↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美咲のオヤジの配達記録簿  作者: 空雨 素志


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/48

第八話 声


圭司の家


机の上には、高木の会社から入手した資料と、microSDカードから復元されたデータが並んでいた。


上野は画面に表示された領収書を見つめていた。


「古川の名前が、何度も出てきますね」


美咲が言った。


「うん。しかも、同じ取引の領収書なのに、金額が違っていたり、実際には存在しない取引先のものが混じっていたりする」


「高木さんは、これを調べていたんだな」


圭司が言う。


上野はうなずいた。


「おそらく。高木さんは会社の不正に気づき、証拠を集めていた。そして、それを誰にも見つからないように隠していた」


「ゲーミングマウスの中に、か」


「会社の中で物がなくなることが多かった。高木さんは、誰かが自分の持ち物を探していると感じていたのかもしれません」


美咲が腕を組む。


「だから、妹さんへのプレゼントも会社に置かず、自宅に送ったんだね」


「そう考えると、荷物が消えたことにも説明がつく」


上野は、配送記録を机の上に置いた。


「古川は、高木さんが証拠を隠していることを知っていた。だから、証拠を探していた。高木さんが事務員に荷物を送らせたと知り、中に証拠が入っていると思ったんでしょう」


圭司は黙って聞いていた。


「では、古川さんは、どうやって配達の時間を知ったんでしょう?」


美咲が尋ねる。


「まだ分かりません。ただ、社内で手配された荷物です。誰かから聞いたか、配送の情報を確認できる立場にあったのかもしれない」


上野は続けた。


「古川は荷物が届く時間に合わせて、高木さんの部屋を訪れた。そこで高木さんと口論になった」


「そして、殺してしまった……」


美咲の声が少し小さくなった。


上野は答えず、資料を一枚めくった。


「同じ階の住人が、事件当日の夕方、高木さんが男性に呼び止められているのを見ています。時間ははっきりしませんが、古川が訪ねてきた可能性はある」


「口論になって、殺してしまったあと、俺が配達に来た」


圭司が言った。


「古川は高木さんになりすました。部屋の中から声をかけ、荷物を玄関前に置かせた。そして、野上さんが帰ったあと、荷物を持ち去った」


「中に証拠があると思っていたからね」


美咲がつぶやいた。


「でも、箱の中身は妹さんへの誕生日プレゼントだった」


上野がうなずく。


「そうです。古川は証拠を手に入れたつもりだった。しかし、実際には何も見つからなかった。だから、証拠はまだ高木さんの部屋に残っていた」


美咲が顔を上げる。


「それで、マウスの中に隠してあったんだ」


「今回の推理は、そこまでです」


上野は資料をまとめた。


「もちろん、これだけで犯人と断定することはできません。ただ、古川には動機があり、証拠を探していた可能性があり、事件当日のアリバイもない」


圭司は腕を組んだまま、何も言わなかった。


上野が顔を向ける。


「圭司さん?」


「……いや」


「何か気になることでも?」


圭司は少し迷った。


「配達の時の声なんだけどな」


「声?」


「部屋の中から『そこに置いてください』って言われた。あの時、俺は相手の顔を見てない」


「はい」


「古川が高木になりすましたっていうのは、筋は通ってると思う」


圭司はそこで言葉を切った。


「でも……声が、何か違ったような気がするんだ」


美咲が圭司を見る。


「違ったって?」


「古川の声ではない気がするんだよ。ただ、今になって思い返しても……」


圭司は自分の記憶を探るように、目を伏せた。


「何か、引っかかるんだ」


上野はしばらく圭司を見ていた。


「声だけでは、判断できません」


「分かってる」


「ただ、その違和感も記録しておきます」


上野は立ち上がった。


「古川を重要参考人として、もう一度、詳しく話を聞きます」


---


夕方。


古川は会社から帰ってきたところで、チャイムがなる。


 開けると上野が立っていた。


「警察です。」


「古川さんですね?」


「はい」


「重要参考人として家宅捜索を行います」


 次々と警察が部屋を調べる。


 一人の刑事が「ありました。」


 その手には、高木が送ったプレゼントだった。


「少し、お話を伺いたいのですが」


古川の表情が固まる。


上野は落ち着いた声で告げた。


「ご同行をお願いします」


古川は、すぐには答えなかった。


視線が一瞬だけ揺れる。


そして、ゆっくりとうなずいた。


「……分かりました」


上野は古川を警察署へ連れていく。


事件は解決に向かっているように見えた。


だが、圭司の耳には、あの時の声が残っていた。


――そこに置いてください。


古川が本当に、あの部屋にいた男だったのか。


圭司には、まだ確信が持てなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。