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美咲のオヤジの配達記録簿  作者: 空雨 素志


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第八話 新しい計画



 浜田麻衣の部屋を調べた翌日。


 圭司と美咲は、事務所の机に資料を広げていた。


「やっぱり、あの写真が気になるんだよな」


 圭司は、麻衣の部屋で見つけた写真を思い出していた。


「荻武志さんとの写真ね。恋人同士というより、仕事関係の人に見えた」


「ああ。麻衣さんはベルチホールディングスで働いていた。荻という男も、ただの常連客じゃない気がする」


「それで、会社のことを調べてみたんだけど……」


 美咲はパソコンの画面を圭司に向けた。


「ベルチホールディングスって、飲食関係だけじゃなくて、いろいろな事業をやっている会社みたい。クラブRAINも、そのグループの一つだね」


「荻は、その全クラブを任されているんだったな」


「うん。それで、気になる情報を見つけたの」


 美咲は画面を操作した。


「ベルチホールディングスが、新しいクラブを出店する計画を進めていたみたい」


「新店舗?」


「そう。まだ正式発表はされていないけど、会社関係者の話では、かなり具体的なところまで準備が進んでいたらしいよ」


 圭司は椅子を引き寄せた。


「それが麻衣さんとどう関係するんだ?」


「そこまでは、まだわからない。でも、この計画に関係している人物がいるの」


 美咲は、別の資料を開いた。


「徳山エリカさんのおじさん」


「エリカさんの叔父さん?」


「そう。ベルチホールディングスの新店舗計画に関係する立場の人みたい。会社の経営にも影響力がある人物らしいよ」


 圭司は腕を組んだ。


「エリカさんの親戚が、会社の新店舗計画に関わっていたのか」


「それだけじゃないよ」


 美咲は、もう一枚の資料を指さした。


「荻武志さんの名前も出ている」


「荻も?」


「うん。新店舗の準備に関わっていたみたい。クラブの運営経験があるから、出店計画の実務を任されていた可能性があるね」


 圭司は、少し考え込んだ。


「待てよ。麻衣さんも以前、ベルチホールディングスで働いていたんだよな」


「そう。だから、あの写真も仕事関係だったんじゃないかな」


「なるほどな。店の客とキャバ嬢という関係だけじゃなく、会社を通じたつながりがあったわけか」


 美咲はうなずいた。


     *


 その日の午後、上野から圭司に電話が入った。


『野上さん、少し確認したいことがあるんですが』


「どうしました?」


『ベルチホールディングスについて調べています。実は、私の方でも新しい店舗計画があったことを確認できました』


「やっぱり、そうでしたか」


『何かご存じなんですか?』


 圭司は、美咲が調べた内容を説明した。


 新店舗の計画が進められていたこと。徳山エリカの叔父が関係していたこと。そして、荻武志も計画に関わっていたこと。


『なるほど……。偶然にしては、少し気になりますね』


「麻衣さんがベルチホールディングスで働いていたことも関係あるんじゃないですか?」


『そう思っています。浜田さんが会社を辞めた理由も、まだ詳しくわかっていませんからね』


「荻という男は、いったい何者なんでしょう」


『会社の中では、クラブを任されていた人物のようです。ただ、彼については、もう少し調べる必要があります』


 上野は少し間を置いた。


『それから、徳山さんのおじさんが、どうして新店舗計画に関わっていたのかも確認したいですね』


「エリカさん本人は何か知っているんでしょうか?」


『今のところ、はっきりしたことはわかりません』


「そうですか……」


『引き続き調べてみます。何かわかったら連絡します』


 電話が切れた。


     *


「なんだか、話が大きくなってきたね」


 美咲が言った。


「最初はキャバクラの女の人がマンションから落ちてきた事件だったのにな」


「でも、ベルチホールディングスの新店舗計画が関係しているなら、麻衣さんが亡くなった理由も、何か関係しているのかもしれない」


 圭司は、麻衣の部屋で見た写真を思い出した。


 荻と麻衣。


 二人は並んで写っていたが、確かに恋人同士という雰囲気ではなかった。


 まるで、仕事を終えた上司と部下が記念に撮った写真のようだった。


「荻とエリカの叔父は、新店舗の計画にも関わっていた」


「じゃあ、荻とエリカにも何か関係していたのかな?」


「そこがまだわからない」


 圭司は資料をまとめた。


「何かつながりがあるはずだ」


 美咲は、画面に表示されたベルチホールディングスの企業情報を見つめていた。


「それにしても、エリカさんのおじさんが関係しているというのが気になるね」


「ああ。本人は何を考えているんだろうな」


 二人は、それ以上の答えを見つけることができなかった。


     *


 その夜、上野は警察署でベルチホールディングスに関する資料を整理していた。


 新店舗計画。


 徳山エリカの叔父。


 荻武志。


 そして、浜田麻衣。


 この四つの名前と事実は、何らかの形でつながっている。


 ただ、今の段階では、麻衣の転落死と直接結びつく証拠はない。


「……新店舗計画が、事件に関係しているのか」


 上野は資料を閉じた。


 麻衣はなぜ、ベルチホールディングスを辞めたのか。


 そして、なぜ荻は彼女をクラブRAINを薦めたのか。


 さらに、新店舗計画にエリカの叔父が関わっているのはなぜなのか。


 上野は、次に調べるべきことを頭の中で整理した。


 事件の背後には、まだ知られていない大きな事情が隠されているようだった。

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