうか?
「青の技術に並び立つ!?真実ですか!」
ギルド長、声が大きいです。
大分驚いてるようで、ぽややんとしたお顔なのに、キリっと引き締まったように見えるような?
見えないような?
「そうです!カリンさんの持ち込む予定の物は本当に今後容易ならざる事態を引き起こしかねないものなのです。私は早く用を済ませて研究所に戻り、この素晴らしい出会いについて検証したいことがたくさんあるんです」
研究熱がぶり返してしまった模様。
「ふーむ。…確かに人事異動や情報統制なんかは、次にギルドにご提示された品物次第ですが、後手後手にに回ってしまうと大層厳しくなりますね。今なら多分まだそれほど問題ないでしょうし、エルマール様がそこまで心酔するものであることが、何よりの判断材料です。今のうちになんとかしておく必要性はありますね。うむ、確かに」
小さい目をしばらく閉じてじっと静かに考えてたギルド長が、ため息つきつつも目を開き答える。
「わかりました。これから赤をなるべく外しておくよう…うむ、致しましょう。なにぶん、エルマール様がわざわざ進言されるほどですからね。ええ、ただし!その品を私が確認してからです。私が本当に納得できるものでなければ、このお話は聞かなかったものと致しますから!」
赤を外すかぁ………。はぁぁ、出来るかなぁ、やるしかないかー。
呟きとともに、またため息ついたギルド長は少しすすけて見えます。
どうにも無理難題を押し付けられたようです。お気の毒に…。
しばらく黄昏てたギルド長がエルさまから私へと視線を移し、まだ私が状況の展開についていけてない事をぽかーんとした様子から察したのか優しげに問いかけてきました。
「そういえば、ご存知ですかカリンさん?商業ギルドは青地を背景に麦とペンと人を簡略化したものを図案に起こし、これをギルド証としています。
ギルド登録されると渡されますが……ええ、こちらですね」
と言いながら見せてくれたのは、ギルド長の後ろの壁にペナントのように張られているギルド証の大型版です。
私も登録した時にもらった、簡易な登録証にも印刷されてました。
「この背景の青は一面の実り豊かな緑の大地を、麦は食、ペンは教育と知識、この人型は子供を表しおりまして、『安らかな未来』を象徴しています。これは商業ギルドを興した異国人である青の大魔導士がこれを商業ギルドの精神的根源であるとし、語るべき壮大な将来の理想の姿として作ったとされています」
ふーん。
このペナント的なものを作ったというのは、もしかして物流革命を起こした方でしょうか。物流革命した人=青の魔道士。
確かに食料と教育はとても大事ですよ。
近代的な考え方で、平和主義でいいと思います。ここの世界感に合ってるかは知らないけど。
「彼は、黒い髪、黒い瞳、底知れない魔力、創作魔法などの力を有した特別な人と聞いています」
黒い髪、黒い瞳は私と同じだ。
「…それに、どんな人の言葉も理解し、人助けをした人格者であることも」
大きな丸顔に埋もれかけの瞳が、真摯に私に語りかけます。
なんか威圧感が…。
「商業ギルドの発起人が人格者で、その考えが現在まで廃れず活かされているんですね」
何を言ったらいいのか?何を求められているのか、よく分からなかったので無難で当たり障りない言葉で返しておきましたよ私。
こっちをジッと見つめるのはおやめください!
「……カリンさん、先に謝っておきます」
「カリンさん、ごめんね?」
ギルド長とエルさまから突如謝られました!
何ですか?
何かしましたか?
何かされましたか私?
心あたりないんですけど!
「これまで私と子爵がここの部屋で話した言葉ですが、会話が途切れるたびに違う言語を使い分けておりました。ご存知でしたか?」
「私もです、4回は変えましたよ?」
!!!!!
ギルド長!エルさま!
はぁぁぁぁ?
違う言語?
同じ国の言葉じゃなかったの?!
知らないんだけど!
「カリンさんはその異なる言語毎に不思議そうにすることなく、当然のように、その会話に正確な回答されてましたね。話している内容の理解も出来ているようでしたね?」
なにそれ、なにそれー!
人を引っ掛けといて、ギルド長ポヤポヤしてるくせに、外見詐欺じゃないか!
っていうかエルさまはギルド長につきあってたから、このことわかってましたよね??
っていうか、自分から私を試したでしょ?!
2人は違う言語を駆使した会話をしていたと?
フランス語の後に中国語話して英語で応答とか、そんな感じのことをこの人たちはしてたの?
異世界言語能力ー!
いい仕事しすぎてましたー!
「これでも子爵も私も立場上、盗聴されると困るような仕事や機密を扱いますからね、複数の外国語を使えます。諜報されている時の為、暗号用にと古語と言われる難解な言葉も少しだけですが使えるんですよ」
てへ、ちょっと照れるよね?自慢してるみたいかなって可愛いそぶりしても、無理ありますから。今更ですからねギルド長?
「ですが、私は先ほどの子爵との会話でも全てを理解できていたわけではないので、会話を成立させるためにかなり想像力で内容補完して頭を働かせておりました。カリンさんは私たちの話しを苦も無く理解されていましたよね?
ただ言葉が理解できても知識が追いついていなかったようですね。そのお顔でよくわかりました」
「カリンさんはわかりやすいですからね」
ギルド長もエルさまにも異世界言語能力がばれてるようです!
どうしよう。
って今更どうしようもないけど!
「カリンさんは、話しかけられる直前の言語を使ってそれと同じ言語でお返事されました。切り替えた全ての多言語でです。そのように私には認識させられました。ただカリンさんはご自身の言葉を使って答えられてたんでしょう実際には。驚きましたが、よくよく、しっかりと観察してみれば、唇の動きと実際私が聞きとった言葉がどうも違うというか噛み合わないのです」
んー?
日本語しか話してませんし、実際のとこ。
ところでギルド長は読唇術も持ってるんですね。
「推測ですが、カリンさんが使えないはずの言語でも『カリンさんがその言語で話していた』と私は不思議なことに脳内認識しているようですね。唇から発している言葉に違和感があると知っているのにもかかわらずです」
「実際にカリンさんが多言語を駆使出来るほどの知識はないと知っていたのにもかかわらず、違和感を感じさせないのは不自然です。なのに、読唇術ができる者も、説明がつかないのに、それぞれ頭の中でそれが適切なものと判断してしまう。カリンさんがおかしな能力を発揮しているのに、この異常に気づける人はほぼいない。人の意識に干渉できる能力をお持ちだが、無意識で悪意はありませんね」
ふおおおおおお。
分析されてますが、まずくない?!
「あのカリンさん?焦っておられるようですが、私たち団長やディクルトもヨルンくんも、みんな知ってますから別に今更心配されることはないですよ?」
「え?え?えええ?ご存知だったんですか?」
異世界言語能力知ってるの?
なんでですか?
「何で知ってるんですと顔に書いてるようですが、知らないはずないでしょう?」
そうですか?
「カリンさん初めて商業ギルド行ったとき、ギルド規約全部読んでたでしょう?何の単語の意味かはわかってないのに全部で五か国語読み込んでましたから。私も最初は訳がわからなかったです」
そういえば、エル様暇つぶしに私が読み終わるまで隣で仕事してましたね。
確かに、知らない単語出てきたら教えてもらいました。
ええ、そうでした。
異世界言語能力のおかげで、単語の説明をして何の単語か意味がわかれば複数の外国語で書かれた単語も意味が同じなら、その後は全部日本語に内容変換してくれることをその時確認したんでした。
そうでした。
「青の大魔導士はどんな人の言葉も理解できたと先ほどお伝えしました。黒い髪、こげ茶の瞳は先ほど鑑定させていただきましたので、わかっております」
なんか、勝手に鑑定されてた。商業ギルドの最高責任者は伊達ではなかった!丸くて善人に見えるのに。
超芸達者だった。
「青の担い手であると私が確認した以上、商業ギルドとして総力を持ってカリンさんの守護を約束します。恩人であり師である青の大魔導士に連なる方です。ギルドは貴方の一助となりましょう」
「ただ、赤を外すのは本当大変なんですから!物見てからでないと実際外していくのはしませんからね?」
ギルドから異世界言語能力保持者だったらしい青の大魔導士の親類認定されました。
ただなんか赤を外すのは、かなり嫌らしい。
うーん?
商業ギルドが後ろ盾になってくれたんですけど、大魔導士の存在が大きすぎませんか?
私がたいがいショボい人なので、がっかりさせてしまう未来がつらい。
エル様、私に商業ギルドの後方支援まで取り付ける必要性がありました?
商業ギルドにチー鱈とクラッカーを納品したらいいのかな。
あ、団長の許可いるのか…。
青の大魔導士様と同じ働きを期待されてたらどうしましょう。いや、それ無茶振りですからね。
そんな期待に満ちた目で見ないで!!
あれか?憧れのレンジャーに会えた子供みたいなもん?
商業ギルドの創設者と同じぐらいの功績をもたらすとかって期待なの?!
いやいやいやいや。
むりむりむりむり。
やっぱり、私が役立たずでつらいです!




